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第二章 焦熱魔王編

【閑話】死霊聖騎士、冥法魔王の騎士となる

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「それで、蘇らせた俺は何をすればいいのか、教えてくれないか?」
「あたしが蘇らせたんだから、あたしの手足となって働きなさい。あたしが死ねと言うまで決して死ねないんだから、覚悟することね」
「分かった。今日から俺は貴女の騎士として貴女を守ろう。これからよろしくな」
「驚くぐらいの切り替えの早さね。アンタを動かしてるのは使命感、かしらね。まあいいわ。じゃあよろしくね、あたしの騎士」

 ヴィットーリオはこの時に今の自分を定義出来た。途端に彼の身体を巡っていた暗黒闘気が活性化し、アンデッドに相応しい肉体として再構築していく。失われた肉質は生前の状態を取り戻し、幾分か慣れた自分の手に戻ったことに安堵する。

 そのうえでヴィットーリオは差し出された少女の手を取り、握手を交わした。少女の手はとても小さく、少しでも力を込めれば握りつぶしてしまいそうなほど柔らかかった。そして、手袋を外した彼女の手は……氷のようにとても冷たかった。

「さて、自分の境遇を理解したところで、あたしの旅の仲間を紹介するわよ。そっちの彼女はさっきヴィットーリオが呼んだ通り、聖女ガブリエッラで合ってるわ」
「お久しぶりね、ヴィットーリオ。本当なら再会を祝いたかったのだけれど、もっと別の形でありたかったわ。残念です」

 少女の紹介でようやく聖女はヴィットーリオへお辞儀した。よかった、自分の記憶違いではなかった、とヴィットーリオは心の内で胸をなでおろしたとか何とか。

 聖女ガブリエッラ。ミカエラやラファエラよりも先輩にあたる聖女になる。彼女は結構な頻度で人類圏国家を巡っては慰問、奉仕活動に明け暮れている。そして人々の悩み、苦しみを聞いて回り、時には教会を動かして改善する。そのため、複数名いる聖女の中でもガブリエッラは市民に特に慕われていた。

 そんな彼女も魔王軍進撃を受けて救済の旅に切り替えて活動していた、と俺は噂を聞いた覚えがあったが、まさかこのようなパーティーを結成していて、更にはヴィットーリオと運命が交わるとは思ってなかった。

「おや、どうやら白馬の騎士様がお目覚めになられたようですわね」
「思ってたより結構美男子。へえ、こういうのが好みなんだー」

 そんな三人のもとに新たな人影がやってきた。

 一人は野営には場違いなほど派手で目立つドレスを着こなす貴族令嬢のような女性だった。身につける宝飾品の数々もヴィットーリオは夜会で目にした程度の逸品。髪は毎朝どれほどの時間をかけてセットしているのか分からないほど優雅に巻かれている。しかしこれこそが自分だと誇るように彼女の姿は実にしっくりきていた。

 もう一人は戦士だろうか。俺も彼女に会ってびっくりしたんだが、あのティーナよりも背が高い。しかし密度ある筋肉をした引き締まった、しかし女性らしい身体の線を描いている。得物は身長と同じぐらいはあろう大剣。俺にもヴィットーリオにも使いこなせまい。

 彼女らは狩りをしてきたようで、貴族令嬢(仮)は鳥を何羽かと水桶を、大女(仮)は大型の動物を担いで帰ってきた。そしてガブリエッラと共に手分けして食事の準備を始める。

「そっちの場違いな格好してるのはフランチェスカよ。このパーティーでは前列を担っているわ。撲殺令嬢なくせにどうしてドレスに拘ってるのかしらね」
「場違いとは失礼ですわね。それにわたくしは既に爵位を父より奪……賜っており、公爵令嬢改め公爵となっております。それとわたくしにとってはこれが戦闘衣装。社交界と戦場で区別はつけませんわよ」
「で、そっちの大きいのがアンラよ。フランチェスカと同じく前列を任せてる。普段は大剣を振り回してるけれど、彼女も徒手空拳の方が強いわね」
「殴って蹴ってばかりだと野蛮だと仰るのは貴女様じゃないですかやだー! もしもし職業斡旋所ですか?」

 少女の仲間はとても気さくな関係を築いているようだった。ヴィットーリオは己の勇者一行を振り返り、そう言えば使命を果たそうと固くなっていたなと思った。これなら学院時代の方が親しく喋りあえていたっけ、と懐かしむ。

 しかし、あの楽しかった頃はもう戻らない。ラファエラ達とヴィットーリオの道は分かれてしまった。なら自分は自分に出来る道を歩み、その道を示してくれた少女への恩を返していこう、と固く心に誓った。

「それで、君の名前も教えてくれないか?」
「あー、そう言えばあたし自身がまだ名乗ってなかったわね。いいわ、良く聞いて心に刻みなさい。自分が剣を捧げる主人の名をね」

 ヴィットーリオの指摘を受けて少女は立ち上がり、優雅にお辞儀をした。その動作は庭園に咲き誇る薔薇のように優雅で、ぎこちなさが一切ない柔らかさを兼ね備えていた。しかし、ヴィットーリオはこう思ったらしい。とても可愛らしい、と。

「ルシエラよ。よろしくね」

 この時、ヴィットーリオは恋をしたのだ。
 ミカエラの妹の名を名乗る自分を蘇らせた少女に。
 そして運命を構成する歯車は大きく動き出す。
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