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第三章 幻獣魔王編
戦鎚聖騎士、情勢を整理する
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俺ことニコロないしはニッコロは聖騎士である。聖騎士とは聖女を守る盾となり、聖所の脅威を払う剣となる者達。聖騎士は常に聖女と共にあり、聖女の救済を手助けする使命を負うこととなる。
俺が仕えるミカエラは新米聖女になる。聖女とは神の奇跡を体現する人類の希望であり救済そのもの。聖女は人々の苦しみ、悲しみに寄り添い、そして闇を晴らしていく存在なのだ。
ミカエラと俺は現在聖地巡礼の旅の途中になる。向かう聖地はいずれも古の魔王に縁ある土地ばかり。旅の道中で聖女として奉仕活動に励み、経験を積み、より高度な奇跡を授かるように。
そんなミカエラだが何を隠そう、彼女こそが現代の魔王なのだ。
彼女が聖女になった理由は唯一つ、大聖女の行使する至高の奇跡、死者蘇生を叶えるためだ。ミカエラが魔王になった際に自分で手にかけた実の妹のルシエラを蘇らせるために正体を隠し、真反対の聖女となって修行を積んでいるわけだ。
俺にとってはミカエラが聖女だろうが魔王だろうが構いやしない。俺が剣を捧げたいと思ったのはミカエラ個人で、彼女が何者だろうと関係ないね。神と対峙すると言うのならやれやれと思いながらも彼女の剣となり盾になろうじゃないか。
さて、そんな俺達の旅路はようやく半分を消化した。これから三番目の聖地に向かう道中である。
「聖女ガブリエッラ様が偉業を達成した、か」
立ち寄った宿場町で俺達は旅の報告と情報収集を目的として教会に足を運んだ。出迎えた神父は聖女御一行を快く受け入れ、近状を俺達に知らせてくれた。魔王軍の動きが活性化して各国で被害が出ているそうだが、人類もやられっぱなしじゃない。
まずは聖女ラファエラが加わっている勇者一行が邪神軍を討ち果たしたらしい。ミカエラの説明を振り返るなら、邪神軍はミカエラを魔王とは認めずに妹のルシエラを真の魔王だと仰ぐ正統派に与していたはず。言わばミカエラの粛清から逃れた残党が人類圏に姿を見せたわけか。
衝撃的だったのは、ヴィットーリオが激戦の末に深い傷を負って一旦離脱することになったことだろう。生命を燃やす闘気術ソウルバーニングを発動させたぐらいだ、さぞ強大な敵と戦ったんだろうな。
「けれどさぁ、それじゃ駄目だろ……。この先誰がラファエラを守るんだよ。なあ、ヴィットーリオ」
「そんなの、きっとヴィットーリオが一番良く分かってましたよ……」
俺のつぶやきにミカエラが悲痛な面持ちで同意を示した。
次に聖女ガブリエッラ様一行が悪魔軍を撃退したそうだ。悪魔軍は正統派最大勢力であり、ミカエラが魔王に就任したと同時に離反。全ての人類国家が総力を結集しても太刀打ち出来るか分からないほどの強大な力を持っていたが、悪魔軍を統括する悪魔貴族とやらがことごとく討ち取られたんだとか。
「ガブリエッラ様は凄いな。あの方はてっきり戦争被害に遭った人々を救う活動に従事すると思ってたんだが……」
「ガブリエッラ様のパーティーは聖騎士、戦士、魔導師、そして武闘家ですか。どうやってあのカビの生えた老害共を打倒したのか……」
「そんなに悪魔貴族って奴らは強いのか?」
「ニッコロさんなら一対一に持ち込めば多分勝てる相手ですよ。偉そうにしてるだけで大したことありませんから」
悪魔軍と言えば歴史上に登場する魔王軍の中でも中核を担う時代が多かった、と記録されている。それを取るに足らないと断言するミカエラだが、どうも公平な分析によるものじゃなくて私情が若干混ざっているようだった。
しかし、気になるのは悪魔軍の総大将を打ち倒した聖騎士についてだろう。聖女なら聖女をお守りする聖騎士は必ずいて然るべきだ。生涯たった一人の聖騎士に守られるもよし、聖騎士団を従えるのも良し。とにかく、聖女は常に聖女と共にあった。
無論、例外も存在する。
聖女ガブリエッラ様もその一人だ。
あろうことかガブリエッラ様は聖騎士を無用と断じるどころか、邪魔だと公言したのだ。
「聖女は聖騎士に守られてばかりの弱い存在じゃないのよ。救済の旅には私一人で向かいます。道中必要あったら他の人と組むけれど、聖騎士なんて要らないわ」
なのにガブリエッラ様のパーティーには聖騎士も加わっている。たまたま別の任務で派遣された聖騎士と合流したのか? ガブリエッラ様のお眼鏡にかなって彼女の剣となり盾になったのか? それとも、俺には預かり知れぬ事情が?
同伴していた聖騎士の名は不明……。情報が足りなくて色々と想像出来てしまうな。やはり続報を待った方がいいだろう。
「じゃあこれで邪神軍と悪魔軍は壊滅したんだな」
「いえ、そう断言するのはまだ早いかと。正統派を名乗った連中は確かにこれで再起不能にまで陥ったんでしょうが、話を聞く限りだと軍長は健在のようですから」
「え、じゃあそれぞれの軍長は正統派に関与してなかったのか?」
「かと言って余を積極的に支持していたわけではないので、今はどうしているのかは余にも分かりません」
教会からの得た情報から判断するに軍長はその場にいなかった、とミカエラは確信しているようだった。好奇心がてらそれぞれの軍長がどういった者達かを聞くと、いずれもミカエラの魔王就任と同時に前軍長を失脚させてその地位を得たらしい。前任者を情勢を読めない愚か者だと断じて。
俺が仕えるミカエラは新米聖女になる。聖女とは神の奇跡を体現する人類の希望であり救済そのもの。聖女は人々の苦しみ、悲しみに寄り添い、そして闇を晴らしていく存在なのだ。
ミカエラと俺は現在聖地巡礼の旅の途中になる。向かう聖地はいずれも古の魔王に縁ある土地ばかり。旅の道中で聖女として奉仕活動に励み、経験を積み、より高度な奇跡を授かるように。
そんなミカエラだが何を隠そう、彼女こそが現代の魔王なのだ。
彼女が聖女になった理由は唯一つ、大聖女の行使する至高の奇跡、死者蘇生を叶えるためだ。ミカエラが魔王になった際に自分で手にかけた実の妹のルシエラを蘇らせるために正体を隠し、真反対の聖女となって修行を積んでいるわけだ。
俺にとってはミカエラが聖女だろうが魔王だろうが構いやしない。俺が剣を捧げたいと思ったのはミカエラ個人で、彼女が何者だろうと関係ないね。神と対峙すると言うのならやれやれと思いながらも彼女の剣となり盾になろうじゃないか。
さて、そんな俺達の旅路はようやく半分を消化した。これから三番目の聖地に向かう道中である。
「聖女ガブリエッラ様が偉業を達成した、か」
立ち寄った宿場町で俺達は旅の報告と情報収集を目的として教会に足を運んだ。出迎えた神父は聖女御一行を快く受け入れ、近状を俺達に知らせてくれた。魔王軍の動きが活性化して各国で被害が出ているそうだが、人類もやられっぱなしじゃない。
まずは聖女ラファエラが加わっている勇者一行が邪神軍を討ち果たしたらしい。ミカエラの説明を振り返るなら、邪神軍はミカエラを魔王とは認めずに妹のルシエラを真の魔王だと仰ぐ正統派に与していたはず。言わばミカエラの粛清から逃れた残党が人類圏に姿を見せたわけか。
衝撃的だったのは、ヴィットーリオが激戦の末に深い傷を負って一旦離脱することになったことだろう。生命を燃やす闘気術ソウルバーニングを発動させたぐらいだ、さぞ強大な敵と戦ったんだろうな。
「けれどさぁ、それじゃ駄目だろ……。この先誰がラファエラを守るんだよ。なあ、ヴィットーリオ」
「そんなの、きっとヴィットーリオが一番良く分かってましたよ……」
俺のつぶやきにミカエラが悲痛な面持ちで同意を示した。
次に聖女ガブリエッラ様一行が悪魔軍を撃退したそうだ。悪魔軍は正統派最大勢力であり、ミカエラが魔王に就任したと同時に離反。全ての人類国家が総力を結集しても太刀打ち出来るか分からないほどの強大な力を持っていたが、悪魔軍を統括する悪魔貴族とやらがことごとく討ち取られたんだとか。
「ガブリエッラ様は凄いな。あの方はてっきり戦争被害に遭った人々を救う活動に従事すると思ってたんだが……」
「ガブリエッラ様のパーティーは聖騎士、戦士、魔導師、そして武闘家ですか。どうやってあのカビの生えた老害共を打倒したのか……」
「そんなに悪魔貴族って奴らは強いのか?」
「ニッコロさんなら一対一に持ち込めば多分勝てる相手ですよ。偉そうにしてるだけで大したことありませんから」
悪魔軍と言えば歴史上に登場する魔王軍の中でも中核を担う時代が多かった、と記録されている。それを取るに足らないと断言するミカエラだが、どうも公平な分析によるものじゃなくて私情が若干混ざっているようだった。
しかし、気になるのは悪魔軍の総大将を打ち倒した聖騎士についてだろう。聖女なら聖女をお守りする聖騎士は必ずいて然るべきだ。生涯たった一人の聖騎士に守られるもよし、聖騎士団を従えるのも良し。とにかく、聖女は常に聖女と共にあった。
無論、例外も存在する。
聖女ガブリエッラ様もその一人だ。
あろうことかガブリエッラ様は聖騎士を無用と断じるどころか、邪魔だと公言したのだ。
「聖女は聖騎士に守られてばかりの弱い存在じゃないのよ。救済の旅には私一人で向かいます。道中必要あったら他の人と組むけれど、聖騎士なんて要らないわ」
なのにガブリエッラ様のパーティーには聖騎士も加わっている。たまたま別の任務で派遣された聖騎士と合流したのか? ガブリエッラ様のお眼鏡にかなって彼女の剣となり盾になったのか? それとも、俺には預かり知れぬ事情が?
同伴していた聖騎士の名は不明……。情報が足りなくて色々と想像出来てしまうな。やはり続報を待った方がいいだろう。
「じゃあこれで邪神軍と悪魔軍は壊滅したんだな」
「いえ、そう断言するのはまだ早いかと。正統派を名乗った連中は確かにこれで再起不能にまで陥ったんでしょうが、話を聞く限りだと軍長は健在のようですから」
「え、じゃあそれぞれの軍長は正統派に関与してなかったのか?」
「かと言って余を積極的に支持していたわけではないので、今はどうしているのかは余にも分かりません」
教会からの得た情報から判断するに軍長はその場にいなかった、とミカエラは確信しているようだった。好奇心がてらそれぞれの軍長がどういった者達かを聞くと、いずれもミカエラの魔王就任と同時に前軍長を失脚させてその地位を得たらしい。前任者を情勢を読めない愚か者だと断じて。
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