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第三章 幻獣魔王編

【閑話】天啓聖女、少女時代を振り返る

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 ■(ラファエラ視点)■

 わたしの幼馴染、ヴィットーリオの話でもしましょうか。

 わたしとヴィットーリオはパラティヌス教国連合を構成するとある王国の片田舎で生まれ育った。街道から外れていたから全然栄えてなかったし、人口も少ない村だったわね。農業と畜産業で何とか稼いでいたっけ。

 そんな故郷だったけれど、わたしは同じ年代の友達には恵まれたわ。大人たちが言ってたけれど、こんなに同世代の子供が出来るのは久しぶりなんですってね。だとしたらわたしはこの出会いに感謝しなきゃいけないわ。

 ヴィットーリオ、グローリア、オリンピア、そしてわたしの四人はとても仲が良かったわね。遊ぶのも勉強するのも一緒だったし、両親の手伝いを他の三人と一緒じゃなかったのがとても寂しかったって覚えがあるわ。

「あたし、ヴィットーリオのお嫁さんになるー!」
「じゃああたしもー!」
「わたしもー! みんないっしょにしあわせになろうよー!」
「ええー!? 僕は三人も面倒は見きれないよぉ!」

 白状すると、わたしは三人の誰かがヴィットーリオと夫婦になるって信じて疑わなかった。もしヴィットーリオに選ばれなくてもずっと仲が良いままで、きっと笑顔が絶えない未来になるに違いない。そう思ってた。

 現実はそうじゃなかった。
 神様はわたし達に試練を課したんだ。

 聖パラティヌス教国を総本山にする教会の教えでは、いつか必ず新たな魔王が現れて人類圏は混沌に包まれる。だから来たるべき災厄に備えて新たな勇者と聖女を見つけ出さなければいけない。それが使命なのだから、とされている。

 で、聖女は誰にでもなれるわけじゃなく、素質ある子を探し出して修行させることで初めて聖女に至る。教会は一定の年齢に達した子供全てに聖女となる見込みがあるかの確認を義務付けている。

 わたし達も例外じゃなくその確認作業、教会が天啓の儀って呼ぶ重要な儀式に挑んだ。わたし達を含めて近くの町に近隣の村から結構な数の子供が集まった。次々と素質無しだと言い渡される中でもわたし達は雑談に明け暮れた。

 だって聖女の素質無しと言われるのが当たり前だもの。子供は参加者全員に配られる飴目当て。親は子供がこの儀式を受ける年齢になった成長を祝う。言わば行事と化していたから。

 今日帰ったら何しよう、とばかり考えてたわたしは、水晶玉に触れた途端に激痛に襲われた。まるで全身を引き裂かれていくようで叫んで悶えて助けを求めて。実際にお母さんに聞いたら本当に全身から血が吹き出てたらしいわ。

 ようやく痛みが収まったわたしの身体には、聖所の証である聖痕が刻まれていた。
 わたしは聖女としての使命を果たさなきゃいけなくなったんだ。

「ラファエラが聖女になるなら僕は聖騎士になるよ! 僕が剣になって盾になってラファエラを守るんだ!」

 そうヴィットーリオは言ってくれた。

「ならわたしは剣士になろっかな。剣の腕は男の子にも勝ってるもの」
「じゃああたしは弓使いになる! 結構遠くまで当たるようになったんだよ!」

 グローリアもオリンピアも力強く宣言してくれた。

「あ、ありがとう……。みんな、本当にありがとう……凄く嬉しいよ」

 三人ともわたしのためなんかに将来を決めてしまった。
 わたし達はもう普通の子供じゃいられなくなっちゃった。
 そんな申し訳無さより歓喜が勝り、わたしはとめどなく涙をこぼしたわ。

 わたしは教会で修行を積むようになり、やがて聖女候補者が集う教国学院に進学することになった。ヴィットーリオも聖騎士候補者として一緒にいれくれた。グローリアとオリンピアは冒険者として頭角を現していていった。

 学院を卒業したわたしは晴れて聖女の座についた。ヴィットーリオも聖騎士に任命されて、宣言通りわたしの騎士になってくれた。夢を叶えてくれた彼だけれど、これから先は長い聖女としての奉仕活動が待っている。始まってすらいないのよ。

「ヴィットーリオ。わたしは聖女としての使命を全うする。付いてきてくれる?」
「ああ、勿論さ。ラファエラには指一本触れさせないよ」

 それでもわたしにはヴィットーリオがいてくれる。
 だからどんな試練、困難が待ち受けていようと絶対に乗り越えられる。
 そしていずれ現れる魔王を退治した後はヴィットーリオと……。

 聖女としての職務を覚える毎日を送っていたところ、外回りをしていた友達のミカエラから魔王軍と遭遇したとの報告が入ってきた。これを受けて教会ではかねてから探していた勇者を見つけ出し、わたしと共に救済の旅に出るように命じてきた。

「やあ。ボクはドナテッロって言うんだ。よろしくな」

 顔合わせした勇者ドナテッロはどうも軽薄そうな印象が拭えなかった。確かに女の子には紳士的だし気配りが効いたし、男とはすぐ打ち解けるぐらい社交的。人誑しとでも言えば良いのかしらね、彼のことは。
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