136 / 209
第三章 幻獣魔王編
聖女魔王、晩餐会に招待される
しおりを挟む
結構降りてきた。昇降装置のための縦穴沿いに階段が設けられてて吹き抜けになってるから、見上げればまだ空は見える。けれど既に頂上階層が遥か高くなってるな。これ登る時は絶対に昇降装置を使わせてもらおう。
そうして俺達がやってきたのは、渓谷の両岸を渡して築かれた橋、というより渡り広場だった。まだ河まで結構な高さがあるから増水しても流される心配はあるまい。高くそびえる両方の崖は凄く圧迫感があるものだ。
そんな広場にはひっきりなしに飛竜が離着陸し、また多くのドワーフが飛竜の調整や意思疎通などグランプリに向けての準備に取り組んでいた。参加しない俺にも熱気が伝わってくる。
「でもこのドワーフ達、ほとんどグランプリに出場しないんだよな?」
「通称グランプリって呼ばれる王者決定戦の他にもレースは当日含めて何回か開かれるみたいだからなー」
「それより聖地の石碑は……」
「あそこにあるアレじゃないか?」
イレーネが指し示した方向には崖に掘られたレリーフがあった。
そこには幻獣魔王率いる魔王軍に攻め込まれ、ドワーフの勇者がグランプリに参加を呼びかけ、後半に差し掛かると勇者と魔王の一騎打ちになり、最終的に勇者が勝利し、魔王は勇者を認めて撤退したことが記録されていた。
ちなみにこういった聖地の石碑は歴史の記録が淡々と刻まれるものらしい。勇者や聖女がいかに偉大だったか等の民衆が好む演劇じみた表現にすると後世に誤った形で伝わりかねないからだそうだ。聖地とは教訓でもあるのだから。
「これも調べたんですが、当時の超竜軍は単独でドワーフ国家群を攻め落とせるぐらいの規模だったそうですよ。大魔法を息吹一発でかき消したり、五つある首の角からそれぞれの属性攻撃を飛ばしたり。幻獣魔王に至っては都市どころか島一個ふっ飛ばしたそうです」
「おっかないな。俺だったら絶対相手したくないね」
「ドワーフの勇者はどうやってグランプリでの勝負に持ち込んだのかな?」
「ドラゴンは少しでも気に入った奴の勝負には乗りがちだからなー。一緒に酒飲もうやとか誘ったりしたのか?」
俺達が好き放題言おうがもはや真相は掴めまい。イレーネはもとよりティーナより更に古い時代の話だ。当時を知る存在は例えハイエルフだろうと生き残ってはいないだろうし。
「さて、こうして聖地巡礼は終わったわけだが、このあとどうする? 折角だからグランプリでも見てくか?」
「見ていきますよ」
「ん? てっきりもう用無しだから次行こうとか言い出すと思ってたんだが」
「ただの競技だったらそうしてましたが、このグランプリはドワーフにとっては重要な儀式だと思うんです。常にグランプリ王者を輩出することでドワーフの勇者なき今も自分達は健在なんだ、と知らしめるためのね」
「ほう、さすがは聖女殿。目の付け所が違うわい」
不意に声をかけられて振り向くと、いつの間にか広場は静まり返っていた。その場にいたドワーフたちは一斉に頭を垂れていて、飛竜に乗っていた者達も慌てて着陸させて頭を下げるほど。
そんな俺達の眼の前には王冠を被ってマントを羽織ったいかにも偉そうなドワーフと、丈夫な布地で作られたドレスに袖を通す淑女、そして彼らの傍らには前進鎧と斧を持つ戦士が待機している。
察するまでもない。彼らはこのドワーフ首長国連邦の首長と首妃だった。
貴人の到来を受けて俺達はお辞儀する。ちなみにこの時ティーナもそうしたらしい。後で話を聞くと、エルフがドワーフに頭下げるなんて本来あり得ないのだが、人類圏を股にかけて活動する冒険者として、立場のある存在への敬ったんだってさ。
「新たに聖女に任命された者がここにも姿を見せると報告があってな。遠路はるばる良く来てくれた」
「いえ、この目で確かめたかったので、ちょうどいい機会でした」
「都合が良ければ今日の晩餐でもてなそうと考えておるのだが、いかがかな?」
「光栄ですが、過度なもてなしを受けては皆さんに示しが付きませんので。そこを配慮いただけるのでしたら喜んで」
「勿論だとも。グランプリを見ていくのだろう? 折角だから滞在先も我々が準備しようじゃないか。何、宿にはこちらから連絡を入れよう」
「どうして?」
「保険をかけたい、と考えている」
どうやら首長は俺達を歓迎するつもりらしい。そしてミカエラとのやり取りからも単に人類圏で相当な権威を持つ聖女へ媚びるためではなく、思惑があるのは明白。そしてこのドワーフの君主はそれを隠さずに表明する。
とりあえず提案に乗っても損はない、と判断出来たので、俺達はお言葉に甘えることにした。
それにしてもこの首長……珍しいな。髪や髭といった体毛が銅のような真紅だ。行き交ったドワーフ達を思い返してもこの色はあまり目にしなかったっけ。
ふと、とある人物の顔が思い浮かんだ。
そうして俺達がやってきたのは、渓谷の両岸を渡して築かれた橋、というより渡り広場だった。まだ河まで結構な高さがあるから増水しても流される心配はあるまい。高くそびえる両方の崖は凄く圧迫感があるものだ。
そんな広場にはひっきりなしに飛竜が離着陸し、また多くのドワーフが飛竜の調整や意思疎通などグランプリに向けての準備に取り組んでいた。参加しない俺にも熱気が伝わってくる。
「でもこのドワーフ達、ほとんどグランプリに出場しないんだよな?」
「通称グランプリって呼ばれる王者決定戦の他にもレースは当日含めて何回か開かれるみたいだからなー」
「それより聖地の石碑は……」
「あそこにあるアレじゃないか?」
イレーネが指し示した方向には崖に掘られたレリーフがあった。
そこには幻獣魔王率いる魔王軍に攻め込まれ、ドワーフの勇者がグランプリに参加を呼びかけ、後半に差し掛かると勇者と魔王の一騎打ちになり、最終的に勇者が勝利し、魔王は勇者を認めて撤退したことが記録されていた。
ちなみにこういった聖地の石碑は歴史の記録が淡々と刻まれるものらしい。勇者や聖女がいかに偉大だったか等の民衆が好む演劇じみた表現にすると後世に誤った形で伝わりかねないからだそうだ。聖地とは教訓でもあるのだから。
「これも調べたんですが、当時の超竜軍は単独でドワーフ国家群を攻め落とせるぐらいの規模だったそうですよ。大魔法を息吹一発でかき消したり、五つある首の角からそれぞれの属性攻撃を飛ばしたり。幻獣魔王に至っては都市どころか島一個ふっ飛ばしたそうです」
「おっかないな。俺だったら絶対相手したくないね」
「ドワーフの勇者はどうやってグランプリでの勝負に持ち込んだのかな?」
「ドラゴンは少しでも気に入った奴の勝負には乗りがちだからなー。一緒に酒飲もうやとか誘ったりしたのか?」
俺達が好き放題言おうがもはや真相は掴めまい。イレーネはもとよりティーナより更に古い時代の話だ。当時を知る存在は例えハイエルフだろうと生き残ってはいないだろうし。
「さて、こうして聖地巡礼は終わったわけだが、このあとどうする? 折角だからグランプリでも見てくか?」
「見ていきますよ」
「ん? てっきりもう用無しだから次行こうとか言い出すと思ってたんだが」
「ただの競技だったらそうしてましたが、このグランプリはドワーフにとっては重要な儀式だと思うんです。常にグランプリ王者を輩出することでドワーフの勇者なき今も自分達は健在なんだ、と知らしめるためのね」
「ほう、さすがは聖女殿。目の付け所が違うわい」
不意に声をかけられて振り向くと、いつの間にか広場は静まり返っていた。その場にいたドワーフたちは一斉に頭を垂れていて、飛竜に乗っていた者達も慌てて着陸させて頭を下げるほど。
そんな俺達の眼の前には王冠を被ってマントを羽織ったいかにも偉そうなドワーフと、丈夫な布地で作られたドレスに袖を通す淑女、そして彼らの傍らには前進鎧と斧を持つ戦士が待機している。
察するまでもない。彼らはこのドワーフ首長国連邦の首長と首妃だった。
貴人の到来を受けて俺達はお辞儀する。ちなみにこの時ティーナもそうしたらしい。後で話を聞くと、エルフがドワーフに頭下げるなんて本来あり得ないのだが、人類圏を股にかけて活動する冒険者として、立場のある存在への敬ったんだってさ。
「新たに聖女に任命された者がここにも姿を見せると報告があってな。遠路はるばる良く来てくれた」
「いえ、この目で確かめたかったので、ちょうどいい機会でした」
「都合が良ければ今日の晩餐でもてなそうと考えておるのだが、いかがかな?」
「光栄ですが、過度なもてなしを受けては皆さんに示しが付きませんので。そこを配慮いただけるのでしたら喜んで」
「勿論だとも。グランプリを見ていくのだろう? 折角だから滞在先も我々が準備しようじゃないか。何、宿にはこちらから連絡を入れよう」
「どうして?」
「保険をかけたい、と考えている」
どうやら首長は俺達を歓迎するつもりらしい。そしてミカエラとのやり取りからも単に人類圏で相当な権威を持つ聖女へ媚びるためではなく、思惑があるのは明白。そしてこのドワーフの君主はそれを隠さずに表明する。
とりあえず提案に乗っても損はない、と判断出来たので、俺達はお言葉に甘えることにした。
それにしてもこの首長……珍しいな。髪や髭といった体毛が銅のような真紅だ。行き交ったドワーフ達を思い返してもこの色はあまり目にしなかったっけ。
ふと、とある人物の顔が思い浮かんだ。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる