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第一章 勇者魔王編

【過去話】戦鎚聖騎士、学院時代をふりかえる(前)

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 俺が聖騎士を目指したのはたまたま故郷にやってきた聖騎士が格好良かったから憧れたってだけで、別に魔物に恨みがあったり悲しい過去があるわけじゃない。ごくありふれたきっかけってやつだろう。

 そんな俺の特訓だとか勉強とか、故郷を離れて都会や教国総本山の会場で受けた試験の様子は物凄くつまらないので端折るとしよう。合格はしたんだが成績は下から数えた方が早かった、とだけ言っておく。

 人間を救済する聖女、それを守る盾となる聖騎士を育成する機関、教国学院。ここに入れるだけでも故郷じゃ自慢できるぐらいなんだが、聖女や聖騎士になれる奴はごく一握り。少ない椅子をかけて生徒達は争うことになる。

 そんなんだから、生徒達の半分ほどが聖女になる、または聖騎士になることを目指し、残りの何割かが初めから諦めて高位の女神官、神官を志望していた。俺もよしんば聖騎士になれなくてもいっか、とか入学の時は考えてたんだがね。

「余はミカエラ。いずれ聖女となって奇跡を成す者です」

 なもので、聖女であることを前提にして将来を語るミカエラには驚いたものだ。

 □□□

「それにしても、学院の中って結構ギスギスしてますよね。崇高な目的で建てられた機関だって聞いてたから、もっと厳粛かと思ってたんですけど」
「そりゃそうだ。聖女や聖騎士になれるのは指で数えられる程度。なら自分を高めるだけじゃなく相手の足を引っ張るのも有効だろ」
「そんな汚い真似して聖女になったとして、恥ずかしくないんですかね?」
「結果が出れば過程や方法なんざどうでもいいんだろ」

 その後どうもミカエラには気に入られちまったみたいで、学院生活は常にミカエラと共に過ごしたと言って過言ではない。単純にお互い気が合ったのもあったんだが、他の連中とは距離を起きたかったのも大きい。

 学院の中は正直息苦しかった。切磋琢磨しあってる、と表現すれば聞こえが良いんだが、いかに相手を邪魔して蹴落とすかをどいつもこいつも常に考えてるっぽくてね。いちいち会話の端々に牽制と窺いが入るんだわ。

 そんなんだから、我が身を守るために自然と固まるようになって、所謂派閥が出来上がった。どこの派閥にどこの有力者の子息が属してるから安全、とか、あの派閥にいる生徒はかの聖女の覚えが良いから近づこう、とかな。馬鹿らしいよな。

 じゃあ四六時中ミカエラとばっか付き合ってたかっていうと、勿論違う。

「やりたい奴はやらせておけばいいじゃないの。その間に自己研磨をするだけね」
「先生方は生徒の生活態度も見ているから、正しく評価されるさ」

 俺達と同じように一連の風潮を馬鹿らしく思う奴と自然と仲良くなった。
 それが俺達の同級生、聖女候補者ラファエラと、聖騎士ヴィットーリオだ。

 このラファエラ、最終的に首席聖女として卒業してる。実技こそミカエラに及ばなかったが、奉仕や筆記などその他の成績で尽くミカエラを上回る好成績を叩き出してたな。ミカエラが悔しそうに再戦を挑む場面が何度あったことか。

 そしてヴィットーリオ、彼も首席聖騎士として卒業した。もう強えの何の。防御は突破できないし剣の振りは鋭いし。何より突出した技能は無くて全体的に高水準の能力にまとまってる。器用万能ってヴィットーリオのことを言うんだろう。

 で、このラファエラとヴィットーリオはなんと同郷の幼馴染なんだそうだ。なもので、この二人は一緒にいるのが当たり前。口喧嘩してたら痴話喧嘩とか夫婦漫才と見なされてたっけ。もうお前ら付き合っちまえよ、と誰もが思ったことだろう。

「私はラファエラ。聖女となって苦しむ人々を助けていきます」

 入学当時の自己紹介の際、ラファエラはそう言い切っていた。彼女は自分が聖女となる未来を全く疑っていなかった。自信にあふれるとかそんなんじゃなく、まるでそうなるのが運命だとか神の導きだとか言うように。

「俺はラファエラが聖女になるから聖騎士になるんだ。ラファエラを守れるように」

 ヴィットーリオもヴィットーリオで、最初の挨拶で当たり前のように、恥ずかしげもなくそう言ってのけた。あまりにも真っ直ぐすぎて誰も彼をからかうことはなかった。かといって冗談もあまり通じないので、積極的に交流を深めようとする奴も少なかったが。
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