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第二章 焦熱魔王編
戦鎚聖騎士、焦熱魔王と戦い始める(前)
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「焦熱の魔王、か。随分と懐かしい呼び方だなー」
焦熱魔王、という単語を耳にしたティーナは若干寂しそうな表情を見せる。
ブラッドエルフ、を自称するエルフの一団があったそうな。エルフの森を侵食する魔王軍に対抗すべく、魔を森ごと焼き払う術で対抗した異端者達。彼らはエルフの汚点と見なされて歴史の表舞台から抹消された。その存在を今も知るのは人類でもごく一部で、聖女はその例外の一つだそうだ。俺はミカエラから教わった。
焦熱の魔王と呼ばれる存在は正確には二人いて、一人は正真正銘地獄の火炎の化身だったらしい。おそらく火の邪精霊だったんだろう、とはミカエラ談だ。この時の魔王軍は邪精霊軍が主力だったため、人類権は自然災害に苦しめられたそうな。
もう一人の焦熱の魔王は、邪精霊に汚染される森を焼き払う為に火炎魔法を習得したブラッドエルフ達を指す。中でも最終的に焦熱の魔王を焼き尽くしたブラッドエルフがそう呼ばれたのだとか何とか。
歴史上では両者共これから行こうとする聖地で討伐されたと伝えられている。しかしイレーネの例があった以上、ティーナもまた何らかの方法で生還を果たしたと考えられる。そして今なお人間社会で過ごしているのだ。凄腕の冒険者として。
「ま、ウチの事情は今どうでもいいな。それよりミカエラ達って正体はさておき一応聖女パーティーなんだろ? どうして邪精霊共の味方してるのさ?」
ぐうの音も出ないぐらいの正論を突きつけてきたな。俺だってこんな汚泥共の片棒なんざ担ぎたくないわ。しかしミカエラが連中の面倒見るっつーならそれを叶えてやらなきゃミカエラの騎士とは言えねえよなぁ。
「詳しく説明してるとクソ長くなるからかいつまむぞ。魔王軍は魔王派と正統派で仲間割れ中、この汚泥共は魔王派。勇み足だったから強制的に帰還させようとしてる。魔王派の戦力が減るのは勘弁。分かったか?」
「ふーん。で、人間に結構な犠牲が出てることについては悔い改めないのか?」
「……後でミカエラが懲戒処分する、でどうだ?」
「話にならないな。邪精霊共は言葉こそ通じても意思疎通は無理な連中だ。頭を下げて謝ってきても内心では舌を出してるに決まってる」
これまた反論のしようがない。邪精霊は人類と価値観が全く違っていて相互理解はまず不可能。真っ先に滅ぼすべき邪悪なる存在、というのが人類の共通認識だ。大人しく撤収しようとしてるのも魔王のミカエラが命じたからだ。
あーやだやだ。俺だって本当なら汚泥共に落とし前をつけてやりたくてしょうがない。水の精霊を堕落させ、精霊の神官達を泥人形に埋め、神殿と街を汚泥だらけにしたんだ。帰ります、はいそうですか、は都合が良すぎるよなぁ。
「最後通告だ。そこをどけ」
「やなこった」
俺が間違ってるのは分かってる。
分かった上で俺はティーナに立ちはだかった。
ティーナの端麗な顔が憎しみと怒りで歪む。
「おいニッコロ。それが何を意味するのか分かってやってるのか?」
「当然。それぐらいの覚悟は決めてるさ」
「魔王の騎士気取りか? 止めておけ。ろくな目にあわないぞ」
「関係無いね。魔王だろうが聖女だろうが知るもんか。ミカエラがやりたいと言うなら俺は手を貸す。それだけの話だ!」
ティーナは視線を僅かにずらして湖の中央で帰還魔法を発動しようとしているミカエラを見やる。それも少しの間だけ。再び対峙する俺とイレーネを見据え、静かに矢を弓につがえた。
「しょうがないなぁ。気乗りはしないんだけれど、さ」
ティーナの目つきが鋭くなった。獲物を逃さない狩人のそれだった。
「邪精霊滅ぶべし。慈悲はない!」
ティーナの射た矢は俺の顔……いや、唯一兜に覆われていない目元めがけて飛んできた。俺はすかさず盾で庇い、直後に衝撃が左腕を襲った。どうやら魔法は付与していなかったようで、矢を盾で弾いただけで済んだ。
しかし直後、俺の取った動作は無意識のものだった。ティーネの殺気を感じ取ったのか、それなりの経験から来る本能的な反応だったのか。ともかく戦鎚を掲げて脚の付根を覆い、直後に甲高い音が鳴り響いた。弾かれた矢が地面に落ちる。
ティーナはなんと初撃で俺の目を、二撃目で全身鎧の隙間である股関節部を狙ってきたのだ。時間差なんてほんのわずか。狙いを付けるどころか弓を引く時間すら充分にあったかも怪しい。それもうんと遠くにいる相手めがけた正確な射撃を実行してのけた精密さ。戦慄するしかないだろう。
焦熱魔王、という単語を耳にしたティーナは若干寂しそうな表情を見せる。
ブラッドエルフ、を自称するエルフの一団があったそうな。エルフの森を侵食する魔王軍に対抗すべく、魔を森ごと焼き払う術で対抗した異端者達。彼らはエルフの汚点と見なされて歴史の表舞台から抹消された。その存在を今も知るのは人類でもごく一部で、聖女はその例外の一つだそうだ。俺はミカエラから教わった。
焦熱の魔王と呼ばれる存在は正確には二人いて、一人は正真正銘地獄の火炎の化身だったらしい。おそらく火の邪精霊だったんだろう、とはミカエラ談だ。この時の魔王軍は邪精霊軍が主力だったため、人類権は自然災害に苦しめられたそうな。
もう一人の焦熱の魔王は、邪精霊に汚染される森を焼き払う為に火炎魔法を習得したブラッドエルフ達を指す。中でも最終的に焦熱の魔王を焼き尽くしたブラッドエルフがそう呼ばれたのだとか何とか。
歴史上では両者共これから行こうとする聖地で討伐されたと伝えられている。しかしイレーネの例があった以上、ティーナもまた何らかの方法で生還を果たしたと考えられる。そして今なお人間社会で過ごしているのだ。凄腕の冒険者として。
「ま、ウチの事情は今どうでもいいな。それよりミカエラ達って正体はさておき一応聖女パーティーなんだろ? どうして邪精霊共の味方してるのさ?」
ぐうの音も出ないぐらいの正論を突きつけてきたな。俺だってこんな汚泥共の片棒なんざ担ぎたくないわ。しかしミカエラが連中の面倒見るっつーならそれを叶えてやらなきゃミカエラの騎士とは言えねえよなぁ。
「詳しく説明してるとクソ長くなるからかいつまむぞ。魔王軍は魔王派と正統派で仲間割れ中、この汚泥共は魔王派。勇み足だったから強制的に帰還させようとしてる。魔王派の戦力が減るのは勘弁。分かったか?」
「ふーん。で、人間に結構な犠牲が出てることについては悔い改めないのか?」
「……後でミカエラが懲戒処分する、でどうだ?」
「話にならないな。邪精霊共は言葉こそ通じても意思疎通は無理な連中だ。頭を下げて謝ってきても内心では舌を出してるに決まってる」
これまた反論のしようがない。邪精霊は人類と価値観が全く違っていて相互理解はまず不可能。真っ先に滅ぼすべき邪悪なる存在、というのが人類の共通認識だ。大人しく撤収しようとしてるのも魔王のミカエラが命じたからだ。
あーやだやだ。俺だって本当なら汚泥共に落とし前をつけてやりたくてしょうがない。水の精霊を堕落させ、精霊の神官達を泥人形に埋め、神殿と街を汚泥だらけにしたんだ。帰ります、はいそうですか、は都合が良すぎるよなぁ。
「最後通告だ。そこをどけ」
「やなこった」
俺が間違ってるのは分かってる。
分かった上で俺はティーナに立ちはだかった。
ティーナの端麗な顔が憎しみと怒りで歪む。
「おいニッコロ。それが何を意味するのか分かってやってるのか?」
「当然。それぐらいの覚悟は決めてるさ」
「魔王の騎士気取りか? 止めておけ。ろくな目にあわないぞ」
「関係無いね。魔王だろうが聖女だろうが知るもんか。ミカエラがやりたいと言うなら俺は手を貸す。それだけの話だ!」
ティーナは視線を僅かにずらして湖の中央で帰還魔法を発動しようとしているミカエラを見やる。それも少しの間だけ。再び対峙する俺とイレーネを見据え、静かに矢を弓につがえた。
「しょうがないなぁ。気乗りはしないんだけれど、さ」
ティーナの目つきが鋭くなった。獲物を逃さない狩人のそれだった。
「邪精霊滅ぶべし。慈悲はない!」
ティーナの射た矢は俺の顔……いや、唯一兜に覆われていない目元めがけて飛んできた。俺はすかさず盾で庇い、直後に衝撃が左腕を襲った。どうやら魔法は付与していなかったようで、矢を盾で弾いただけで済んだ。
しかし直後、俺の取った動作は無意識のものだった。ティーネの殺気を感じ取ったのか、それなりの経験から来る本能的な反応だったのか。ともかく戦鎚を掲げて脚の付根を覆い、直後に甲高い音が鳴り響いた。弾かれた矢が地面に落ちる。
ティーナはなんと初撃で俺の目を、二撃目で全身鎧の隙間である股関節部を狙ってきたのだ。時間差なんてほんのわずか。狙いを付けるどころか弓を引く時間すら充分にあったかも怪しい。それもうんと遠くにいる相手めがけた正確な射撃を実行してのけた精密さ。戦慄するしかないだろう。
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