新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第一章 勇者魔王編

聖女魔王、悪党聖職者を成敗する(後)

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 さて、あいにくミカエラの暴走……もとい、独壇場はこれで終わらない。俺を引き連れた彼女が次に向かったのはすぐ近くの部屋、即ち枢機卿の執務室だった。要するに、これまで犠牲を強いてきた方針を枢機卿も認めていたかもしれない、と疑っているんだろう。

 ドアノブを捻って……鍵かかってるな。力いっぱい捻ったら破砕音が鳴り響いて扉が開く。その拍子にドアノブが取れちまったが、きっと経年劣化で寿命が来ていたんだろう。後で教会の経費で直してくれや。

 中に入った俺達が目の当たりにした光景は、完全武装状態のイレーネが仕事机に肘をついて頭を抱える枢機卿を見下ろす構図だった。

「ニッコロさん、悪いけれど扉を閉めてくれない?」

 俺の呼び方に思うところがなかったわけではないが、ここは素直にイレーネの言うことに従っておこう。他には既に人払いが済んでいたのか、部屋の中には秘書官達はいない。ここは四人だけの空間になっていた。

 枢機卿の様子は尋常じゃなかった。顔面蒼白で目を大きく見開き、歯を震わせて頭をかきむしってる。そしてしきりに「儂は悪くない」だの「仕方がなかったんだ」と言い訳をつぶやく。

「どうも先にイレーネが枢機卿を問い質してるみたいですね」
「割り込むか?」
「いえ、しばらく様子を見ましょう。悪いことをした人が叱られない、そんな理不尽さが解消されるなら余は別に構いませんから」

 そんな憔悴しきった枢機卿にイレーネが向ける眼差しには怒りがにじみ出ていた。相手が気絶しないよう殺意は極力抑え、しかし勘違いされない程度に自分の意思は表す、絶妙なさじ加減だった。

「封印の効きが悪くなって張り直す期間が短くなっていった。だから聖女に生命をとして封印させた。世の中の安寧のためだから仕方がない。それ、犠牲になった聖女の墓の前でも胸張って言えるの?」
「そ、それは……」
「封印されている間も見ていたよ。裏切られた絶望の中でもなお使命を果たそうと再封印を施した後輩達の立派な姿を。そう、嫌でも見せつけられたね。聖女達にそうさせてしまう自分の無力さを嘆き悲しみ、絶望するには充分だったよ」
「し、しかし、大聖女様は今このように魔王をも屈服させて復活を遂げられたではありませんか! 我々は正しいことを続けてきたまでで――!」

 声を張り上げて自分の政党雨声を訴えた枢機卿だったが、ちょっとイレーネが威圧すると言葉が出なくなり、腰を抜かして再び椅子に崩れ落ちた。がたがた震えながら後ろに下がって彼女から遠ざかろうとするものの、すぐに壁に激突する。

「自分が守ってきた人々の愚かさを目の当たりにした『僕』が僕に負けてしまうのは当然だったんだ。僕は、そんな寂しい最後を遂げた『僕』の無念を汲み取りたいと思って、今ここにいる」
「……!? あ、ああ、あああっ……!!」

 枢機卿もようやく気づいた。気づいてしまった。
 勇者が帰還したのではなく、魔王が復活してしまったのだ、と。
 そして、その原因が他でもない、自分達にあることも。

「ディヴァインジャッジメント」

 そんな大罪人に向けてイレーネが放ったのは審判の奇跡だった。二振りの剣で滅多斬りにしなかったのは勇者イレーネへの手向けだろうか。

「か、神よ! お許しを……!」

 途端に枢機卿の身体は床から伸びてきた鎖でがんじがらめにされる。そして沼に引きずり込まれるみたいに床へと沈んでいった。駆け寄って仕事机の裏に回ると、丁度底なしの暗い穴が閉じようとしている所を見た。

 鎖で拘束される罪人、まるでつい先日まで封印されてたイレーネみたいだな。そんな感想が頭に浮かんだ。もしかしたら神は彼に勇者と同じ目に合わせようとしているのかもしれないな。

「ミカエラ、そっちは終わったみたいだね」
「あいにく、見て見ぬふりしてた下っ端の粛清はやってませんよ。後は内部監査に任せましょう」
「それでいい。『僕』は過度な厳罰まで求めてなかったから。これ以上犠牲者が増えなければ構わないよ」
「それが望まれた形だったかはさておき、ですけどね」

 こうして後始末を含めて魔王を封印し続ける使命は終わった。
 これからどうなっていくか、そんなもんは目の前で談笑する二人の魔王にしか分からない。
 俺はそんな二人に向けて「なんてこったい」とぼやくのがせいぜいさ。
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