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第一章 勇者魔王編
戦鎚聖騎士、勇者魔王と買い物する(前)
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枢機卿と助祭の殉職だが、当たり前だけど真実を暴露できるわけがない。聖女が行使した審判の奇跡によって裁かれたという事実のみを明かし、真相は調査していく。そんなごまかしに教会は終始した。
で、そんな不信感を向けられた教会は勇者凱旋の式典を計画しようとしたらしい。聖地の市民にとって勇者イレーネは憧れの存在であり、復活した今となっては生きる伝説。そのお披露目をすべきだろう、と尤もらしい理由を並べてきた。
「凱旋式典? 嫌だよ。それより僕はやりたいことがあるんだ」
ま、こんな感じに当の本人に一蹴されたんだがね。
「し、しかし、それでは市民が何と言うか……!」
「僕って仰々しくされるのあまり好きじゃないんだ。ごめんね」
神官達が必死に説得しても梨の礫だった。
じゃあ聖都市民の感情を差し置いてイレーネは何をしたかったか? まさか生きる武具としの本懐を果たすために誰かに決闘を挑むとか、まさか辻斬りとかやるつもりじゃないだろうな?
「失礼なこと考えるなぁ、ニッコロさんは」
「頼むから心の中を呼んでくるのはミカエラだけでいいって」
「コレ見てよコレ」
「ん? いや、何の変哲もない籠手にしか……ああ、成程。そういうことか」
イレーネははめていた籠手を外して俺に見せびらかせてくる。今のイレーネにとっては肉体が操り人形で全身鎧が本体のハズだから、これって自分の腕をもいで渡してくるようなものだよなぁ、なんて馬鹿な考えが脳裏によぎった。そんな籠手を手にとってまじまじと見つめ、言わんとしていることを察する。
「手入れしたいのか。装備品全部」
「さっすが聖騎士。話が分かるぅ」
強く背中を叩かれた。さすがに教会内では全身鎧を脱いでいたせいで背中は無防備。思いっきり咳き込んでしまう。
俺達人間の感覚で言ったら風呂入りたいようなものか。そりゃあ長い間封印されてたんだからその気持ちは分からんでもない。魔王にまで上り詰めたリビングアーマーなら自己修復能力ぐらい持ってそうだがね。察するに気分的な問題か、もしくは娯楽の範疇なんだろう、と当たりをつける。
「ニッコロさんだって全身鎧装備でしょう。手入れ道具持ってる? 貸してよ」
「これから旅すること考えたら一通り自分用のを揃えた方がいいぞ」
「それもそうね。じゃあ今すぐ買い物に出かけよう」
「いや、いくら何でも目立つだろ。すぐに市民が集まって身動き取れなくなるぞ」
「ちょっと待ってて。身支度してくるから」
「なんで俺も行くこと前提になってるんですかねえ?」
イレーネは一旦自分の部屋に戻って、程なく再び姿を見せた。なんとイレーネは全身鎧を外して代わりに軽装備に身を包んでいた。具体的にはサークレットに胸当てと肘当て、膝当てだけを装備した、どちらかというと冒険者を思わせる風貌だな。
「いや、本体はどこいった?」
「いるじゃん、ここに」
俺の疑問に何言ってるんだとばかりにイレーネは自分の胸を叩く。
もしかしてイレーネは本体を装備していなくても勇者の肉体を動かせる?
……いや、もしかして胸当てとか一式に変形したってことか?
「ほら、ニッコロさんも早く準備してきてよ」
「市街地出歩くだけだろ? なら今のままで充分だ」
「か弱い乙女の僕を守るための武器はー?」
「ほら、持ってるだろ。文句無いよな?」
俺は腰にかけている練習用の木剣をイレーネに見せびらかせる。これでも聖騎士なんでね、暴漢に遭遇したってこれで鎮圧出来る自信はある。そもそも勇者にしろ魔王にしろどの口が言うんだか。しっかり魔王剣と聖王剣を両方とも背負ってるしさ。
そんなわけで街へと出かけた俺達だったが、案の定勇者の到来で人々は大いに沸いた。すぐさま憧れのイレーネを取り囲んで皆口々に思いを告白する。イレーネは市民を決してぞんざいに扱わず、笑顔をふりまきながらも手際よく対応した。
「ゆうしゃさま、あたしもゆうしゃさまみたいになりたい! どうすればなれるの?」
「良く食べて良く寝て、お母さんの手伝いをしっかりするんだよ。そうすればきっと他の人達も助けられるぐらい強くなれるから」
「勇者様、今日の我らがいることは貴女様のおかげです。本当に感謝いたします」
「礼には及ばない。みんながこうして平穏に過ごせていることが何よりだから」
とまあ、優等生を絵に書いたように立派だった。ミカエラもこう振る舞えなくもないんだが、アイツおだてたらすぐ調子に乗るからな。良く言えば純真だし悪く言えばまだ子供っぽいんだろう。
で、そんな不信感を向けられた教会は勇者凱旋の式典を計画しようとしたらしい。聖地の市民にとって勇者イレーネは憧れの存在であり、復活した今となっては生きる伝説。そのお披露目をすべきだろう、と尤もらしい理由を並べてきた。
「凱旋式典? 嫌だよ。それより僕はやりたいことがあるんだ」
ま、こんな感じに当の本人に一蹴されたんだがね。
「し、しかし、それでは市民が何と言うか……!」
「僕って仰々しくされるのあまり好きじゃないんだ。ごめんね」
神官達が必死に説得しても梨の礫だった。
じゃあ聖都市民の感情を差し置いてイレーネは何をしたかったか? まさか生きる武具としの本懐を果たすために誰かに決闘を挑むとか、まさか辻斬りとかやるつもりじゃないだろうな?
「失礼なこと考えるなぁ、ニッコロさんは」
「頼むから心の中を呼んでくるのはミカエラだけでいいって」
「コレ見てよコレ」
「ん? いや、何の変哲もない籠手にしか……ああ、成程。そういうことか」
イレーネははめていた籠手を外して俺に見せびらかせてくる。今のイレーネにとっては肉体が操り人形で全身鎧が本体のハズだから、これって自分の腕をもいで渡してくるようなものだよなぁ、なんて馬鹿な考えが脳裏によぎった。そんな籠手を手にとってまじまじと見つめ、言わんとしていることを察する。
「手入れしたいのか。装備品全部」
「さっすが聖騎士。話が分かるぅ」
強く背中を叩かれた。さすがに教会内では全身鎧を脱いでいたせいで背中は無防備。思いっきり咳き込んでしまう。
俺達人間の感覚で言ったら風呂入りたいようなものか。そりゃあ長い間封印されてたんだからその気持ちは分からんでもない。魔王にまで上り詰めたリビングアーマーなら自己修復能力ぐらい持ってそうだがね。察するに気分的な問題か、もしくは娯楽の範疇なんだろう、と当たりをつける。
「ニッコロさんだって全身鎧装備でしょう。手入れ道具持ってる? 貸してよ」
「これから旅すること考えたら一通り自分用のを揃えた方がいいぞ」
「それもそうね。じゃあ今すぐ買い物に出かけよう」
「いや、いくら何でも目立つだろ。すぐに市民が集まって身動き取れなくなるぞ」
「ちょっと待ってて。身支度してくるから」
「なんで俺も行くこと前提になってるんですかねえ?」
イレーネは一旦自分の部屋に戻って、程なく再び姿を見せた。なんとイレーネは全身鎧を外して代わりに軽装備に身を包んでいた。具体的にはサークレットに胸当てと肘当て、膝当てだけを装備した、どちらかというと冒険者を思わせる風貌だな。
「いや、本体はどこいった?」
「いるじゃん、ここに」
俺の疑問に何言ってるんだとばかりにイレーネは自分の胸を叩く。
もしかしてイレーネは本体を装備していなくても勇者の肉体を動かせる?
……いや、もしかして胸当てとか一式に変形したってことか?
「ほら、ニッコロさんも早く準備してきてよ」
「市街地出歩くだけだろ? なら今のままで充分だ」
「か弱い乙女の僕を守るための武器はー?」
「ほら、持ってるだろ。文句無いよな?」
俺は腰にかけている練習用の木剣をイレーネに見せびらかせる。これでも聖騎士なんでね、暴漢に遭遇したってこれで鎮圧出来る自信はある。そもそも勇者にしろ魔王にしろどの口が言うんだか。しっかり魔王剣と聖王剣を両方とも背負ってるしさ。
そんなわけで街へと出かけた俺達だったが、案の定勇者の到来で人々は大いに沸いた。すぐさま憧れのイレーネを取り囲んで皆口々に思いを告白する。イレーネは市民を決してぞんざいに扱わず、笑顔をふりまきながらも手際よく対応した。
「ゆうしゃさま、あたしもゆうしゃさまみたいになりたい! どうすればなれるの?」
「良く食べて良く寝て、お母さんの手伝いをしっかりするんだよ。そうすればきっと他の人達も助けられるぐらい強くなれるから」
「勇者様、今日の我らがいることは貴女様のおかげです。本当に感謝いたします」
「礼には及ばない。みんながこうして平穏に過ごせていることが何よりだから」
とまあ、優等生を絵に書いたように立派だった。ミカエラもこう振る舞えなくもないんだが、アイツおだてたらすぐ調子に乗るからな。良く言えば純真だし悪く言えばまだ子供っぽいんだろう。
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