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第一章 勇者魔王編
戦鎚聖騎士、敵の拠点に乗り込む(後)
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「だからわたしは反対だったのよ。魔王様や軍長に逆らって古の魔王を蘇らせようとしたって、すぐにバレるって……」
観念したスキュラの女の子は悲痛な面持ちで語り始めた。その嘆きは後悔やら不満やらが入り混じっていて、組織に属することへの理不尽さが滲み出ていた。社会への苦悩は学院を巣立って間もない俺は味わっていないが、一生無縁でありたいな。
「グリセルダの話だと妖魔軍の相当数が正統派に組みしてるらしいですけれど?」
「上司に逆らえないで嫌々従わされてる者も結構いるわ。逆に魔王派を公言する軍長の配下だって相当今の魔王様に不満を持ってるようだし、お互い様ね」
「じゃあ後の面倒はグリセルダが見てくれますから、早く離脱した方がいいですね。ナーディアも勇者の帰還は見たでしょう?」
「……! どうしてわたしの名前を……」
ミカエラが呼んだ彼女の名は名札に記された親しみやすい源氏名ではなく、本名だったようだ。ナーディアは驚いた様子でミカエラを見つめ、ミカエラはご満悦な様子で自分の記憶力の良さを誇るように胸を張った。
「末端まではさすがに把握してませんが、魔王軍でそれなりの地位にいる者は大体把握してますよ。ナーディアはスキュラ部隊の部隊長で、ヴェロニカの腹心でしたね」
「貴女……何者?」
「それは後でグリセルダに聞いて下さい。それで、勇者イレーネが鎧の魔王を抑え込んで帰還した現状、ヴェロニカは何をするつもりなんですか?」
ナーディアはしばらくの間沈黙してミカエラを見つめる。それから辺りの様子を伺い、深くため息を漏らした。まるで自分の中に渦巻くわだかまりを全てはきださんとする
「それが、副長は古の魔王を呼び起こす術があるとしか明かしてくれないのよ。他の副長直属の参謀達は意地でも止めないつもりだし……」
「でも夜の店に潜伏してる時期じゃないですよね。次にどう動くつもりですか?」
「今夜早くに店じまいして、聖地全体が寝静まってから大教会を強襲。勇者の隙をついて鎧の魔王を呼び覚ます予定よ」
思ってた以上に大惨事直行だった。いくら真夜中だからって聖地で魔王を封印し続けてきた大教会は夜間警備体制を敷いている。だから魔王軍の精鋭と全面衝突する形になるのは必至。街に被害が及びかねない。
「ヴェロニカはグリセルダに任せて、ナーディアは正統派の考えに納得してない子を連れて早く離脱を――」
その時、にわかに俺の後方、つまり扉の向こうが騒がしくなってきた。扉を閉めたまま聞き耳を立てると、どうも店で騒動が由々しき事態が起こったらしい。従業員らしい女性が焦った様子でやりとりして部屋の前を横切っていく。
俺とミカエラは顔を見合わせ、互いに頷いた。ミカエラはナーディアに妖魔軍の潜入者達を呼び集めるよう指示を送り、廊下に出た俺の後ろに続く。あられもない格好をした客や娼婦の間を抜けて正面玄関まで向かうと、そこでは……、
「見つけましたよヴェロニカ」
「グリセルダ……!」
数名のメイドを引き連れて店に押し入っていたのは家政婦長を思わせる貞淑な使用人服に身を包んだグリセルダ。対するは大胆に胸元と脚を露出させた上質なドレスを纏った女性。察するに彼女がヴェロニカか。
真剣な面持ちで相手を見据えるグリセルダに対してヴェロニカは憎悪に歪んだ目で睨みつける。この対峙だけでもこの二人……いや、魔王派と正統派の関係性が何となく見えてくるな。
「あのお方は寛大ですので今ならまだ貴女達を許すでしょう。大人しくなさい」
「誰があんな忌々しい小娘なんかに頭を下げるか……! 我らが主と認めるお方は唯一人だ!」
「その者は継承争いであのお方に敗れたでしょう。納得していなくても現実を受け入れて前を見据えねばならない時が来たのですよ」
「あと一歩なんだ、お前なんかに邪魔はさせない……!」
ヴェロニカが身体を震わせた。ヴェロニカの側にいた娼婦達も同じように吠えながら力みだす。対するメイド達も何かをしようとしたが、グリセルダが手で制した。その代わりに身構えて臨戦態勢を取る。
ヴェロニカ達の身体が歪み、肉体がはち切れて煽情的なドレスが千切れ落ちる。主に下半身が人ならざる姿へと変貌を遂げているが、上半身も美しい女性の面影を残したまま肌の色が変わったり鱗が生える。
クィーンラミア、そして部下のラミア達。
妖魔達がその正体を現した。
聖地という街のど真ん中で。
観念したスキュラの女の子は悲痛な面持ちで語り始めた。その嘆きは後悔やら不満やらが入り混じっていて、組織に属することへの理不尽さが滲み出ていた。社会への苦悩は学院を巣立って間もない俺は味わっていないが、一生無縁でありたいな。
「グリセルダの話だと妖魔軍の相当数が正統派に組みしてるらしいですけれど?」
「上司に逆らえないで嫌々従わされてる者も結構いるわ。逆に魔王派を公言する軍長の配下だって相当今の魔王様に不満を持ってるようだし、お互い様ね」
「じゃあ後の面倒はグリセルダが見てくれますから、早く離脱した方がいいですね。ナーディアも勇者の帰還は見たでしょう?」
「……! どうしてわたしの名前を……」
ミカエラが呼んだ彼女の名は名札に記された親しみやすい源氏名ではなく、本名だったようだ。ナーディアは驚いた様子でミカエラを見つめ、ミカエラはご満悦な様子で自分の記憶力の良さを誇るように胸を張った。
「末端まではさすがに把握してませんが、魔王軍でそれなりの地位にいる者は大体把握してますよ。ナーディアはスキュラ部隊の部隊長で、ヴェロニカの腹心でしたね」
「貴女……何者?」
「それは後でグリセルダに聞いて下さい。それで、勇者イレーネが鎧の魔王を抑え込んで帰還した現状、ヴェロニカは何をするつもりなんですか?」
ナーディアはしばらくの間沈黙してミカエラを見つめる。それから辺りの様子を伺い、深くため息を漏らした。まるで自分の中に渦巻くわだかまりを全てはきださんとする
「それが、副長は古の魔王を呼び起こす術があるとしか明かしてくれないのよ。他の副長直属の参謀達は意地でも止めないつもりだし……」
「でも夜の店に潜伏してる時期じゃないですよね。次にどう動くつもりですか?」
「今夜早くに店じまいして、聖地全体が寝静まってから大教会を強襲。勇者の隙をついて鎧の魔王を呼び覚ます予定よ」
思ってた以上に大惨事直行だった。いくら真夜中だからって聖地で魔王を封印し続けてきた大教会は夜間警備体制を敷いている。だから魔王軍の精鋭と全面衝突する形になるのは必至。街に被害が及びかねない。
「ヴェロニカはグリセルダに任せて、ナーディアは正統派の考えに納得してない子を連れて早く離脱を――」
その時、にわかに俺の後方、つまり扉の向こうが騒がしくなってきた。扉を閉めたまま聞き耳を立てると、どうも店で騒動が由々しき事態が起こったらしい。従業員らしい女性が焦った様子でやりとりして部屋の前を横切っていく。
俺とミカエラは顔を見合わせ、互いに頷いた。ミカエラはナーディアに妖魔軍の潜入者達を呼び集めるよう指示を送り、廊下に出た俺の後ろに続く。あられもない格好をした客や娼婦の間を抜けて正面玄関まで向かうと、そこでは……、
「見つけましたよヴェロニカ」
「グリセルダ……!」
数名のメイドを引き連れて店に押し入っていたのは家政婦長を思わせる貞淑な使用人服に身を包んだグリセルダ。対するは大胆に胸元と脚を露出させた上質なドレスを纏った女性。察するに彼女がヴェロニカか。
真剣な面持ちで相手を見据えるグリセルダに対してヴェロニカは憎悪に歪んだ目で睨みつける。この対峙だけでもこの二人……いや、魔王派と正統派の関係性が何となく見えてくるな。
「あのお方は寛大ですので今ならまだ貴女達を許すでしょう。大人しくなさい」
「誰があんな忌々しい小娘なんかに頭を下げるか……! 我らが主と認めるお方は唯一人だ!」
「その者は継承争いであのお方に敗れたでしょう。納得していなくても現実を受け入れて前を見据えねばならない時が来たのですよ」
「あと一歩なんだ、お前なんかに邪魔はさせない……!」
ヴェロニカが身体を震わせた。ヴェロニカの側にいた娼婦達も同じように吠えながら力みだす。対するメイド達も何かをしようとしたが、グリセルダが手で制した。その代わりに身構えて臨戦態勢を取る。
ヴェロニカ達の身体が歪み、肉体がはち切れて煽情的なドレスが千切れ落ちる。主に下半身が人ならざる姿へと変貌を遂げているが、上半身も美しい女性の面影を残したまま肌の色が変わったり鱗が生える。
クィーンラミア、そして部下のラミア達。
妖魔達がその正体を現した。
聖地という街のど真ん中で。
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