122 / 191
第三章 幻獣魔王編
戦鎚聖騎士、飲みに誘われる
しおりを挟む
「すげえなこりゃ。ドワーフ達が誇るのも頷ける」
「鉄と錆と油の匂いがします! 別世界に来たみたいですよ!」
「空気が濁ってる……。煙たい……。火を燃やしすぎだって……」
「うっわ、最悪……。これだからドワーフ共はさぁー」
ドワーフの地方都市はまさに工業都市といった情景だった。家屋の煙突から煙が絶えず吹き出ており、そのせいで空気が若干濁っている。エルフのティーナが今にも倒れそうなぐらい顔を青白くするのも頷けるが、俺にとってはそれも味わい深く思えるんだよなぁ。
街中の道沿いは至るところ工房だらけ。武具の他にも工芸品が所狭しと並べられており、己の腕を競っているようだった。客層は意外にもドワーフ以外も多い。国境沿いの都市なのもあって来訪者も多いんだろう。
俺達はひとまず宿を取って荷物を置いてから竜騎士部隊の基地へと向かった。ちょうど昼番の帰宅時間だったようで、基地から出る隊員達とすれ違う。ドワーフは酒飲みも多く、どこそこで飲んでこうという話がチラホラと聞こえてきた。
「あれ、あそこにいるのダーリアじゃないか?」
ティーナの発言で気付いた。基地の入口で私服に着替えたダーリアが待ち構えてるじゃないか。ゆったりとしたオーバーオールを穿いて帽子を被った彼女は竜騎士として鎧兜に身を包んだ姿とは全く印象が異なっている。
「ようやく着いたのね。長旅お疲れ様」
「こんばんは。どうして俺達が今日この時間に来るって分かったんだ?」
「ニッコロ達と会った場所からここまで飛竜ならそんな時間かからないわよ。日々の巡回でどこにいるかを把握しといて、この都市の入口を通ったって連絡を受けたから、予測なんて簡単だったわ」
「成程なぁ。わざわざありがとうな」
帰宅するドワーフ達を窺う限り、やはりドワーフとしての特徴がはっきりと現れている。ダーリアみたいに少女っぽいのは人間やエルフのように民族の違いからかとも予想したんだが、どうも違うみたいだ。
「荷物も置いてきたようだし、早速行き――」
「姫様! この人達誰っすか?」
「お、隊長! この人達が数日前会った人間の聖女ご一行ですか!」
「この後飲みに行くですよね!? わし達にも奢って下さいよ!」
出発しようとした途端、ダーリアは複数の帰宅途中だったドワーフに囲まれる。男性と同じく野太いが若干高めの声からするに女性隊員もいるようだが、ひげのせいで見た目からは判断し辛い。体格も似たりよったりで、見分けるのは一苦労だ。
どうやら彼らは俺達が遭遇したダーリア率いる竜騎士部隊の隊員達らしい。物腰や仕草からも歴戦の戦士達といった雰囲気が醸し出ている。しかし仕事終わりなのもあって力が抜けており、近寄りがたい威圧感は無かった。
「ええい、散った散った! お前達はお前達で飲みやがれ!」
「えー!? 連れないこと言わないでくださいよ~! じゃあ飲み比べで勝ったほうが奢るってのはどうっす?」
「客人の接待を請け負ってくれるなら考えてもいいけれど?」
「えっ!?」
ダーリアにたかろうとしてた竜騎士隊員達が俺達へと視線を向ける。俺、ミカエラ、イレーネ、そしてティーナで目を止め、露骨に顔をしかめてきた。やっぱりドワーフとエルフは犬猿の仲なんだな、とこれだけでも分かる。
「いや、次の機会にするっす」
「よろしい。じゃあ早く帰りなさい。じゃないと酒場の席が埋まっちゃうわよ」
「へーい!」
隊員達は逃げるように足早に立ち去っていった。そいつ等の背中を見つめるティーナは「けっ、ドワーフの飲みに付き合うなんてこっちから願い下げだってーの」と心底嫌そうに愚痴をこぼしたのは聞き逃さなかったからな。
ティーナの案内で俺達は太陽が沈んで暗くなりかけた街中を歩く。工房街とは異なってそこは酒場などの飲食店で活気に満ちており、多くのドワーフで賑わいを見せていた。店の外まで大きな声や笑い声がはっきり聞こえるぐらいに。
「どんな食事がいいの? 一応人間の料理を専門にしてる店もあるけれど」
「せっかくですからドワーフの料理食べさせてください! 大丈夫、こう見えてご飯はいっぱい食べる方ですから!」
「ミカエラは冗談抜きに本当に俺達の中で一番食うから。出来れば適度な価格で沢山食えるところがいい」
「ふぅん。いいわよ。じゃあとっておきの店を紹介してあげる」
ミカエラが目を輝かせて期待に胸を膨らませる中、連れて来られたのは郷土料理の店らしい。店の中に入った途端に酒の席で盛り上がるドワーフ達の声がうるさい。俺達が案内されたのは人間やエルフ用の高さのある予約テーブル席。ダーリアが座る高めの椅子はお子様用の椅子を連想させ、笑いを堪えるのに精一杯だった。
一通り料理と酒が用意されたあたりで乾杯する。ダーリアは酒を水のように喉に通していくけれど、俺達は嗜む程度に留めた。ドワーフの酒はアルコール度数が強すぎてね。料理に合うので飲めはするんだが、今回の主役は料理の方だ。酒は程々に留めておきたいのだ。
「で、知りたいのは近状だったかしら?」
「はい、そうです。この前ダーリア達が迎え撃ったのは野生のドラゴンの群れではないとは分かってますよね」
「ええ。魔王軍の尖兵、と首脳陣も判断してるようよ」
「そこをもう少し詳しく知りたいんです。いつから攻めてくるようになったか、等」
そこそこ飲み食いが進んだ所でダーリアは語りだした。
ドワーフの国家群であるドヴェルグ首長国連邦を取り巻く現状を。
「鉄と錆と油の匂いがします! 別世界に来たみたいですよ!」
「空気が濁ってる……。煙たい……。火を燃やしすぎだって……」
「うっわ、最悪……。これだからドワーフ共はさぁー」
ドワーフの地方都市はまさに工業都市といった情景だった。家屋の煙突から煙が絶えず吹き出ており、そのせいで空気が若干濁っている。エルフのティーナが今にも倒れそうなぐらい顔を青白くするのも頷けるが、俺にとってはそれも味わい深く思えるんだよなぁ。
街中の道沿いは至るところ工房だらけ。武具の他にも工芸品が所狭しと並べられており、己の腕を競っているようだった。客層は意外にもドワーフ以外も多い。国境沿いの都市なのもあって来訪者も多いんだろう。
俺達はひとまず宿を取って荷物を置いてから竜騎士部隊の基地へと向かった。ちょうど昼番の帰宅時間だったようで、基地から出る隊員達とすれ違う。ドワーフは酒飲みも多く、どこそこで飲んでこうという話がチラホラと聞こえてきた。
「あれ、あそこにいるのダーリアじゃないか?」
ティーナの発言で気付いた。基地の入口で私服に着替えたダーリアが待ち構えてるじゃないか。ゆったりとしたオーバーオールを穿いて帽子を被った彼女は竜騎士として鎧兜に身を包んだ姿とは全く印象が異なっている。
「ようやく着いたのね。長旅お疲れ様」
「こんばんは。どうして俺達が今日この時間に来るって分かったんだ?」
「ニッコロ達と会った場所からここまで飛竜ならそんな時間かからないわよ。日々の巡回でどこにいるかを把握しといて、この都市の入口を通ったって連絡を受けたから、予測なんて簡単だったわ」
「成程なぁ。わざわざありがとうな」
帰宅するドワーフ達を窺う限り、やはりドワーフとしての特徴がはっきりと現れている。ダーリアみたいに少女っぽいのは人間やエルフのように民族の違いからかとも予想したんだが、どうも違うみたいだ。
「荷物も置いてきたようだし、早速行き――」
「姫様! この人達誰っすか?」
「お、隊長! この人達が数日前会った人間の聖女ご一行ですか!」
「この後飲みに行くですよね!? わし達にも奢って下さいよ!」
出発しようとした途端、ダーリアは複数の帰宅途中だったドワーフに囲まれる。男性と同じく野太いが若干高めの声からするに女性隊員もいるようだが、ひげのせいで見た目からは判断し辛い。体格も似たりよったりで、見分けるのは一苦労だ。
どうやら彼らは俺達が遭遇したダーリア率いる竜騎士部隊の隊員達らしい。物腰や仕草からも歴戦の戦士達といった雰囲気が醸し出ている。しかし仕事終わりなのもあって力が抜けており、近寄りがたい威圧感は無かった。
「ええい、散った散った! お前達はお前達で飲みやがれ!」
「えー!? 連れないこと言わないでくださいよ~! じゃあ飲み比べで勝ったほうが奢るってのはどうっす?」
「客人の接待を請け負ってくれるなら考えてもいいけれど?」
「えっ!?」
ダーリアにたかろうとしてた竜騎士隊員達が俺達へと視線を向ける。俺、ミカエラ、イレーネ、そしてティーナで目を止め、露骨に顔をしかめてきた。やっぱりドワーフとエルフは犬猿の仲なんだな、とこれだけでも分かる。
「いや、次の機会にするっす」
「よろしい。じゃあ早く帰りなさい。じゃないと酒場の席が埋まっちゃうわよ」
「へーい!」
隊員達は逃げるように足早に立ち去っていった。そいつ等の背中を見つめるティーナは「けっ、ドワーフの飲みに付き合うなんてこっちから願い下げだってーの」と心底嫌そうに愚痴をこぼしたのは聞き逃さなかったからな。
ティーナの案内で俺達は太陽が沈んで暗くなりかけた街中を歩く。工房街とは異なってそこは酒場などの飲食店で活気に満ちており、多くのドワーフで賑わいを見せていた。店の外まで大きな声や笑い声がはっきり聞こえるぐらいに。
「どんな食事がいいの? 一応人間の料理を専門にしてる店もあるけれど」
「せっかくですからドワーフの料理食べさせてください! 大丈夫、こう見えてご飯はいっぱい食べる方ですから!」
「ミカエラは冗談抜きに本当に俺達の中で一番食うから。出来れば適度な価格で沢山食えるところがいい」
「ふぅん。いいわよ。じゃあとっておきの店を紹介してあげる」
ミカエラが目を輝かせて期待に胸を膨らませる中、連れて来られたのは郷土料理の店らしい。店の中に入った途端に酒の席で盛り上がるドワーフ達の声がうるさい。俺達が案内されたのは人間やエルフ用の高さのある予約テーブル席。ダーリアが座る高めの椅子はお子様用の椅子を連想させ、笑いを堪えるのに精一杯だった。
一通り料理と酒が用意されたあたりで乾杯する。ダーリアは酒を水のように喉に通していくけれど、俺達は嗜む程度に留めた。ドワーフの酒はアルコール度数が強すぎてね。料理に合うので飲めはするんだが、今回の主役は料理の方だ。酒は程々に留めておきたいのだ。
「で、知りたいのは近状だったかしら?」
「はい、そうです。この前ダーリア達が迎え撃ったのは野生のドラゴンの群れではないとは分かってますよね」
「ええ。魔王軍の尖兵、と首脳陣も判断してるようよ」
「そこをもう少し詳しく知りたいんです。いつから攻めてくるようになったか、等」
そこそこ飲み食いが進んだ所でダーリアは語りだした。
ドワーフの国家群であるドヴェルグ首長国連邦を取り巻く現状を。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる