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第一章 勇者魔王編

聖女魔王、害鳥の巣を駆除する(前)

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 ロックコカトリスが各々吐く石化ガスはミカエラがパーティー全員に施したマナシールドに阻まれて効かない。何匹かそれでも石化ガスを試す奴がいたが、その隙を突かれて冒険者達の攻撃の餌食になっていった。

 すぐさま石化ガスが効果なしと悟った個体は接近戦へと切り替えたようで、縦横無尽に駆けずり回りながら体当たりや尻尾蹴りで攻撃を仕掛ける。あまりのすばしっこさに反応しきれない男重戦士は背後から嘴を刺されてしまった。

 すると、嘴を起点に男重戦士が石化していくではないか。救いを求める悲鳴を上げるが、やがて肺や口が石になるとそれも収まり、最終的には新たな石像が一体出来上がってしまう。

「キュアストーン!」

 しかしすぐさまミカエラが力ある言葉と共に淡い光を放ち、たちまちに男重戦士の石化が解けた。急に支えがなくなったからか、男重戦士は手と膝を付く。しきりに自分を触るのは本当に石化状態が解除されたのを確かめるためか?

「直接攻撃で毒を流し込まれたらセイントフィールドで防ぎきれません。どうにか近寄られすぎないで」
「す、すまねえ聖女様。助かった……!」

 男重戦士は気を取り直して自分の剣を手にロックコカトリスへと突撃した。

 さて、一方の俺はと言うと、しばらくロックコカトリスの様子を伺っていた。やみくもに武器をぶん回したところであの忙しなく動き回る蛇鶏に命中出来るとは到底思えないからな。

 右、後ろ、左、前、左。
 ……そこだ!

「どっせいっ!」

 俺が戦鎚を振り抜いた先にいたロックコカトリスが羽を撒き散らしながらぶっ飛んでいく。露出した岩肌に激突したソレはもはや原型をとどめておらず、さながらミンチ肉と言ったところか。

「よっし、次!」

 喜ぶのも一瞬だけ。すぐさま次の個体へと戦鎚をふるった。重心を的確に捉えてやったのもあって、次の標的は肉をひしゃげさせ、骨を粉砕させ、物言わぬ肉塊へと成り果てる。

 三匹目を処理しようと視線を向けたが、どうやら危機を察知したらしく、他の冒険者へと襲いかかるじゃないか。ムカついたので劣勢になってる冒険者に加勢すべく俺は突進していった。

 手応えアリな感触と共に戦鎚で地面に叩きつけて潰したロックコカトリスがミンチになった。うへえ、まだ尻尾と頭が動いてるよ。気持ち悪いからさっさと昇天してくれや、っとな!

「ふう、大丈夫か?」
「あ、ああ。助かった。アンタ、強いんだな」
「これでも聖騎士なんでな。身分相応ってやつさ」
「そうか……。それより早く他の連中も助けてやらねえと……!」

 味方がやられるより俺達が処理するペースの方が速いようで、次第に害鳥共は劣勢になっていく。一人一人での対処を余儀なくされた最初から二人、三人と段々と複数人で戦えるようになってきたからな。

「よし、このまま畳み掛けて……!?」

 やがて、まだ生き残ってるロックコカトリス共はこれ以上は危ないとか察知したんだろうか。一目散に逃げ出しやがった。

 俺がナイフの投擲をしても男弓使いが射ても当たらねえ。害鳥共がそのまま山肌の向こうへと姿を消そうとした、その時だった。

「ライトニングフューリー」

 どこからともなく発せられた力ある言葉で、上空から突如として雷が降り注く。
 轟音と衝撃に俺達一同は怯んでしまった。

 天からの鉄槌は遥か向こう、逃亡していたコカトリス共に容赦なく襲いかかったらしい。目を凝らしたら黒焦げになった焼き鳥共が残らず斜面を転がり落ちていく。ロックコカトリスの鳴き声はもう聞こえない。

 冒険者達は後列で援護してた女魔法使いが雷撃魔法を使ったんだと判断したようで褒め称えていた。彼女が自分じゃないとしきりに主張しても、こんな雲が少ない晴れ模様の中で雷を落とすほどの高位の魔法はそんじょそこらの奴には到底無理。

 俺は思わずミカエラの方へ視線を向けた。彼女は既に石像にされていた犠牲者の治療にあたっていて、ロックコカトリスの群れの方はもう見ていなかった。俺の視線に気付いて顔を向けてきたが、こてんと首を傾げてきやがる。

「どうかしましたか?」
「ミカエラ、今の雷……いや、何でもない」
「山は天気が荒れやすいって本で読んだことがあります。その類じゃないですか?」
「そういうことにしとくか」

 聖女が魔法を極めてる、だなんてどう説明すれば良いんだ。
 こいつ、自分が魔王だなんて自称したのは俺にも秘密にさせたいからか?
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