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第一章 勇者魔王編

戦鎚聖騎士、勇者魔王と買い物する(後)

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 で、大教会で聞いたお勧めの武具屋に足を運ぶと、店はもう大歓迎状態。店主は感涙の涙を流しながらもてなしてくるわ、その弟子らしき若い衆は興味津々だわで、全く落ち着かなかった。

「それで勇者様、本日はどういったご要件でしょうか?」
「武具を手入れしたい。砥石や布といった道具一式を揃えたいんだけれど」
「我々に任せていただければ万全の状態になるよう手入れ致しますが」
「いや、自分の手でやりたい。用意してもらえる?」

 店主はかなりがっかりした様子だった。そりゃあ勇者に何かしらの武具を買ってもらったってだけでとてつもない宣伝になるだろうし。手入れもさせてもらえず、単に道具の購入となったらそこまでのご利益もあるまいて。

 ところがイレーネ、店主が持ってきた砥石を眺め、店の在庫を全部持ってくるよう要求。その一つ一つを自分の目で確かめ、選んだ一つだけを買い取った。それでもイレーネ曰く及第点でしかなかったそうだが。

 大教会に戻ったイレーネは早速武器と防具の手入れを開始した。俺も暇だったので自分の装備一式を再確認する。静かな部屋の中で黙々と作業する時間の使い方、なんて贅沢で心地よいことだろうか。

「ねえニッコロさん。ミカエラのことなんだけどさ」
「ん? 彼女がどうした?」
「彼女、魔族?」

 いきなり確信に踏み込んできたな。
 聖都を出発してから俺があまり触れてこなかったミカエラの事情に。

 魔族、それは魔物の上位種といったところか。悪魔や妖魔といった、より魔の要素が強い存在達を一括りにそう呼ぶ。過去に魔王と呼ばれた者達の半分以上がこの魔族だったと伝えられるほど、生命体として強者の分類に入る。

「どうしてそう思うんだ?」
「だってミカエラってさ、聖女の奇跡を行使する時、神に全く祈ってないじゃん」
「……それ、マジ?」
「教会の連中とか他の聖女は騙せても僕の目はごまかせないよ」

 聖女は神や聖霊の力を借りて奇跡を発動させている。決して聖女本人が神のような奇跡をもたらしているわけではない。そう言った点では己の叡智と技術の結晶である魔法とは決定的に異なるわけだ。

 そう言えば、聖都での学院時代でもミカエラは祈りが足りないと度々叱られてたっけか。多分、ミカエラの性格を踏まえるなら、奇跡を起こすのは自分であって神にはすがってない、って考えが根底にあるんだろう。納得できちまった。

「ミカエラは魔法と同じ感覚で発動してるんだろうね。それが悪いとは言わないけれど、聖女としては有り得ない。なら、正体は別にある、と考えるのが普通でしょう」
「……もうちょっと取り繕うように注意しとく」
「直したほうが良い、って言ってるんじゃない。彼女が何者か、それが知りたいだけさ。単に好奇心だって」
「知らん。ミカエラが言うにはアイツは魔王なんだとさ」

 へえ、と呟きながらミカエラは口角を釣り上げる。
 興味が湧いた、そんな感想を抱いたようだ。
 この様子だとそのうち決闘を挑みかねないなぁ、などと他人事のような感想を抱いた。

「魔王が聖女に? それはまたどうして?」
「直接本人に聞けばいいじゃんか。どうして俺が知ってると思うんだ?」
「だってミカエラはニッコロさんに心許してるじゃん。相当信頼してるよ」
「どうだか……。腹の中までは読めてないんでね」

 現に俺はミカエラが自分が魔王だとか告白してくるまで彼女を微塵も疑っちゃいなかった。ありのままを見ていた、って言えば聞こえは良いんだが、上辺だけ眺めてたと言われたらそれまでだ。

 唐突な告白の後でもミカエラが魔王だって感じさせる素振りは一切無い。超常的な身体能力だとか強大な魔法だとかはおろか、普段の立ち振舞とか見てもただの新米聖女にしか思えない。

 むしろ、あの魔王宣言の方が嘘、または夢だったんじゃないか、とまで思える。
 それぐらいアイツとは変わらず自然に付き合えたんだ。
 何を考え、何が目的で、どうして俺を旅の共にするのか。彼女にしか分からん。

「ま、ちょっと聞いてみるよ。俺も気になってたんでね」

 とはいえ、こうして意識してしまうと悶々としっぱなしになるな。
 こうして三人目がパーティーに入ったんだから、ちょうどいい機会だろう。
 一応俺は彼女に聞けるぐらいには関係を築けてる、と思いたいものだ。

 そう喋っている間にお互いに武具の手入れが終わった。後は天日干しするだけだ。魔王の鎧と聖騎士の鎧がばらばらになって庭に広がる光景はとても奇妙だった。木陰で座りながらまじまじと眺めてたら、

「もう、そんなじっとり僕を見つめないでよ」

 とかイレーネが冗談交じりに言ってきたので、

「裸体を拝むって感じじゃねえだろ。こりゃあバラバラ殺人事件の現場に遭遇したって言うんだ」

 と冗談を返しておく。
 昨日死闘を繰り広げたとは思えないぐらい穏やかな時間が流れていた。
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