90 / 191
第二章 焦熱魔王編
焦熱魔王、エルフの最長老を見限る
しおりを挟む
「ああもう、こうやってまた決着のつかない言い争いになるから再会するのは嫌だったんだ……!」
「それはこちらの台詞だ……。ティーナ達とは永遠に分かりあえない、それはあの時下した結論のままだ」
ティーナは頭を乱暴にかき、アデリーナを見下ろす。アデリーナも負けじと立ち上がろうとするも踏ん張れず、力尽きてその場に座り込んだ。肉が削げ落ちた顔からは読み取りづらいが、明らかに苦悩と悲観が伺い知れた。
「で、うちを連れてきて何の用だ? うちは聖女を聖地に連れていこうとしてるだけだとはどうせ伝わってるんだろー?」
「あの時のように邪精霊共が再び大森林を脅かしている」
「うちは関係無いな。そっちで対処してくれ。冒険者として雇いたいなら人里の冒険者ギルドに依頼を出して、どうぞ。白金級だからかなり高いぞ」
「お前が招き入れたのではないか、との声も上がっている」
「だからぁ、うちはもうここには恨みも憧れも無いんだって! 今更手出しなんてするものか。それは大森林と精霊に誓うぞ」
広間が静まり返る。声を荒げたティーナは一旦落ち着くためか、水筒を取り出して水を口に入れた。口元を腕で拭ってから再びアデリーナを見据える。それでも苛立ちが抑えられないのか、足裏で床を叩く貧乏ゆすりをしだした。
「もう一度だけ言う。何の用だ? 拘束するつもりなら全力で逃げるからな」
「今さっきも里を焼き払ったらしいな……。もう罪を重ねるのは止めろ」
「いいぞ」
「だろうな。しかしこの私が貴女を諌めないことには先人達に申し訳が……え?」
あっさりとした承諾はさすがに想定外だったのか、アデリーナは間抜けな声を発した。そんな無様な有り様にティーナは蔑みとともに舌打ちを返した。態度が悪いが相手が煮えきらないのでしょうがない。
「昔も言ったよなぁ。どんなに非効率的でも他に有効な手立てがあるならそっちにする、ってさ。でも結局そっちが打開策を提示出来なかったからうち等は踏み切ったんだ。そこの経緯を忘れちゃいないよなぁ?」
「……ああ。そこまで耄碌してはいない」
「じゃあ英雄様はこの数百年でさぞ素晴らしい解決案が思い浮かんだんだろ? 是非聞かせてくれ。どうやって邪精霊共からこの大森林とエルフを守るんだ?」
「邪精霊共を駆逐し、堕ちた同胞達は隔離したうえで精霊による浄化を行う。手間はかかるがそれで全て救われるんだ。何故それが分からない?」
「それは前も言っただろ! ただでさえ邪精霊共に取り込まれて弱った精霊に縋るなんて、そっちこそ何考えてるんだ! あーあー良く分かったよ。お前は希望的観測を捨てられないんだな」
「待て! どこに行く!?」
ティーナは踵を返して出口へと大股で進んでいく。アデリーナの呼び止めと同時に広間の隅で警護にあたっていたエルフの弓兵達が一斉に俺達へと狙いを定めてくる。それでもティーナの歩みが止まることは……いや、一旦アデリーナへと振り返った。
ティーナは親指で首を掻っ切って下へと向ける動作をした。それが何を意味するかはエルフ達にも分かったようで、一斉にどよめいた。中には憤怒で顔を歪ませて立ち上がろうとする者もいたが、直前でティーナに睨まれて怯んだ。だせぇ。
「もううちは知らない。勝手にやってろ。でも、もう二度とブラッドエルフが出ると思うなよ」
「私が貴女を見過ごすとでも思っているのか?」
「言っただろ? 拘束するつもりなら全力で逃げる、ってな!」
「ティーナ!」
アデリーナの嘆きを振り払うようにティーナは出口から飛び出した。そのまま通路を飛び越え、下へ下へと落ちていく。途中で風の魔法を使って落下速度を抑えて軽やかに着地、時間を置かずに疾走しだした。
……さて、じゃあ俺達も逃げるか。
「さよなーらー!」
ミカエラも軽快に手を振って通路の手すりを飛び越えて落下していった。イレーネもそれに続く。俺は……さすがにこの高さから飛び降りたら余裕で死ねるな。あいにく空は跳べても飛べないのだ。空を舞うなんて高度な闘気術は使えないんでね。
なので俺は脚に闘気を集中させ、大樹に足裏がくっつくようにした。片方の足裏が大樹に接している限り幹を地面のようにして歩くことが可能。体勢を崩さない感覚が重要。慎重に、素早く、けれど速度が出過ぎないぐらいには踏ん張りつつ俺は大樹を下っていく。
「遅いですよニッコロさん!」
「無茶言うな……! 壁歩きだってミカエラの無茶振りで覚えた芸当なの忘れてないよなぁ?」
「二人共、夫婦漫才はそれまでにして、早く逃げよう」
イレーネのツッコミどころ満載な指摘に賛同して俺達は走り出す。既にエルフの弓兵は俺達を止めるべく攻撃しており、うち何本か矢が俺やイレーネに当たってきた。聖騎士の全身鎧を着てなかったら蜂の巣になっていたことだろう。
こうして俺達は闇夜の中に姿をくらました。
エルフとの決別という結果を残して。
……いや、正確には分からず屋共を見限って立ち去った、だな。
「それはこちらの台詞だ……。ティーナ達とは永遠に分かりあえない、それはあの時下した結論のままだ」
ティーナは頭を乱暴にかき、アデリーナを見下ろす。アデリーナも負けじと立ち上がろうとするも踏ん張れず、力尽きてその場に座り込んだ。肉が削げ落ちた顔からは読み取りづらいが、明らかに苦悩と悲観が伺い知れた。
「で、うちを連れてきて何の用だ? うちは聖女を聖地に連れていこうとしてるだけだとはどうせ伝わってるんだろー?」
「あの時のように邪精霊共が再び大森林を脅かしている」
「うちは関係無いな。そっちで対処してくれ。冒険者として雇いたいなら人里の冒険者ギルドに依頼を出して、どうぞ。白金級だからかなり高いぞ」
「お前が招き入れたのではないか、との声も上がっている」
「だからぁ、うちはもうここには恨みも憧れも無いんだって! 今更手出しなんてするものか。それは大森林と精霊に誓うぞ」
広間が静まり返る。声を荒げたティーナは一旦落ち着くためか、水筒を取り出して水を口に入れた。口元を腕で拭ってから再びアデリーナを見据える。それでも苛立ちが抑えられないのか、足裏で床を叩く貧乏ゆすりをしだした。
「もう一度だけ言う。何の用だ? 拘束するつもりなら全力で逃げるからな」
「今さっきも里を焼き払ったらしいな……。もう罪を重ねるのは止めろ」
「いいぞ」
「だろうな。しかしこの私が貴女を諌めないことには先人達に申し訳が……え?」
あっさりとした承諾はさすがに想定外だったのか、アデリーナは間抜けな声を発した。そんな無様な有り様にティーナは蔑みとともに舌打ちを返した。態度が悪いが相手が煮えきらないのでしょうがない。
「昔も言ったよなぁ。どんなに非効率的でも他に有効な手立てがあるならそっちにする、ってさ。でも結局そっちが打開策を提示出来なかったからうち等は踏み切ったんだ。そこの経緯を忘れちゃいないよなぁ?」
「……ああ。そこまで耄碌してはいない」
「じゃあ英雄様はこの数百年でさぞ素晴らしい解決案が思い浮かんだんだろ? 是非聞かせてくれ。どうやって邪精霊共からこの大森林とエルフを守るんだ?」
「邪精霊共を駆逐し、堕ちた同胞達は隔離したうえで精霊による浄化を行う。手間はかかるがそれで全て救われるんだ。何故それが分からない?」
「それは前も言っただろ! ただでさえ邪精霊共に取り込まれて弱った精霊に縋るなんて、そっちこそ何考えてるんだ! あーあー良く分かったよ。お前は希望的観測を捨てられないんだな」
「待て! どこに行く!?」
ティーナは踵を返して出口へと大股で進んでいく。アデリーナの呼び止めと同時に広間の隅で警護にあたっていたエルフの弓兵達が一斉に俺達へと狙いを定めてくる。それでもティーナの歩みが止まることは……いや、一旦アデリーナへと振り返った。
ティーナは親指で首を掻っ切って下へと向ける動作をした。それが何を意味するかはエルフ達にも分かったようで、一斉にどよめいた。中には憤怒で顔を歪ませて立ち上がろうとする者もいたが、直前でティーナに睨まれて怯んだ。だせぇ。
「もううちは知らない。勝手にやってろ。でも、もう二度とブラッドエルフが出ると思うなよ」
「私が貴女を見過ごすとでも思っているのか?」
「言っただろ? 拘束するつもりなら全力で逃げる、ってな!」
「ティーナ!」
アデリーナの嘆きを振り払うようにティーナは出口から飛び出した。そのまま通路を飛び越え、下へ下へと落ちていく。途中で風の魔法を使って落下速度を抑えて軽やかに着地、時間を置かずに疾走しだした。
……さて、じゃあ俺達も逃げるか。
「さよなーらー!」
ミカエラも軽快に手を振って通路の手すりを飛び越えて落下していった。イレーネもそれに続く。俺は……さすがにこの高さから飛び降りたら余裕で死ねるな。あいにく空は跳べても飛べないのだ。空を舞うなんて高度な闘気術は使えないんでね。
なので俺は脚に闘気を集中させ、大樹に足裏がくっつくようにした。片方の足裏が大樹に接している限り幹を地面のようにして歩くことが可能。体勢を崩さない感覚が重要。慎重に、素早く、けれど速度が出過ぎないぐらいには踏ん張りつつ俺は大樹を下っていく。
「遅いですよニッコロさん!」
「無茶言うな……! 壁歩きだってミカエラの無茶振りで覚えた芸当なの忘れてないよなぁ?」
「二人共、夫婦漫才はそれまでにして、早く逃げよう」
イレーネのツッコミどころ満載な指摘に賛同して俺達は走り出す。既にエルフの弓兵は俺達を止めるべく攻撃しており、うち何本か矢が俺やイレーネに当たってきた。聖騎士の全身鎧を着てなかったら蜂の巣になっていたことだろう。
こうして俺達は闇夜の中に姿をくらました。
エルフとの決別という結果を残して。
……いや、正確には分からず屋共を見限って立ち去った、だな。
10
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる