新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

文字の大きさ
上 下
49 / 209
第一章 勇者魔王編

【過去話】戦鎚聖騎士、サイクロプスを討伐する(前)

しおりを挟む
 村ではささやかながら夕食をごちそうになり、翌朝日が出る前に出発した。山間部への道を歩むのは俺達だけ。サイクロプスが出現する前は林業や狩猟でそれなりに往来があったそうな。

 天気は曇り。雲が白いから雨は降りそうにない。晴天だと暑くなるし雨だと最悪だから丁度いい。昨日かき集めた情報だと今日は天気が崩れる可能性は低いらしいので、魔物討伐に専念できる。

「そう言えば。ラファエラはどうして聖女になろうと思ったんだ?」

 俺は道中の退屈しのぎに質問を投げかけてみた。

 何せラファエラぐらい優秀だったらどこに行っても引く手数多だろうに。聖女としての名声や扱いと引き換えに過酷な奉仕や危険な場所への派遣などをこなさなければいけない。彼女ほどの能力があれば割に合わない、と考えていたからだ。

 俺の質問を聞いたヴィットーリオは僅かに表情を曇らせ、次には覚悟を決めた面持ちになる。爽やかな好青年って印象な彼にしては珍しい反応だった。どうやら重い事情があるらしい。

「最初に言ったでしょう。苦しむ人達を助けたいって」
「それは抱負であってきっかけじゃないな」
「ちなみにニッコロさんは格好いい聖騎士になりたいからなんですよ!」
「それ暴露する必要あるかぁ!? いや、まあ、俺のことは置いといて、将来の夢をはるかに超えて宿願にしてるように思えてね。何がラファエラを聖女に結びつけようとしてるのか、気になった」
「……そうね。丁度いい機会だからニッコロくんとミカエラさんには教えるわ」

 短くない沈黙の後、ラファエラは聖女見習いの祭服の袖を大胆にめくった。露出した腕は日々鍛えてる俺達より遥かに細く、華奢で白い。しかし、肉の付き具合とは肌の調子とかが全く気にならない要素が彼女の腕にはあった。

 ラファエラの腕には紋様が刻まれていた。幾何学的なそれは化粧ではなく傷跡に近い感じだろうか。それが手の平から腕を伝って肩、胴まで伸びていた。ぱっと見は魔法陣というより宗教画を思わせるそれは、まさか――。

「聖痕……」

 神により選ばれし、正真正銘の聖女の証だった。

 聖痕が現れた子供は聖者または聖女になる運命にある。教会は聖痕持ちの聖者や聖女が人々を救済する援助が目的で組織されたようなもの、と言い切ってもいいだろう。それぐらい人類にとっては重要な存在なのだ。

 奇跡を使える一般聖女はそれなりの数がいるが、聖痕持ちの聖女は一つの時代にただ一人。誕生したら必ずや人類に試練がもたらされる。例えば新たな魔王の出現、例えば天災級の邪竜の復活。聖痕持ちはそんな絶望と苦難から人々を救う希望となる。

 学院時代は魔王復活の兆候すらなく、先代の魔王が討伐されて久しかった。魔王軍に攻め滅ぼされた国も多くあったが、復興も進んで人々は平和に過ごしていた。新たな時代は再び転換期を迎えるってことか。

「こういうこと。私は聖女にならなきゃいけないし、みんなを救う使命があるのよ」

 ラファエラは決意が込められた引き締まった顔で述べた。己の宿命を受け入れ、それを果たそうとする覚悟に満ちていた。まだ聖女になっていなかったが、彼女からは既に並々ならぬ存在感と尊さを感じた。

 俺は思わずヴィットーリオに視線を移していた。彼は何も言わない代わりに強く頷くことで返事を示してきた。どうやら彼のラファエラ守る宣言はこの事情込みの話だったようだ。

「へぇ~成程ー。そうだったんですね!」

 ミカエラが憧れを表すようにはしゃぐ。自分こそが聖女にって日々足を引っ張り合う聖女候補者も聖痕持ちは敬う対象。ミカエラのこの反応は一介の聖女候補者としてはごく普通だったんだが、これには全く別の意味があったのだと今なら分かる。

 ミカエラにとってラファエラはこの時初めて興味を引く対象になったのだ。そして新たな聖痕持ち聖女の誕生を祝福した。決して仲間としてではない。ミカエラは、聖女が祓うべき魔王として彼女を歓迎していたのだ。

「水臭いですねー。なら余も聖女としてラファエラを支えますからね!」
「いいの? 私が聖痕を授かった意味、分かるでしょう?」
「関係ありませんねー。魔王だろうが邪神だろうがどんとこい!ですよ」
「ふふっ。頼もしいわね」

 見栄を張ったわけじゃないだろう。ミカエラだったら魔王や邪神が立ちはだかろうが跳ね除けるだろう、という謎の安心感があった。これはミカエラが魔王なのとは関係なく、不安を打ち払う彼女の気質によるものが大きい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...