新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

文字の大きさ
上 下
61 / 209
第二章 焦熱魔王編

戦鎚聖騎士、焦熱魔王と戦い始める(前)

しおりを挟む
「焦熱の魔王、か。随分と懐かしい呼び方だなー」

 焦熱魔王、という単語を耳にしたティーナは若干寂しそうな表情を見せる。

 ブラッドエルフ、を自称するエルフの一団があったそうな。エルフの森を侵食する魔王軍に対抗すべく、魔を森ごと焼き払う術で対抗した異端者達。彼らはエルフの汚点と見なされて歴史の表舞台から抹消された。その存在を今も知るのは人類でもごく一部で、聖女はその例外の一つだそうだ。俺はミカエラから教わった。

 焦熱の魔王と呼ばれる存在は正確には二人いて、一人は正真正銘地獄の火炎の化身だったらしい。おそらく火の邪精霊だったんだろう、とはミカエラ談だ。この時の魔王軍は邪精霊軍が主力だったため、人類権は自然災害に苦しめられたそうな。

 もう一人の焦熱の魔王は、邪精霊に汚染される森を焼き払う為に火炎魔法を習得したブラッドエルフ達を指す。中でも最終的に焦熱の魔王を焼き尽くしたブラッドエルフがそう呼ばれたのだとか何とか。

 歴史上では両者共これから行こうとする聖地で討伐されたと伝えられている。しかしイレーネの例があった以上、ティーナもまた何らかの方法で生還を果たしたと考えられる。そして今なお人間社会で過ごしているのだ。凄腕の冒険者として。

「ま、ウチの事情は今どうでもいいな。それよりミカエラ達って正体はさておき一応聖女パーティーなんだろ? どうして邪精霊共の味方してるのさ?」

 ぐうの音も出ないぐらいの正論を突きつけてきたな。俺だってこんな汚泥共の片棒なんざ担ぎたくないわ。しかしミカエラが連中の面倒見るっつーならそれを叶えてやらなきゃミカエラの騎士とは言えねえよなぁ。

「詳しく説明してるとクソ長くなるからかいつまむぞ。魔王軍は魔王派と正統派で仲間割れ中、この汚泥共は魔王派。勇み足だったから強制的に帰還させようとしてる。魔王派の戦力が減るのは勘弁。分かったか?」
「ふーん。で、人間に結構な犠牲が出てることについては悔い改めないのか?」
「……後でミカエラが懲戒処分する、でどうだ?」
「話にならないな。邪精霊共は言葉こそ通じても意思疎通は無理な連中だ。頭を下げて謝ってきても内心では舌を出してるに決まってる」

 これまた反論のしようがない。邪精霊は人類と価値観が全く違っていて相互理解はまず不可能。真っ先に滅ぼすべき邪悪なる存在、というのが人類の共通認識だ。大人しく撤収しようとしてるのも魔王のミカエラが命じたからだ。

 あーやだやだ。俺だって本当なら汚泥共に落とし前をつけてやりたくてしょうがない。水の精霊を堕落させ、精霊の神官達を泥人形に埋め、神殿と街を汚泥だらけにしたんだ。帰ります、はいそうですか、は都合が良すぎるよなぁ。

「最後通告だ。そこをどけ」
「やなこった」

 俺が間違ってるのは分かってる。
 分かった上で俺はティーナに立ちはだかった。
 ティーナの端麗な顔が憎しみと怒りで歪む。

「おいニッコロ。それが何を意味するのか分かってやってるのか?」
「当然。それぐらいの覚悟は決めてるさ」
「魔王の騎士気取りか? 止めておけ。ろくな目にあわないぞ」
「関係無いね。魔王だろうが聖女だろうが知るもんか。ミカエラがやりたいと言うなら俺は手を貸す。それだけの話だ!」

 ティーナは視線を僅かにずらして湖の中央で帰還魔法を発動しようとしているミカエラを見やる。それも少しの間だけ。再び対峙する俺とイレーネを見据え、静かに矢を弓につがえた。

「しょうがないなぁ。気乗りはしないんだけれど、さ」

 ティーナの目つきが鋭くなった。獲物を逃さない狩人のそれだった。

「邪精霊滅ぶべし。慈悲はない!」

 ティーナの射た矢は俺の顔……いや、唯一兜に覆われていない目元めがけて飛んできた。俺はすかさず盾で庇い、直後に衝撃が左腕を襲った。どうやら魔法は付与していなかったようで、矢を盾で弾いただけで済んだ。

 しかし直後、俺の取った動作は無意識のものだった。ティーネの殺気を感じ取ったのか、それなりの経験から来る本能的な反応だったのか。ともかく戦鎚を掲げて脚の付根を覆い、直後に甲高い音が鳴り響いた。弾かれた矢が地面に落ちる。

 ティーナはなんと初撃で俺の目を、二撃目で全身鎧の隙間である股関節部を狙ってきたのだ。時間差なんてほんのわずか。狙いを付けるどころか弓を引く時間すら充分にあったかも怪しい。それもうんと遠くにいる相手めがけた正確な射撃を実行してのけた精密さ。戦慄するしかないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...