新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第二章 焦熱魔王編

聖女魔王、新たな異変に浮かない顔をする(前)

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「うちはティーナって言うんだ。よろしくなー!」
「俺はニッコロ。こっちの二人は右からミカエラ、イレーネ。見てくれりゃあ分かると思うんだが……」
「聖女ご一行か! 遭遇するのむちゃくちゃ久しぶりだなぁ。何か教会から無理難題でもふっかけられたのかー?」
「いんや、聖地巡礼の旅の途中だ」

 ティーナと名乗ったエルフの射手がヘルコンドルの死体を解体する作業を眺めながら俺達は雑談に明け暮れた。ティーナがこっち来た時点で俺達はこの場を離れても良かったんだが、彼女の弓の腕前に興味惹かれたのが俺達を思い留まらせた。

 皮を剥ぎ、内臓を取り、肉を包む。一連の作業は手際が良く、何度も同じことを繰り返して身体に覚え込ませたのが窺えた。遠くに落下したヘルコンドルの死体は俺とイレーネがこの場まで持ってきておいた。

「エルフは弓の名手だとは聞いてたが……誰も彼もあんな超遠距離から射抜けるほど凄いのか?」
「まさか! うちぐらいの腕前の名手はここ最近会ってないぞ。多分うちが最強なんじゃないかー?」
「それにしても、ここからエルフの森って結構遠いだろ。狩りの範囲って思ったより広いのか?」
「違うなー。うちが森を出て人間社会に溶け込んでるだけだって。これでも白金級冒険者なんだぞ」
「そりゃ凄い!」

 白金級冒険者にもなれば冒険者ギルドはおろか国からも重宝されるほどの一流。単独でも災害級の魔物を討伐出来るほどの実力を持つ者もいるとされる。もはや英雄と呼んでも差し支えない傑物だろう。

 ちなみに最上位である金剛級冒険者は勇者や聖女に並ぶほどの偉大なる存在だ。ただ魔物を討伐するばかりでなく未知の解明や未開の地の探索など、歴史に残る多くの功績を残して初めて認定される。ほぼ名誉職に近い扱いとも言える。

 つまり、ティーネは実質的に冒険者の頂点とも言える存在だろう。

「白金級ほどの地位にいるなら、こんな害鳥退治をしてる暇なんか無いんじゃないか? 国やギルドからの公式な依頼で引っ張りだこだろ」
「冒険者ギルドに認めさせてるからいいんだ。白金級の認定だって本当なら辞退したかったのに、ギルド本部のお偉いさんに泣いて頭下げられたから渋々受け入れたぐらいだからなー」
「それだけの我儘が許されてるってことか」
「ま、一応それなりに働いてるから見逃されてるのもあるんだろうなー」

 ティーナはヘルコンドルの解体作業を終えて荷物を背負った。解体したヘルコンドルは組み立て式の荷車に乗せる。聞けば依頼達成の証拠として提出する部位以外は最寄りの町まで持ち帰って売り払う算段なんだとか。

 俺達も今日宿泊予定の町まで行くとしよう、ってことで道まで戻って馬車を出発させようとしたんだが、それを見たティーナが「あ~っ!」とか大声を上げてこっちを指差してきた。

「ずるいぞずるい~! そんな便利なのがあるんだったらうちも乗せてってよ!」
「何を言ってるんですか。これは余達のために教会が用意してくれたものですよ」
「金か? 金ならこのヘルコンドルの肉と皮を売った金でどうだ?」
「お金の問題じゃなくてですねぇ」

 ティーナのお願いにミカエラが難色を示したのは、これ以上大所帯になって自分と俺の二人旅を邪魔されたくないからだろう。ただでさえイレーネが加わって賑やかになったのに、ほんの一時的にでも増えてほしくないみたいだ。

「……どうします?」
「どうせかごの中は誰も乗ってないんだから、町までならいいんじゃないか? 勿論乗車賃はしっかり貰うとしてさ」
「ですよねぇ。ニッコロさんだったらそう言いますよねぇ」
「いや、ミカエラが嫌なら断るけど?」
「別に嫌だってほどじゃないから困るんですってば」

 一応イレーネにも意見を聞いてみたけれど、彼女はティーナなら道中の邪魔にならないから構わないと答えてきた。拒絶する理由も無いので問題ないことをティーナに伝える。するとティーナは明るい笑顔で感謝を告げた。

「ヘルコンドルの肉とかはかごの後ろにある荷物入れに入れさせてもらうな」
「そうしてくれ。かごの中が血生臭くなったらかなわないからな」
「じゃ、短い間だけよろしくな!」
「えっ!?」

 ティーナはなんと馬車のかごの中に入らず、屋根の上に降り立つ。御者席から目を丸くして見上げる俺達に向けてティーナは軽く手を振った。

「振り落とされないからこのまま出発してくれなー。進行の邪魔になる魔物が出てきたら全部うちが片付けるからさー」
「うーん。まあ、ティーナがそれでいいなら」

 釈然としなかったものの、本人がそう言うのなら、と馬車を走らせる。
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