141 / 209
第三章 幻獣魔王編
勇者魔王、幻影鎧竜について説明する
しおりを挟む
「それで、まずはどういうことなのか説明してもらえる?」
真っ先に現場に到着したのはダーリア率いる地方軍だった。
前方で相対したダーリアは長槍を構えながらもまずは問いかけてくる。
グランプリに参加する彼女一人で聖地にきたのかと思いきや、彼女以外にも二名ほど本戦参加にこぎつけた猛者がいるらしく、部隊総出とまではいかなかったもののある程度の数がダーリア達の応援に来ているらしい。なお、その間国境警備が手薄になるとの懸念もあったが、いざとなれば帰還魔法タウンポータルで戻ればいいと割り切っているようだ。
ダーリア達は魔王鎧を着た俺を警戒しながらも襲いかかろうとせず、慎重に間合いを詰めてきた。そしてお互いこれ以上踏み込めば間合いに入るぐらい絶妙な距離で止まり、部下達にもそれを徹底させた。その間俺から全く視線をそらさずに。
「それを説明するにはまずパラティヌス教国連合の近状から話さなきゃならんのだが、どこまで把握してる?」
「およそ五百年前に鎧の魔王を討ち果たした勇者は実は魔王を倒しきれてなくて今まで封印していた。けれどとうとう魔王を滅ぼして帰還、ついでに魔王軍のうち妖魔軍を撃退した。そう聞いてるけれど?」
その認識は世間一般で広まっているものと同じなので問題ない。どうやらイレーネが魔王として一切活動していないのもあって、実は勇者は魔王に乗っ取られたことを疑う者はいないようだな。
「なら話は早い。この鎧はこの前イレーネが装備してた魔王鎧だぞ」
「大きさがぜんぜん違うじゃないの。いえ、元はリビングアーマーだから装備者の体格に合わせて変形するのかしら……? じゃあそっちの鉄のドラゴンは?」
「かつて鎧の魔王が使役してたリビングアーマーらしい。ドラゴン用の全身鎧だから中身はがらんどう。魔王鎧を装備した俺の言うことは聞いてくれるみたいだな」
「へえ。それで、ニッコロが魔王鎧に操られてないって誰が信じるの?」
ダーリアの鋭い指摘にどう言い訳しようか迷うな。現に魔王鎧に乗っ取られてないのは彼女がそうしているだけに過ぎず、その気になれば助けを求める間もなく肉体の主導権を明けたわす破目になりそうだ。そして魔王鎧が無害だと証明する術が俺にあるはずがない。
「それは心配しなくていい」
困った俺に助け舟を出してきたのは勇者イレーネだった。彼女は俺の横を通り過ぎてダーリアの前に立つ。魔王装備をしていない彼女は冒険者のような軽装備だったが、それでも聖女かつ勇者だった彼女の発する雰囲気は一味違く感じた。具体的には頼もしくて救いを求めたくなる希望の象徴、だろうか。
「魔王鎧は完全に僕のものだ。僕そのものになったって言い換えてもいい。僕が健在な以上はダーリアが心配する悲劇は起こらないよ」
「五百年かけて大人しくさせるのが精一杯だったイレーネに鎧の魔王になったニッコロを倒せるの?」
「勿論。それを神と僕の誇り、そして……この剣に誓おう」
勇者イレーネは聖王剣を抜き放つ。太陽の光を受けてより一層輝くそれは、まるで希望の光のように温かく優しく、そして力強かった。
ドワーフ達はその業物に圧倒され感嘆の声を漏らし、ダーリアが咳払いで気を引き締めさせる。
「……まあいいわ。街中や渓谷で狼藉を働かせないで頂戴。後始末が面倒だわ」
「その言い方、まるでダーリアなら魔王鎧を討伐出来るって聞こえるけれど?」
「出来る出来ないじゃなくて、するわよ。ドワーフの誇りと先人達に誓ってね」
「……そう」
わずかに勇者イレーネの声が低く冷えたものになったのを俺は聞き逃さなかった。
「大丈夫、問題無いって。僕だけじゃなく聖女のミカエラや白金級冒険者のティーナだっているんだし」
「出来れば誤解を招く真似はよしてほしかったのだけれど、まさかそのドラゴンの鎧でグランプリに参加するつもり?」
「そのつもりさ。ああ、別に優勝をかっさらうつもりは無いよ。あくまで魔王軍の襲来に備えた予防線だから」
「その言いっぷり、まるで本気出したら誰よりも早くゴール出来るって聞こえるわよ」
「幻獣魔王を退けたっていうドワーフの勇者がいたら自信が無いかな。この子、超竜軍に属してたかなり上のドラゴンが装備してた鎧らしいし」
「……人類は日々進歩するの。骨董品が通用するだなんて軽々しく思わないことね」
おいおい、どうして勇者イレーネとダーリアが一触即発な雰囲気になってるんだ。それにこの勇者イレーネの物言い、普段のイレーネとほぼ変わらないんだが。俺達が共に旅をしていたのは魔王イレーネだよな?
「今の僕、魔王イレーネは勇者イレーネの人格を元に人並みに活動出来てるからね」
「うわっ……! ば、おま、急に耳元で喋るな……!」
俺の疑問を払ったのは魔王鎧、魔王イレーネだった。過敏に反応しかけたのを何とかこらえて平然を装った。それでも俺の挙動不審は何人かの目に留まったらしく、特にミカエラとティーナが笑いをこらえてきたのが恥ずかしかった。
「勇者イレーネと魔王イレーネが同時に存在する現象、当然だが説明してくれるんだろうな?」
「言っただろ、僕は『僕』で『僕』は僕。もう僕が『僕』から離れても『僕』は僕のままだよ」
真っ先に現場に到着したのはダーリア率いる地方軍だった。
前方で相対したダーリアは長槍を構えながらもまずは問いかけてくる。
グランプリに参加する彼女一人で聖地にきたのかと思いきや、彼女以外にも二名ほど本戦参加にこぎつけた猛者がいるらしく、部隊総出とまではいかなかったもののある程度の数がダーリア達の応援に来ているらしい。なお、その間国境警備が手薄になるとの懸念もあったが、いざとなれば帰還魔法タウンポータルで戻ればいいと割り切っているようだ。
ダーリア達は魔王鎧を着た俺を警戒しながらも襲いかかろうとせず、慎重に間合いを詰めてきた。そしてお互いこれ以上踏み込めば間合いに入るぐらい絶妙な距離で止まり、部下達にもそれを徹底させた。その間俺から全く視線をそらさずに。
「それを説明するにはまずパラティヌス教国連合の近状から話さなきゃならんのだが、どこまで把握してる?」
「およそ五百年前に鎧の魔王を討ち果たした勇者は実は魔王を倒しきれてなくて今まで封印していた。けれどとうとう魔王を滅ぼして帰還、ついでに魔王軍のうち妖魔軍を撃退した。そう聞いてるけれど?」
その認識は世間一般で広まっているものと同じなので問題ない。どうやらイレーネが魔王として一切活動していないのもあって、実は勇者は魔王に乗っ取られたことを疑う者はいないようだな。
「なら話は早い。この鎧はこの前イレーネが装備してた魔王鎧だぞ」
「大きさがぜんぜん違うじゃないの。いえ、元はリビングアーマーだから装備者の体格に合わせて変形するのかしら……? じゃあそっちの鉄のドラゴンは?」
「かつて鎧の魔王が使役してたリビングアーマーらしい。ドラゴン用の全身鎧だから中身はがらんどう。魔王鎧を装備した俺の言うことは聞いてくれるみたいだな」
「へえ。それで、ニッコロが魔王鎧に操られてないって誰が信じるの?」
ダーリアの鋭い指摘にどう言い訳しようか迷うな。現に魔王鎧に乗っ取られてないのは彼女がそうしているだけに過ぎず、その気になれば助けを求める間もなく肉体の主導権を明けたわす破目になりそうだ。そして魔王鎧が無害だと証明する術が俺にあるはずがない。
「それは心配しなくていい」
困った俺に助け舟を出してきたのは勇者イレーネだった。彼女は俺の横を通り過ぎてダーリアの前に立つ。魔王装備をしていない彼女は冒険者のような軽装備だったが、それでも聖女かつ勇者だった彼女の発する雰囲気は一味違く感じた。具体的には頼もしくて救いを求めたくなる希望の象徴、だろうか。
「魔王鎧は完全に僕のものだ。僕そのものになったって言い換えてもいい。僕が健在な以上はダーリアが心配する悲劇は起こらないよ」
「五百年かけて大人しくさせるのが精一杯だったイレーネに鎧の魔王になったニッコロを倒せるの?」
「勿論。それを神と僕の誇り、そして……この剣に誓おう」
勇者イレーネは聖王剣を抜き放つ。太陽の光を受けてより一層輝くそれは、まるで希望の光のように温かく優しく、そして力強かった。
ドワーフ達はその業物に圧倒され感嘆の声を漏らし、ダーリアが咳払いで気を引き締めさせる。
「……まあいいわ。街中や渓谷で狼藉を働かせないで頂戴。後始末が面倒だわ」
「その言い方、まるでダーリアなら魔王鎧を討伐出来るって聞こえるけれど?」
「出来る出来ないじゃなくて、するわよ。ドワーフの誇りと先人達に誓ってね」
「……そう」
わずかに勇者イレーネの声が低く冷えたものになったのを俺は聞き逃さなかった。
「大丈夫、問題無いって。僕だけじゃなく聖女のミカエラや白金級冒険者のティーナだっているんだし」
「出来れば誤解を招く真似はよしてほしかったのだけれど、まさかそのドラゴンの鎧でグランプリに参加するつもり?」
「そのつもりさ。ああ、別に優勝をかっさらうつもりは無いよ。あくまで魔王軍の襲来に備えた予防線だから」
「その言いっぷり、まるで本気出したら誰よりも早くゴール出来るって聞こえるわよ」
「幻獣魔王を退けたっていうドワーフの勇者がいたら自信が無いかな。この子、超竜軍に属してたかなり上のドラゴンが装備してた鎧らしいし」
「……人類は日々進歩するの。骨董品が通用するだなんて軽々しく思わないことね」
おいおい、どうして勇者イレーネとダーリアが一触即発な雰囲気になってるんだ。それにこの勇者イレーネの物言い、普段のイレーネとほぼ変わらないんだが。俺達が共に旅をしていたのは魔王イレーネだよな?
「今の僕、魔王イレーネは勇者イレーネの人格を元に人並みに活動出来てるからね」
「うわっ……! ば、おま、急に耳元で喋るな……!」
俺の疑問を払ったのは魔王鎧、魔王イレーネだった。過敏に反応しかけたのを何とかこらえて平然を装った。それでも俺の挙動不審は何人かの目に留まったらしく、特にミカエラとティーナが笑いをこらえてきたのが恥ずかしかった。
「勇者イレーネと魔王イレーネが同時に存在する現象、当然だが説明してくれるんだろうな?」
「言っただろ、僕は『僕』で『僕』は僕。もう僕が『僕』から離れても『僕』は僕のままだよ」
1
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる