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第二章 焦熱魔王編

聖女魔王、大森林への侵攻を開始させる(前)

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 撃退した水の邪精霊はただの水と化して周辺に飛び散っている。池の水位は半分にも満たなくなってしまっているが、これぐらいなら雨が降れば元に戻るだろう。少なくとも水の神殿ほど深刻じゃない。

 これで大森林を侵食していた邪精霊は片付いた、ってなればだいぶ楽なんだが、そうもいかないだろうなぁ。人里から一直線に聖地を目指してもコラプテッドエルフやトレントと遭遇してたんだ。森全体がどれほど汚染されているのやら。

「ミカエラ。この森を汚染する邪精霊はこれで終いだと思うか?」
「ここを拠点に邪精霊達が大森林へ散開したのは事実ですし、今の戦いで大幅に戦力を削げたのも事実です。けれど、これで異変が解決したわけじゃあありませんね」
「やっぱり、ここからは机をひっくり返すように駆除し回らないといけないわけか」
「ええ。地道で面倒な掃討作戦が必要でしょうね」

 うへえ。やりたくねえ。実際に携わるのはエルフなんだが、想像するだけで辟易する。巻き込まれないうちに退散するのが吉だな。エルフのお偉いさんも排他的だし、協力してやる義理は無いね。

 ところがミカエラはティーナの方へと視線を向ける。いつになく真剣だったものだからさすがのティーナも固唾をのみ込んで覚悟を決めたようだ。「何だ?」と問いかけた声が緊張を伴って若干硬い。

「ティーナ。この大森林を見捨てて立ち去るつもりですか?」
「大森林の守護者は現役世代だ。過去の亡霊でしかないうちの出る幕は無いね。それにうちのやり方はあの英雄様が今も反対してるんだ。後ろから罵倒されてまでやるほどお人好しじゃあないぞ」
「じゃあ、余が何とかする、と言ったら協力してくれますか?」

 それは意外な提案だった。ミカエラのことだから聖地巡礼さえ済ませたらもうこの地は用無しかと思ってたのに。ティーナもやはり同じで軽く驚いたが、しかしすぐに表情を

「大森林をこれ以上傷つけないと約束するならな。もし害する気なら――」

 ティーナは弓を引いて矢をミカエラへと向けた。俺は射線上に割り込んで盾を構える。図体はでかいからミカエラの全身をかばえているけれど、ティーナなら矢の軌道を変えるなんて造作も無いだろうな。

「魔王対元魔王の全面戦争になるぞ。どちらか死ぬまでのな」
「あいにく余は戦闘狂じゃないのでそんなの望みませんよ。尤も、魔王と戦うなら勝つのは聖女たる余ですけれどね!」
「くくっ! まあいいさー。で、どうやってこの広い大森林から邪精霊共を駆逐して堕ちたエルフ達を排除するつもりなんだ?」
「本来ならもっと後に、しかも別の目的でやるつもりだったんですけど……しょうがないですねー。悲痛な顔をしてるティーナのために余が頑張っちゃいましょう!」

 とてつもなく自信満々にミカエラは池の方へと向いた。そして彼女が権杖を上空へとかざすと、池の上にとてつもなく大きな魔法陣が瞬時に書き上がった。これは明らかに聖女の奇跡ではなく、魔王の大魔法なのは確定的だった。

「サモンダークスピリット!」

 ミカエラの力ある言葉と共に魔法陣が黒く輝いた。いや、この表現は正しくないんだが、本当に黒く輝いたんだ。それこそ黒水晶とか黒い宝石みたいにさ。閑話休題、魔法陣が効果を発動すると、途端に溢れ出てきた何かが池へと注ぎ込まれる。

 それは泥だ。それも大量の。池を覆い尽くして余りあるほどの。
 そして俺達はこの汚泥を見たことがある。
 土の邪精霊マッドノーム、邪精霊の中で唯一魔王ミカエラに与する者達だ。
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