115 / 209
第三章 幻獣魔王編
【閑話】首席聖女、教会教皇に謁見する(前)
しおりを挟む
■(三人称視点)■
聖パラティヌス教国。人間社会において七割以上の人々に信仰される教会の総本山である聖都のみを領土とする宗教国家である。その影響力は図り知れず、人類圏のほぼ全域に渡るとも言われている。
教会の方針は基本的には教皇という教会の最高位聖職者が定めるものだが、教皇を補佐する枢機卿で構成される枢機卿団が議会として機能する場合もある。これらの者達の決定により教会全体が動き、時代の流れを作っていくことが常だった。
ただし、例外が存在する。神の奇跡の体現者たる聖女達もまた教会の象徴であるが、聖女となりし者は教会での立場上だと枢機卿と同格とされている。故に地方に赴任している教会の司教、司祭は聖女の指示に従わなければならないと定められているのだ。
そんな聖女だが、年に数名が任命されれば豊作、何年間も誰も新たに聖女に選ばれない期間も度々存在するほど、とても希少な存在である。その数は数十名ほどで、現役で奉仕活動を続ける者は十数名ほどなのが実情だ。
「お呼びに預かり参上仕りました。教皇聖下」
現役聖女を取りまとめる首席聖女のイスラフィーラは玉座に座る教皇の前にひざまずき、頭を垂れる。教皇が何も反応を示さない代わりに教皇の傍らで彼に付き添う頭巾で目元まで隠した人物が静かに頷いて面を上げるよう促す。
イスラフィーラを称える逸話には事欠かないが、彼女を語る上で欠かせないのは魔王討伐についてだろう。数十年前、過酷な旅の果てに勇者と共に魔王を討伐した彼女はその後も人類の救済に人生を費やしてきた。もはや孫がいてもおかしくない年齢になったが、その佇まいは老いてもなお若き頃から損なわれていなかった。
謁見の間にいるのはイスラフィーラと教皇以外は頭巾の者のみ。教皇を護衛する聖騎士や教皇直属の神官すら下がるよう命令されてこの場にはいない。神の威光を万人に知らしめるために豪華な作りである広大な空間にこのたった三人しかいない様子の殺風景極まりなかった。
「ご苦労でした、聖女イスラフィーラ。各地に派遣している聖女は各々指名を全うしているようですね」
沈黙したままの教皇の代わりに口を開いたのは頭巾を被った者だった。身にまとう祭服からも彼女が聖女であることは疑いようがなく、顕になっている口元のほうれい線が無いことからもまだ若いことがうかがえる。
第三者がこの場にいれば疑問に思ったかも知れないが、イスラフィーラが傅く相手は教皇ではなく頭巾の聖女だった。二人の会話は教皇の頭越しに行われるが、教皇は一切反応を示さないままだ。
「聖女ラファエラは勇者と共に魔王軍の軍団長を退けたようです。また、聖地巡礼中の聖女ミカエラも魔王軍の軍団長を撃退しているとの報告が。聖女ユニエラは各地を魔王軍の脅威から守っており、聖女ガブリエッラは最大の脅威だった悪魔共を駆逐したとのことです」
「やはりその四名が台頭してきましたか。他の聖女達はどうですか?」
「これまで通りの奉仕活動を続ける者や魔王軍の被害にあった地域での救済などに携わっています」
「所詮は職業聖女ですか。まあ構いません、今は捨て置きましょう」
イスラフィーラによる各聖女の報告をさも当然とばかりに受け止めた頭巾の聖女の興味はすでにその他の聖女には無かった。彼女が気にかけるのは破壊と絶望の権化たる魔王軍に立ち向かう四名のみに絞られていた。
「それで、ラファエラ達の今後の動向は?」
「聖女ラファエラ、聖女ガブリエッラは共に残る魔王軍の軍勢の猛攻にあう国へ赴く模様です。聖女ユニエラは聖女ラファエラの補佐に回り、聖女ミカエラは聖地巡礼の旅を続けるとのことです」
「魔王軍は依然として強大な勢力を保っています。聖女各々には引き続き人類救済に従事するよう各地の教会伝手で命じなさい」
「御意に」
恭しく頭を垂れるイスラフィーラ、満足そうに頷く頭巾の聖女。そして口を閉ざしたままで微動だにしない教皇。もしこの場に聖騎士や枢機卿がいたとしたら、あまりにも異様な光景を疑問に思ったかもしれない。
「教皇聖下。聖女ミカエラが解放した聖女イレーネについてですが、未だに勇者か魔王かの判別が付いていないとのことです」
「引き続き監視は続けなさい。聖女ミカエラに従い続けるなら正体がどちらであろうと問題ありませんが、人類の脅威になる兆候が見えた時点で処断する方針に変更はありません」
「畏まりました。続いて聖女ラファエラですが、魔王軍との戦いで聖騎士ヴィットーリオを失ったのですが、代わりの聖騎士を受け入れようとしません。自分達と勇者がいれば何も問題ないとの一点張りでして」
「聖痕を持つ聖女の宿命ですよ。これ以上はこちらから押し付けなくてもいいでしょう。彼女から要請があった際には応じる程度には選定しておくのです」
「続いて聖女ガブリエッラが帯同するパーティーですが、未だに過去の経歴を追えていません。最近加入した騎士もいつの間にか現れていまして」
「彼女達が人類に刃を向けない限りは積極的に取り締まらなくても構いません」
聖パラティヌス教国。人間社会において七割以上の人々に信仰される教会の総本山である聖都のみを領土とする宗教国家である。その影響力は図り知れず、人類圏のほぼ全域に渡るとも言われている。
教会の方針は基本的には教皇という教会の最高位聖職者が定めるものだが、教皇を補佐する枢機卿で構成される枢機卿団が議会として機能する場合もある。これらの者達の決定により教会全体が動き、時代の流れを作っていくことが常だった。
ただし、例外が存在する。神の奇跡の体現者たる聖女達もまた教会の象徴であるが、聖女となりし者は教会での立場上だと枢機卿と同格とされている。故に地方に赴任している教会の司教、司祭は聖女の指示に従わなければならないと定められているのだ。
そんな聖女だが、年に数名が任命されれば豊作、何年間も誰も新たに聖女に選ばれない期間も度々存在するほど、とても希少な存在である。その数は数十名ほどで、現役で奉仕活動を続ける者は十数名ほどなのが実情だ。
「お呼びに預かり参上仕りました。教皇聖下」
現役聖女を取りまとめる首席聖女のイスラフィーラは玉座に座る教皇の前にひざまずき、頭を垂れる。教皇が何も反応を示さない代わりに教皇の傍らで彼に付き添う頭巾で目元まで隠した人物が静かに頷いて面を上げるよう促す。
イスラフィーラを称える逸話には事欠かないが、彼女を語る上で欠かせないのは魔王討伐についてだろう。数十年前、過酷な旅の果てに勇者と共に魔王を討伐した彼女はその後も人類の救済に人生を費やしてきた。もはや孫がいてもおかしくない年齢になったが、その佇まいは老いてもなお若き頃から損なわれていなかった。
謁見の間にいるのはイスラフィーラと教皇以外は頭巾の者のみ。教皇を護衛する聖騎士や教皇直属の神官すら下がるよう命令されてこの場にはいない。神の威光を万人に知らしめるために豪華な作りである広大な空間にこのたった三人しかいない様子の殺風景極まりなかった。
「ご苦労でした、聖女イスラフィーラ。各地に派遣している聖女は各々指名を全うしているようですね」
沈黙したままの教皇の代わりに口を開いたのは頭巾を被った者だった。身にまとう祭服からも彼女が聖女であることは疑いようがなく、顕になっている口元のほうれい線が無いことからもまだ若いことがうかがえる。
第三者がこの場にいれば疑問に思ったかも知れないが、イスラフィーラが傅く相手は教皇ではなく頭巾の聖女だった。二人の会話は教皇の頭越しに行われるが、教皇は一切反応を示さないままだ。
「聖女ラファエラは勇者と共に魔王軍の軍団長を退けたようです。また、聖地巡礼中の聖女ミカエラも魔王軍の軍団長を撃退しているとの報告が。聖女ユニエラは各地を魔王軍の脅威から守っており、聖女ガブリエッラは最大の脅威だった悪魔共を駆逐したとのことです」
「やはりその四名が台頭してきましたか。他の聖女達はどうですか?」
「これまで通りの奉仕活動を続ける者や魔王軍の被害にあった地域での救済などに携わっています」
「所詮は職業聖女ですか。まあ構いません、今は捨て置きましょう」
イスラフィーラによる各聖女の報告をさも当然とばかりに受け止めた頭巾の聖女の興味はすでにその他の聖女には無かった。彼女が気にかけるのは破壊と絶望の権化たる魔王軍に立ち向かう四名のみに絞られていた。
「それで、ラファエラ達の今後の動向は?」
「聖女ラファエラ、聖女ガブリエッラは共に残る魔王軍の軍勢の猛攻にあう国へ赴く模様です。聖女ユニエラは聖女ラファエラの補佐に回り、聖女ミカエラは聖地巡礼の旅を続けるとのことです」
「魔王軍は依然として強大な勢力を保っています。聖女各々には引き続き人類救済に従事するよう各地の教会伝手で命じなさい」
「御意に」
恭しく頭を垂れるイスラフィーラ、満足そうに頷く頭巾の聖女。そして口を閉ざしたままで微動だにしない教皇。もしこの場に聖騎士や枢機卿がいたとしたら、あまりにも異様な光景を疑問に思ったかもしれない。
「教皇聖下。聖女ミカエラが解放した聖女イレーネについてですが、未だに勇者か魔王かの判別が付いていないとのことです」
「引き続き監視は続けなさい。聖女ミカエラに従い続けるなら正体がどちらであろうと問題ありませんが、人類の脅威になる兆候が見えた時点で処断する方針に変更はありません」
「畏まりました。続いて聖女ラファエラですが、魔王軍との戦いで聖騎士ヴィットーリオを失ったのですが、代わりの聖騎士を受け入れようとしません。自分達と勇者がいれば何も問題ないとの一点張りでして」
「聖痕を持つ聖女の宿命ですよ。これ以上はこちらから押し付けなくてもいいでしょう。彼女から要請があった際には応じる程度には選定しておくのです」
「続いて聖女ガブリエッラが帯同するパーティーですが、未だに過去の経歴を追えていません。最近加入した騎士もいつの間にか現れていまして」
「彼女達が人類に刃を向けない限りは積極的に取り締まらなくても構いません」
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる