新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第一章 勇者魔王編

勇者魔王、勇者の剣を装備する(後)

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「勇者イレーネ様が復活なさっただと……? 何を馬鹿な……」

 ただ一人、枢機卿だけが大きく顔を振って鋭く睨んできた。

「勇者様なものか! 騙されるでない、此奴は魔王だ! 魔王め、恐れ多くも勇者様の姿に化けてくるとは、断じて許しがたい……! 未熟な聖女を唆し、我々に復讐しに戻ってきたのだろう!」
「へえ、枢機卿猊下は彼女を魔王だってみなすんですね」
「当然だろう! その全ての光を喰らい尽くす漆黒の鎧、正しく魔王の武具! この目で見たことがある魔王装備に違いあるまい! 勇者様が命をかけて施した封印を破り、魔王を復活させるとは……! 神罰が下るぞ!」
「何を言ってるんですか。勇者イレーネが魔王の鎧を克服したとは考えられないんですか?」

 枢機卿はイレーネを完全に魔王と決めつけてくる。ミカエラがいくら反論しても聞く耳を持たず、唾を吐きながら罰当たりだとか罪深いだとか散々にのたまう。
 ううむ、いい加減ぶん殴って黙らせるか?

「なら、僕が勇者だって証明すれば良いんだよね」

 そんな中、イレーネはあっさりと言い放つと、悠然と退室していった。
 俺とミカエラは顔を合わせ、とにかく彼女の後を追うことにする。後ろの方で枢機卿が怒鳴り声を上げてイレーネを追うよう命令を飛ばすのが聞こえた。

 大教会を抜け、イレーネは聖地の町を進む。途中で市民があの噴水広場に飾られた勇者の像と瓜二つな女が通り過ぎるのを見て、最初のうちは身内同士のひそひそ話、次第に人々は一つの可能性に気づき、大騒ぎになった。

 すなわち、ついに封印された魔王に勇者が打ち勝ったのだ、と。

 誰もがイレーネの周りに集おうとするが、けれどイレーネの進行方向は決して阻まない。むしろイレーネの行く先を誰もが避けていく。

 子供達が無垢にも「勇者様なの?」と声を掛けると、イレーネは笑顔で「ああ、そうだよ」とその子供を担いだ。そして「今見えてる人達を守る勇者に、今度は君がなるんだよ」と語りかける。その姿は勇者に相応しいものだった。

「俺達が昨日来た資料館……?」

 イレーネは迷わずに資料館へと入っていき、来場客の人だかりを抜けて、とうとうお目当ての物の前にやってくる。

 イレーネの眼前に、今もなお光り輝く聖王剣が展示されていた。

 彼女は聖王剣の硝子で出来た保護箱に手を添え、蝶番を魔王剣の一閃で解体する。そしてあらわになった勇者の剣に手を伸ばした。

「お前も剣なら、僕を担い手として認めろ――!」

 イレーネは聖王剣を手に取り、高く掲げる。
 認められていない者へと下る神罰、拒絶反応の類は一切起こらない。
 つまり、イレーネを担い手として認めたことに他ならない……!

 イレーネ自身にも変化が現れた。聖王剣を持つ手を起点にして、漆黒だった鎧が徐々に真っ白に染まっていくではないか。光の侵食、とも言える現象はやがて鎧の左半分ほどで収まる。丁度左右で漆黒と純白が分かれ、中心付近では光と闇が調和して綺麗に入り混じっていた。

「わ……儂は、なんという罪深いことを……」

 それを目撃した枢機卿、跪き、泣いて許しを請うた。

「お……おおおっ! 復活だ、勇者イレーネ様が現世に復活なされた……!」
「聖王剣が主として認めた! やっぱりあの方は勇者イレーネ様に違いない!」
「神よ、イレーネ様をお救いくださり、感謝いたします……!」

 周囲の人々もひれ伏し、聖所の復活に歓喜し、祈りを捧げた。
 普通に観察するのはこの場ではミカエラと俺だけだ。

「光と闇が備わり最強になりましたね、彼女」
「魔王剣だけかつ起き上がりの状態であんな苦戦したのに? もう充分だろ……」
「でも、聖王剣が魔王に屈服した、って様子じゃあないですね。本当に今のイレーネを受け入れて認めたように見えます」
「そうなのか? ……確かにそうかもな」

 イレーネが手にする聖王剣の輝きは失われず、そして色褪せない。
 そんな聖王剣を見つめ、笑みを浮かべながらイレーネは語りかける。
 まるで長年の相棒と再会したかのように。それとも……好敵手と表現すべきか?

「また会ったね。今度は共に戦おう」

 こうして大聖女の復活だと認められ、イレーネは世に解き放たれることになった。
 それが吉と出るか凶と出るか。それは現時点で誰も分からない。
 ただ一つ、俺が言えることは……以下の通りだ。

「こりゃあ、旅が更に賑やかになるな」
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