新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

文字の大きさ
上 下
13 / 209
第一章 勇者魔王編

聖女魔王、ロックコカトリス討伐を引き受ける(後)

しおりを挟む
 結局、昨日駅にいた冒険者共は半分ぐらいコカトリス討伐部隊に加われなかったらしい。聖女がやってきた時点で勝機を嗅ぎ取った奴がいち早く依頼を受けたからだ。こういった美味しい匂いを嗅ぎ取る嗅覚は中々馬鹿に出来ないものだ。

 俺達二人を含めた討伐部隊は全部で十二名。これ以上は幌馬車を増やさなきゃいかんらしい。狭い山道で幌馬車が隊列を組むのはかなり危険だ。俺達もコカトリスの出現位置近くで降りてから自分の足で現地に向かう予定だ。

「へえ、聖地巡礼の旅にねぇ。聖女様も大変だな」
「いえ、それが使命ですので」

 道中は他の冒険者達と他愛ない話で盛り上がる。即席のパーティーを組む場合、こうしてすぐに交流を深めて連携を取れるようにしとかないとな。いざとなったときに危機を回避できやしねえ。

 木々も少なくなってきた辺りで馬車から降り、山道を進む。馬車も通れるように蛇みたいに曲がった道なりなもので、思ったよりも進めていない。いくら冒険者と言えども山道はやはり辛いようで、何人か息を上げていた。

「で、どの辺りでロックコカトリスは目撃されたんだ?」
「もうちょい先らしいんだが……」

 一回休憩を挟む。持参した水筒に入った水で喉を潤す。パーティー内で一番小柄なミカエラが一番元気そうで、呑気そうに壮大な景色を眺めていた。アレか、魔王とやらは人間と体の作りでも違うのかね?

「な、何だよこれ……!?」

 そして現場へと到着した俺達が目撃したのは、異様な光景だった。

 それはさながら悪趣味な美術館と言ったところか。

 逃げ惑う旅人が恐怖に彩られた表情のまま石化していた。男ばかりか女子供も容赦無く石像と化している。中には倒れてその場で割れた石像もあった。道から落ちて下で砕けたのもある。馬車も馬ごと石にされている。

 男戦士が声を上げたのをかわきりに次々と冒険者達が驚きおののく。軽率な男弓兵が恐る恐る中年男の石像を指で触ると、なんともろく崩れたじゃないか。男弓兵は悲鳴を上げて後退り、仲間と思われし男武闘家に頭を殴られる。

「な、なあ聖女様。こいつ等、治せますか?」
「治せますよ」

 男重戦士がおっかなびっくりミカエラに聞き、ミカエラはあっさりと答える。あまりにもあっさりだったものだから初めは聞き間違えだと錯覚したようで呆けていたが、希望がもたらされたと悟ると喜びを顕にした。

「本当か!?」
「敵の排除を目的とする石化攻撃は即死攻撃ですが、ロックコカトリスのは違います。脳も心臓も肺も石になっていながら生きている、ゴーレムのような存在になるわけですね。だから石化を解除すれば治せます」
「そうか……助けられるのか……」
「いえ、ちょっと待って。どうしてそんな手間なことをするの?」

 あー、それ聞く? 聞いちゃう?
 女戦士の疑問はごもっともなんだが、聞かない方がいいと思うなぁ。

「そりゃあ巣作りのためですよ」
「……巣作り?」
「生きた石像に卵を産み付けるんです。卵の時はそれで温められて、孵化した雛がそれを餌にするために」
「おいおい……。じゃあ、まさか彼らにも……!」

 冒険者一同は顔をひきつらせながら石像から飛び退く。今にも打ち壊しそうな剣幕だった彼らをミカエラが静止させ、石像へと歩み寄った。それから頭のてっぺんから足の爪先までじっくりと観察する。

「生命反応は一つ。まだ卵を産み付けられてませんね」
「そ、そうか……間に合ったってわけか……」
「いえ、あいにく間に合わなかった者も何名かいます」

 そう、卵を産み付けられていないからと、転倒して胴体真っ二つになった石像や、落ちて粉々になった石像はもう助かるまい。念の為真っ二つの石像をミカエラが調べたが、既に魂は天に召されているようだ。

「石化を解除するにもまずは安全を確保してからです。石像がまだこの場所にあったということは、ロックコカトリスの縄張りなわけですから」
「……!」

 冒険者一同は気を引き締め直し、各々の得物を構えて周囲を警戒する。辺り一帯は既に密度もスカスカな針葉樹林があるばかりで、それなりに視界が開けている。コカトリスが物陰に潜んでいようものならすぐさま分かる筈なんだが……。

 ――そんな俺達をあざ笑うように、突然ロックコカトリスが俺達に襲いかかった。
 なんと露出した岩肌に擬態する能力まで兼ね備えていたらしく、最初から石像の周りにいる俺達の隙を伺っていたのだ。

 そして更に、ロックコカトリスの群れは一斉に石化ガスを吐き出した。
 俺達が反応する間も無く、第二の犠牲者を作らんとそれが降り注ぎ……、

「セイントフィールド!」

 ミカエラが作り出した光の壁に阻まれた。

 全体防壁の奇跡。あらゆる攻撃を全て弾く、魔法使いなら初心者から上級者まで重宝する使い勝手の良い障壁魔法マナシールドと同じ使い方が出来る防御策だ。その強度は術者の力量に比例するんだが、ミカエラのはちょっとやそっとじゃあ壊れやしない。

「余が皆さんを援護しますので、その間にロックコカトリスを退治してください!」
「よっしゃぁ! お前ら、やるぞ!」

 聖女がいれば百人力だ、とか昨日言ってた男戦士が真っ先に気合を入れた。それに呼応して皆がやる気を奮い立たせ、迫りくるロックコカトリスへと立ち向かっていった。

 俺は一度ミカエラの方を見て、ミカエラは笑みをこぼしながら頷いてきた。それを受けた俺は戦鎚を握りしめ、ロックコカトリスへと突撃する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...