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第二章 焦熱魔王編

戦鎚聖騎士、堕ちたエルフを鏖殺する

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 程なく四番目のエルフの里が見えてきたわけだが、どうも様子がおかしい。近づいてるのに見回りが警戒してこない。それにどういうわけか、木の上に築いた村じゃなくて地表に家屋を作って生活していないか?

「まずいな……。あの里は完全に邪精霊に魅入られてるみたいだな」
「分かるのか?」
「うろついてる連中は全員変態してる。完全に魔物だな、アレだと」
「つまりは駆除するしかないってことか」

 ティーナが弓を引き絞る。しかし彼女が矢を放つ寸前、イレーネが前へ踏み出して突貫を敢行した。凄まじい速さで駆け抜けてすぐさま第一里人を一刀両断する。さすがのティーナも唖然とする他無かった。

「はぁ!? イレーネったら何を考えてるんだ!?」
「多分、大森林に入ってからティーナが遠距離狙撃ばっかするから、剣を振るいたくてウズウズしてたんだろ。しょうがない、俺も出て援護する」
「でもうちが遠くから射た方が確実で安全で効率的だろ……」
「理屈の問題じゃないんじゃないか? 彼女はリビングアーマー。武具ってのは使われてナンボだろ」

 呆れ果てるティーナを置いて俺も飛び出した。次々と斬り伏せるティーナにかかりきりでコラプテッドエルフ共は俺の接近に気づかない。おかげで最初の一人は何の苦労もなく脳天を戦鎚でかち割れた。

 コラプテッドエルフ共は最初の里で目撃した個体よりも確かに異形化が進んでいた。具体的には獣のように毛むくじゃらになって牙を剥く奴や、逆に体毛が抜け落ちて目をぎょろぎょろさせて歪んだ口からよだれ垂らす魔物同然の奴とか。

 恐ろしいことに今度の連中は幾分か知性を取り戻しているらしく、何かしらの言葉を発していた。すまんね、俺はエルフの共通語なんてあまり分からんのだ。後でティーナに聞いたら覚える必要もない低レベルの罵りだ、としか説明が無かった。

「ああもう、しょうがないなぁ!」

 ティーナも悪態をつきながら俺達に加勢、物陰から俺達を狙う射手を仕留めていく。もはや殺すしかない、それが彼らにとっても慈悲だ、とは分かっていても、それにしたって元同胞に対して容赦無いな。覚悟が決まってるってわけか。

 掃討は特段苦労することもなかった。俺は容赦なくぶちのめすだけだったし、危機はティーナの援護もあって皆無。手強い相手も死闘の末に問題なく処理出来たし。元は幼い子供だったらしきゴブリンっぽい小さな奴がいたのは衝撃だったけど。

 結果、俺達は汚染されたエルフの里に死体の山を築きあげたのだった。

「こんなものか。それで、後処理はどうするの?」

 血糊を丁寧に拭いてから剣を鞘に収めたイレーネはティーナに意見を伺う。ティーナは辺りを見回し、死体を見聞し、土と触って感触を確かめる。そして彼女は深刻は表情で立ち上がり、俺達に里から出るよう促した。

「この里はもう駄目だ。全部焼き払う」

 彼女が放った矢はもう生者の残っていない里の中心の樹に突き刺さり、すぐさま炎の渦を発生させた。炎と熱風が周りの樹、土、遺体を燃やしていく。住民なき家屋は炎にあぶられて形を崩していき、大地へと落下していく。

 ティーナは結果を見届けず、踵を返して里から離れ始めた。俺達もこれ以上ここに留まったところで何もないだろうし、ティーナの後を追う。普段の明るい彼女とはうって変わり、その面持ちは復讐者のように憎悪と憤怒に満ちていた。

「ティーナ。言っておきますけれど、余達の目的はあくまで聖地巡礼ですからね。邪精霊達の掃討をしたいならここでお別れですよ」
「……分かってるさー。うちだって目の前に起こってることが見過ごせないだけで、昔みたいに大森林を守るためにしらみつぶしに回るつもりは無いから」
「随分と辛辣だけどよ、魔王軍を統率出来てないミカエラだって充分に責任あるんじゃないのか?」
「うぐっ。それを言われると苦しいですけど!」

 まだ太陽は天高く昇ったまま。日暮れまではもう少し時間がある。このまま次の里まで向かってしまおう。そんな提案をティーナがしたその時だった。彼女は突如矢を放とうと身構えたが、すぐさま警戒を解いた。

 樹の影から姿を見せたのはエルフの弓兵。彼らは誰もが弓をひいて俺達を狙ったままで距離を詰めてくる。ティーナは弓を背負い直して腕を組むことで敵意がないことを示すものの、その表情は憮然としていた。

「森の守護兵が今更うち等に何の用だー?」
「お前達を連行する。大人しく付いてきてもらおう」
「何の権限があって? 従う義務も義理も無いぞ」
「黙れ! さもなければお前達をこの場で射る!」

 やってみろよ、と挑発したい気持ちを抑えて俺はミカエラを見やった。彼女は顔を横に振る。敵対は望まないという意思を受け取った俺もまた手にしていた戦鎚と盾を背負う。そして空になって手を前方でぶらぶらさせる。

「……来い。首長がお待ちだ」

 俺達はエルフの弓兵に挟まれながら森の奥深くへと進んでいった。
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