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第一章 勇者魔王編

妖魔軍長、反逆者を粛清する

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 既に勝敗は決したも同然で、敵側は瞬く間に数を減らしていく。

 劣勢を悟った何体かが軽く悲鳴を上げて怯んだ。しかしまだ降伏する様子は無いので容赦無く追い打ちをかける。グリセルダ達も同じ認識のようで、攻撃の手は決して止めなかった。

「馬鹿な、我らは誇り高き妖魔だぞ! 人間や淫魔ごときに負けるなど、あってはならないぃぃ!」

 善戦してた、というか素早くて力も強い個体のラミアが雄叫びをあげながらグリセルダへと突撃する。距離的に俺では迎撃に間に合わない。メイド部隊が攻撃魔法を浴びせるも、そのラミアは致命傷を避けるよう腕で防御して凌いだ。

「この不届き者めぇぇ死ねぇぇ!!」
「マジックレイ・ストリーム!」

 そしてその巨体がグリセルダへとのしかかる間際だった。グリセルダの両手から発せられた魔力の奔流がラミアへ襲いかかった。それはさながら鉄砲水を受ける人や大木のように容赦なく敵を押し流す。

 ラミアは壁に激突しても押しやられる勢いはやまず、満天の星が覆う夜の空へと身体をあらぬ方向に曲げたり捻らせながら吹っ飛んでいった。アレが落ちた先から本当に小さく騒動が起こったような悲鳴が聞こえてくる。

 これによって正統派の妖魔は全滅。戦闘は終了となった。

「さすがですグリセルダ! いつ見ても素晴らしい光波熱線魔法ですね」
「お褒めに預かり恐縮です」

 拍手喝采で絶賛するミカエラに向けてグリセルダは礼を述べ、部屋の片隅で固唾を飲んでいたナーディア達数名を見据えた。何名かが青ざめた顔で怯えたが、ナーディアは気丈にも勇気を振り絞り、グリセルダの前に跪く。

「軍長、この度のお咎めはどうかわたしだけにしてください。他の者は上司から命令されて嫌々従っていたんです」
「でしたら帰ったら掃除当番を一週間ほどやってもらいましょうか」
「……え? その程度でいいんですか?」
「上司の不手際の責任を取る必要はありませんよ。よくぞ最後の一線で踏み止まりましたね」

 どうやらナーディア達離反組はかろうじて許してもらえそうだ。これでいいんですよね、とグリセルダがミカエラにウィンクをしてきたので、ミカエラは満足そうに頷いて返す。

「ナーディアはノエミと一緒にここで事態の収拾にあたりなさい。わたくしはこのままヴェロニカの後を追います」
「「畏まりました、グリセルダ様」」

 ノエミと呼ばれたメイドの一人とナーディアは恭しく一礼し、慌ただしく動き出した。ミカエラはその間に俺の手を引いて店を脱出、店の外で大騒ぎする観衆達の間を縫うように進んでいく。

 後方から「主様、お待ち下さいませ~!」とのグリセルダの声が聞こえてくるので、多分彼女やメイド風の部下数名も俺達に続いているんだろう。とは言え俺は魔王軍の一員じゃないので待ってやる道理は無いので、無視して走り続ける。

「で、その妖魔軍副長のヴェロニカって強いのか?」
「強いですよ。六本腕にそれぞれ曲刀を持つ、魔王軍有数の武芸者です。他にも炎属性の魔王にも秀でてましたっけ。ニッコロさんだったら……余とグリセルダ達の援護があってようやく五分ってぐらいですか」
「援護ありとはいえ俺一人で戦えるなら、大教会に残ってる騎士を総動員すれば何とか退治できそうだな」
「うーん、彼らの出番ってありますかね?」

 そうなんだよなぁ。一応急いで駆けつけてるけれど、正直俺の出番はもう無い気がしてたまらない。
 だって、なあ。大教会には彼女がいるしなぁ。

 そんなわけで混乱する聖地の街の中を走破した俺達は大教会まで戻ってきた。そして目の当たりにした光景は、大教会を守ろうと懸命に戦って命を落とした騎士達、街を守ろうと戦って重傷を負った冒険者達、仕留められた妖魔が数体、そして……、

「ふんっ、ようやくお出ましか」

 六本の曲刀を装備して、その巨体を活かして上方から見下ろしてくるヴェロニカ。
 対するは喉元を守る首輪だけ装備した寝間着姿のイレーネ。
 どうやら状況としては前哨戦が終わった段階で、これからが本番なようだ。

 イレーネは何やら口上を並べるヴェロニカを完全に無視し、静かに手を上にかざした。すると、彼女の手の平から光、そして闇の粒子がこぼれ落ちてくる。イレーネが力ある言葉を吠えるように発したために。

「フォトンアームド!」

 寝間着が光となって消え、イレーネの身体を光と闇が包み込み、瞬く間に魔王の鎧に完全武装された。そして地面に突き刺さった二振りの剣を鞘から抜き、威勢よく構えを取る。

「勇者イレーネ、見参!」

 いや、お前も名乗るのかよ。
 しかしこの場においては誰よりも頼もしく、そして格好良かった。
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