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第三章 幻獣魔王編
焦熱魔王、奥義の使用を控えるよう忠告される
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これは地属性の重力魔法グラビトンウェーブを闘気術で再現したもので、前方の一定範囲の重力を操作して超重力場を作り出す効果がある。巨体のドラゴンにとってはたまらないだろう。
しかし俺では一流の魔法使いが行使するグラビトンウェーブのように対象を押しつぶすほどには重力を増やせない。現に目の前のランドドラゴン共もせいぜい身動き取れず地面にへばりつかせる程度しか効いてない。
「おおっ! 結構いい大技持ってるじゃないか! これなら……!」
ティーナは連射を止めて溜め動作に入った……と思う。あいにく超重力場の維持に全神経を集中させる俺には後ろを振り返る余裕なんざ無いのでね。汗も噴き出るし歯を食いしばらないといけないしで、消耗度が激しいな。
「シューティング・メガフレア!」
ティーナが放った一矢はドラゴンの群れのちょうど中央付近に着弾、その瞬間、業火と大爆発を巻き起こした。いくらこっちは光の結界に守られているとは言え、衝撃波は通り抜けて襲いかかってくる。何とか足を踏ん張り腰を入れて耐えた。
大技の余波が収まって煙も薄れ、視界がだんだんと開けてきた。爆心地から離れた位置にいて仕留めきれていなかったドラゴンのトドメはイレーネが刺していく。もはや撤退を選択出来る余力のある個体もいないようだな。
「はー。これで撃退できたか?」
「お疲れさまでした、我が騎士。見事な決め技でしたよ」
その場に座り込んだ俺にミカエラが駆け寄って水筒を差し出してくれた。有り難く頂戴して水で喉を潤す。ぷはー、激務の後の水は美味い。感謝を述べながらミカエラに返すと、ミカエラも水を飲む。間接キスなんだがわざとか?
ティーナはかろうじて原型を留めるランドドラゴンの死体へと駆け寄り、解体を始める。ドラゴンは皮、牙、爪、肉など多くの部位が高く取引されるので、今の状況は宝の山を前にしているのと同じだ、と後でティーナは興奮気味に説明してくれた。
「皆さんも無事でしたか?」
「あ、ああ……。さすが聖女だ」
「ありがとうございます。助かりました……」
念のためにミカエラと共に見回って確認していく。爆風で倒れた拍子に怪我をした者こそいたが、どうやら旅人達も無事なようだ。その怪我もミカエラが奇跡を施して癒やして回る。
程々に素材集めを切り上げたティーナが馬車の中に収穫物を詰め込んだ所で旅を再開する……前に、遠くから飛来する集団が見えてきた。一瞬敵襲の第二波かと身構えたが、ティーナが違うと断言して警戒を解いた。
「ありゃあ竜騎士部隊だな。しかも隊列の先頭はダーリアみたいだ」
「ダーリア? そうか、まだこの辺は彼女達の担当空域なのか」
次々とやってきた竜騎士達は部位を解体されたドラゴン達の調査や周辺空域の確認にあたり、ダーリアは何故か一目散に俺達……というよりティーナへと向かっていく。こころなしか他の竜騎士数名から向けられる視線も警戒心が宿っているように感じられるな。
「国境を突破されたと報告が来て出陣したけれど、被害がなくて良かったわ。ドラゴンの群れを仕留めたのは貴女達?」
「ええ、そうですよ。我が騎士達の活躍は貴女達にも見せたかったですね!」
「まずは全ドワーフを代表して礼を言うわ。ありがとう」
ダーリアは兜を脱いで深々と頭を垂れる。しかし、と繋げて彼女は視線をティーナへと向けた。
「遠くから見たけれど一発で分かったわ。あの業火を放ったのはティーナかしら?」
「ああ、そうだぞ。別にうちが炎を使うブラッドエルフの冒険者だとはドワーフ界隈にも伝わってるだろ」
「あの技、誰に教わったの?」
「メガフレアのことか? えっと、ずっと前の旅の仲間だったかなー?」
こうティーナはダーリアに説明したけれど、実際は彼女が焦熱魔王と呼ばれた時代に魔王城に攻め込んだ際、彼女の味方をした魔王軍勢力のうち悪魔軍長だった悪魔参謀に教わったんだそうだ。ティーナなら古の魔王が使った必殺技も再現出来る、などとおだてられてつい乗ったんだとか何とか。
「それ、ドワーフ圏内にいる間は使わない方がいいわ」
そう語るダーリアの口調はどこか重々しかった。
「は? どうしてだ? 確かにメガフレアは周辺環境にも被害が出るぐらい高威力だけれど、うちはきちんと考えて使ってるぞ」
「そうじゃなくて、ドワーフにとっては忘れられない忌まわしき技だからよ」
「それはどういう――」
なおも抗議の声をあげようとしたティーナは一つの可能性に思い至ったようで、言葉を失った。俺もほぼ同時に何を意図しているのか察せられた。ミカエラは面白いとばかりに微笑んだが、空気を読んで口元を袖で隠していた。
「千年以上前にここに攻め込んできた魔王、幻獣魔王の得意技だったから」
言いたい注意を言い終えたところでダーリアは飛竜に騎乗し、部下を率いて再び空へと飛び立っていった。残された俺達は撤収する彼女達を見送るばかり。特にティーナは訳が分からないと戸惑うばかりだった。
「アイツ、うちに教えてくれた時にそんなこと説明してくれなかったぞ……」
何故当時の悪魔軍長が幻獣魔王の得意技を知っていて、それを焦熱魔王に伝授したか。大昔のことでもはや所以を知るすべはあるまい。
しかし、その機会は思わぬところから転がり落ちてくることになった。そう遠くない未来でな。
しかし俺では一流の魔法使いが行使するグラビトンウェーブのように対象を押しつぶすほどには重力を増やせない。現に目の前のランドドラゴン共もせいぜい身動き取れず地面にへばりつかせる程度しか効いてない。
「おおっ! 結構いい大技持ってるじゃないか! これなら……!」
ティーナは連射を止めて溜め動作に入った……と思う。あいにく超重力場の維持に全神経を集中させる俺には後ろを振り返る余裕なんざ無いのでね。汗も噴き出るし歯を食いしばらないといけないしで、消耗度が激しいな。
「シューティング・メガフレア!」
ティーナが放った一矢はドラゴンの群れのちょうど中央付近に着弾、その瞬間、業火と大爆発を巻き起こした。いくらこっちは光の結界に守られているとは言え、衝撃波は通り抜けて襲いかかってくる。何とか足を踏ん張り腰を入れて耐えた。
大技の余波が収まって煙も薄れ、視界がだんだんと開けてきた。爆心地から離れた位置にいて仕留めきれていなかったドラゴンのトドメはイレーネが刺していく。もはや撤退を選択出来る余力のある個体もいないようだな。
「はー。これで撃退できたか?」
「お疲れさまでした、我が騎士。見事な決め技でしたよ」
その場に座り込んだ俺にミカエラが駆け寄って水筒を差し出してくれた。有り難く頂戴して水で喉を潤す。ぷはー、激務の後の水は美味い。感謝を述べながらミカエラに返すと、ミカエラも水を飲む。間接キスなんだがわざとか?
ティーナはかろうじて原型を留めるランドドラゴンの死体へと駆け寄り、解体を始める。ドラゴンは皮、牙、爪、肉など多くの部位が高く取引されるので、今の状況は宝の山を前にしているのと同じだ、と後でティーナは興奮気味に説明してくれた。
「皆さんも無事でしたか?」
「あ、ああ……。さすが聖女だ」
「ありがとうございます。助かりました……」
念のためにミカエラと共に見回って確認していく。爆風で倒れた拍子に怪我をした者こそいたが、どうやら旅人達も無事なようだ。その怪我もミカエラが奇跡を施して癒やして回る。
程々に素材集めを切り上げたティーナが馬車の中に収穫物を詰め込んだ所で旅を再開する……前に、遠くから飛来する集団が見えてきた。一瞬敵襲の第二波かと身構えたが、ティーナが違うと断言して警戒を解いた。
「ありゃあ竜騎士部隊だな。しかも隊列の先頭はダーリアみたいだ」
「ダーリア? そうか、まだこの辺は彼女達の担当空域なのか」
次々とやってきた竜騎士達は部位を解体されたドラゴン達の調査や周辺空域の確認にあたり、ダーリアは何故か一目散に俺達……というよりティーナへと向かっていく。こころなしか他の竜騎士数名から向けられる視線も警戒心が宿っているように感じられるな。
「国境を突破されたと報告が来て出陣したけれど、被害がなくて良かったわ。ドラゴンの群れを仕留めたのは貴女達?」
「ええ、そうですよ。我が騎士達の活躍は貴女達にも見せたかったですね!」
「まずは全ドワーフを代表して礼を言うわ。ありがとう」
ダーリアは兜を脱いで深々と頭を垂れる。しかし、と繋げて彼女は視線をティーナへと向けた。
「遠くから見たけれど一発で分かったわ。あの業火を放ったのはティーナかしら?」
「ああ、そうだぞ。別にうちが炎を使うブラッドエルフの冒険者だとはドワーフ界隈にも伝わってるだろ」
「あの技、誰に教わったの?」
「メガフレアのことか? えっと、ずっと前の旅の仲間だったかなー?」
こうティーナはダーリアに説明したけれど、実際は彼女が焦熱魔王と呼ばれた時代に魔王城に攻め込んだ際、彼女の味方をした魔王軍勢力のうち悪魔軍長だった悪魔参謀に教わったんだそうだ。ティーナなら古の魔王が使った必殺技も再現出来る、などとおだてられてつい乗ったんだとか何とか。
「それ、ドワーフ圏内にいる間は使わない方がいいわ」
そう語るダーリアの口調はどこか重々しかった。
「は? どうしてだ? 確かにメガフレアは周辺環境にも被害が出るぐらい高威力だけれど、うちはきちんと考えて使ってるぞ」
「そうじゃなくて、ドワーフにとっては忘れられない忌まわしき技だからよ」
「それはどういう――」
なおも抗議の声をあげようとしたティーナは一つの可能性に思い至ったようで、言葉を失った。俺もほぼ同時に何を意図しているのか察せられた。ミカエラは面白いとばかりに微笑んだが、空気を読んで口元を袖で隠していた。
「千年以上前にここに攻め込んできた魔王、幻獣魔王の得意技だったから」
言いたい注意を言い終えたところでダーリアは飛竜に騎乗し、部下を率いて再び空へと飛び立っていった。残された俺達は撤収する彼女達を見送るばかり。特にティーナは訳が分からないと戸惑うばかりだった。
「アイツ、うちに教えてくれた時にそんなこと説明してくれなかったぞ……」
何故当時の悪魔軍長が幻獣魔王の得意技を知っていて、それを焦熱魔王に伝授したか。大昔のことでもはや所以を知るすべはあるまい。
しかし、その機会は思わぬところから転がり落ちてくることになった。そう遠くない未来でな。
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