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第三章 幻獣魔王編
戦鎚聖騎士達、第三の聖地にやってくる
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中央首都で一夜明かした俺達は早速聖地へと向かうことにした。
ドワーフの渓谷は中央首都から日帰り出来る距離で、日の出に渓谷に出勤、日没で首都の家に帰るドワーフも多いらしい。もっとも、あくまで飛竜や騎竜に乗って移動した場合に日帰り出来るんであって、徒歩だと余裕で半日潰れるんだがね。
俺達は馬車移動してるわけだが、首都と渓谷を繋ぐ幹線道路は大賑わいだった。ひっきりなしに荷馬車が行き交いしてるし、上空はたくさんの飛竜が空を飛んでいる。ダーリア曰く、空にも道があって高度と経路が定められてるんだとか。
「壮観ですね! でも空がごみごみしててうるさく見えるというか……」
「うちは大気を引き裂いて飛ぶ飛竜より空を舞うヒッポグリフの方が好きなんだけどなー。大森林に帰ったら久しぶりに乗ってみようかなー」
「僕は空を飛ぶこと自体が恐れ多く思っちゃうよ。神の目線になったみたいで勘違いしちゃうし」
「こらこら。思ったことを何でも正直に口にするんじゃない」
ドワーフではない俺達、しかも聖女やエルフがドワーフの聖地へと向かう様子はかなり注目を集めている。しかし当の本人達はどこ吹く風。普段見られない情景を満喫している。俺はこの数日間ずっと景色が変わらないからいい加減飽きたよ。
やがて乾いた大地が大きく引き裂かれている光景を目の当たりにする。どうやら俺達は目的地であるドワーフの渓谷にたどり着いたらしい。人類史よりはるかに長い年月の間流れ続ける河がこの抉りを作ったって考えると壮大だな。
「凄いな……」
「へえー! 成程。ドワーフが誇りにするのも頷けるなー」
思わず漏れてしまった感想は決して俺だけのものじゃあない筈だ。さすがのティーナ達も見入っているようだしな。戦いこそが意義というイレーネもさすがに圧倒されている様子で、ミカエラは興味津々に観察している。
その渓谷だが、頂上階層と呼ばれる今俺達がいる地平の高さにも幾つもの建屋が並んでいた。主に陸路の運搬物の集積所および発送場や宿泊施設や飲食店が並んでいるらしい。意外にも民家は存在しない。ダーリア曰く、ここに住むようになると渓谷から一生出てこなくなるから、居住が禁止されているんだとか。
馬車は宿で預けて早速俺達は渓谷の岸壁近くまでやってきた。
地上からはるか下を河が流れている。かなり急流で多量の水の音がわずかながらここまで聞こえてくる。その河には幾つもの水車が建てられていて、岸壁沿いに張り出すように建物が並んでいる。中には崖に洞窟を掘って工房にしてもいるようだ。至るところから煙が上がっていて、これまで巡ってきたドワーフの都市を遥かに凌ぐ規模と言ってよかった。
そうしたドワーフの工房郡にまぎれてただの洞窟が崖に幾つも見られた。よく目を凝らすと幾つかには飛竜が静かに昼寝しているのが確認出来る。これが話に聞いていた渓谷に住む野生の飛竜、またはドワーフに飼育される飛竜か。
「あ、見てください。飛竜が高速で飛んでいきますよ」
そうした渓谷の間を飛竜達が高速で抜けていった。ドワーフを乗せていたから近日中に開かれるグランプリの予行練習と言ったところか。上空を飛んでいるのとは印象が全然違うな。迫力がある。
「それで、渓谷って言ってもかなり広いみたいだけれど、聖地に認定されてる場所ってどこなの?」
「ふふん。ニッコロさんに馬鹿にされたからしっかり調べてきましたよ! どうやらグランプリのコースそのものが聖地なんです。ドワーフの勇者と幻獣魔王がそこで実質一騎打ちの死闘を繰り広げたわけですね」
「へえ。じゃあこれでここの聖地巡礼はオシマイってことなのか-?」
「エルフの大森林と同じように石碑があるので、そこまでは行ってみましょうか」
知識面で俺に指摘されたことが相当悔しかったようで、ミカエラは「どうですか我が騎士! 褒めなさい!」とばかりに自慢げに鼻を鳴らした。あまりにかわいかったので頭をなでてやった。「それでいいのです!」と喜んでくれて何よりだ。
ドワーフの渓谷にある聖地の石碑はグランプリのスタート兼ゴール地点にあるらしく、俺達は渓谷のわきに掘られた洞窟を使って下層へと降りていく。運搬用の昇降装置もあるんだが、さすがに下りで使う必要はあるまい。
「ところでニッコロさんはドワーフの工房には目もくれませんね。物色ぐらいするんじゃないかな、って思ってたんですけど」
「俺には支給された聖騎士装備一式があるからな。これが制服みたいなもんだし、いくらドワーフ謹製だからってそっちに変えるわけにはいかないだろ。ティーナは?」
「エルフはエルフの工房で作った装備が一番しっくりくるからなー。何よりドワーフの連中は火と土の精霊に愛されてるから、装備もそっち寄りになりがちでさ。森との相性は最悪だって。一応聞くけどイレーネは?」
「その質問は僕にとっては皮と肉を剥いで交換しろって言ってるようなものだね。魔王剣は僕の相棒、聖王剣は好敵手の得物だし、これ以外を使う気は無いよ。で、話を振ったミカエラは? 祭服の上から鎧着込むとかさ」
「必要性を全く感じません。奇跡と魔法でどうにかなるので」
といった感じに俺達一行は完全にドワーフにとってどっちらけな輩だったりする。一切目もくれずに横切る俺達に工房の職人や店の従業員は失望をあらわにしてた。すぐさま次の通行人に意識を切り替えるのは逞しいね。
ドワーフの渓谷は中央首都から日帰り出来る距離で、日の出に渓谷に出勤、日没で首都の家に帰るドワーフも多いらしい。もっとも、あくまで飛竜や騎竜に乗って移動した場合に日帰り出来るんであって、徒歩だと余裕で半日潰れるんだがね。
俺達は馬車移動してるわけだが、首都と渓谷を繋ぐ幹線道路は大賑わいだった。ひっきりなしに荷馬車が行き交いしてるし、上空はたくさんの飛竜が空を飛んでいる。ダーリア曰く、空にも道があって高度と経路が定められてるんだとか。
「壮観ですね! でも空がごみごみしててうるさく見えるというか……」
「うちは大気を引き裂いて飛ぶ飛竜より空を舞うヒッポグリフの方が好きなんだけどなー。大森林に帰ったら久しぶりに乗ってみようかなー」
「僕は空を飛ぶこと自体が恐れ多く思っちゃうよ。神の目線になったみたいで勘違いしちゃうし」
「こらこら。思ったことを何でも正直に口にするんじゃない」
ドワーフではない俺達、しかも聖女やエルフがドワーフの聖地へと向かう様子はかなり注目を集めている。しかし当の本人達はどこ吹く風。普段見られない情景を満喫している。俺はこの数日間ずっと景色が変わらないからいい加減飽きたよ。
やがて乾いた大地が大きく引き裂かれている光景を目の当たりにする。どうやら俺達は目的地であるドワーフの渓谷にたどり着いたらしい。人類史よりはるかに長い年月の間流れ続ける河がこの抉りを作ったって考えると壮大だな。
「凄いな……」
「へえー! 成程。ドワーフが誇りにするのも頷けるなー」
思わず漏れてしまった感想は決して俺だけのものじゃあない筈だ。さすがのティーナ達も見入っているようだしな。戦いこそが意義というイレーネもさすがに圧倒されている様子で、ミカエラは興味津々に観察している。
その渓谷だが、頂上階層と呼ばれる今俺達がいる地平の高さにも幾つもの建屋が並んでいた。主に陸路の運搬物の集積所および発送場や宿泊施設や飲食店が並んでいるらしい。意外にも民家は存在しない。ダーリア曰く、ここに住むようになると渓谷から一生出てこなくなるから、居住が禁止されているんだとか。
馬車は宿で預けて早速俺達は渓谷の岸壁近くまでやってきた。
地上からはるか下を河が流れている。かなり急流で多量の水の音がわずかながらここまで聞こえてくる。その河には幾つもの水車が建てられていて、岸壁沿いに張り出すように建物が並んでいる。中には崖に洞窟を掘って工房にしてもいるようだ。至るところから煙が上がっていて、これまで巡ってきたドワーフの都市を遥かに凌ぐ規模と言ってよかった。
そうしたドワーフの工房郡にまぎれてただの洞窟が崖に幾つも見られた。よく目を凝らすと幾つかには飛竜が静かに昼寝しているのが確認出来る。これが話に聞いていた渓谷に住む野生の飛竜、またはドワーフに飼育される飛竜か。
「あ、見てください。飛竜が高速で飛んでいきますよ」
そうした渓谷の間を飛竜達が高速で抜けていった。ドワーフを乗せていたから近日中に開かれるグランプリの予行練習と言ったところか。上空を飛んでいるのとは印象が全然違うな。迫力がある。
「それで、渓谷って言ってもかなり広いみたいだけれど、聖地に認定されてる場所ってどこなの?」
「ふふん。ニッコロさんに馬鹿にされたからしっかり調べてきましたよ! どうやらグランプリのコースそのものが聖地なんです。ドワーフの勇者と幻獣魔王がそこで実質一騎打ちの死闘を繰り広げたわけですね」
「へえ。じゃあこれでここの聖地巡礼はオシマイってことなのか-?」
「エルフの大森林と同じように石碑があるので、そこまでは行ってみましょうか」
知識面で俺に指摘されたことが相当悔しかったようで、ミカエラは「どうですか我が騎士! 褒めなさい!」とばかりに自慢げに鼻を鳴らした。あまりにかわいかったので頭をなでてやった。「それでいいのです!」と喜んでくれて何よりだ。
ドワーフの渓谷にある聖地の石碑はグランプリのスタート兼ゴール地点にあるらしく、俺達は渓谷のわきに掘られた洞窟を使って下層へと降りていく。運搬用の昇降装置もあるんだが、さすがに下りで使う必要はあるまい。
「ところでニッコロさんはドワーフの工房には目もくれませんね。物色ぐらいするんじゃないかな、って思ってたんですけど」
「俺には支給された聖騎士装備一式があるからな。これが制服みたいなもんだし、いくらドワーフ謹製だからってそっちに変えるわけにはいかないだろ。ティーナは?」
「エルフはエルフの工房で作った装備が一番しっくりくるからなー。何よりドワーフの連中は火と土の精霊に愛されてるから、装備もそっち寄りになりがちでさ。森との相性は最悪だって。一応聞くけどイレーネは?」
「その質問は僕にとっては皮と肉を剥いで交換しろって言ってるようなものだね。魔王剣は僕の相棒、聖王剣は好敵手の得物だし、これ以外を使う気は無いよ。で、話を振ったミカエラは? 祭服の上から鎧着込むとかさ」
「必要性を全く感じません。奇跡と魔法でどうにかなるので」
といった感じに俺達一行は完全にドワーフにとってどっちらけな輩だったりする。一切目もくれずに横切る俺達に工房の職人や店の従業員は失望をあらわにしてた。すぐさま次の通行人に意識を切り替えるのは逞しいね。
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