新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第一章 勇者魔王編

聖女魔王、困った人々を治療する(前)

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 目的地の聖地一箇所目には乗合馬車をいくつか乗り継いでいかなきゃいけない。都市間を結ぶ長距離便が毎日運行されてるわけもなく、荷物やら護衛の冒険者やらの都合がついてようやく出発、なんて不定期な便もざらにある。

 一個目の乗合馬車を降りた俺達は早速次の便を探したんだが、二個目の乗合馬車が出発するのは三日後らしい。それでも歩いていくよりは早いので、俺達は数日間宿場町で滞在することになった。

「となると、まずは宿探さにゃいけねえな」
「何を言っているんですか。この町の教会に赴いて世話になりましょう」
「聖女が突然押しかけるなんて迷惑以外の何物でもねえだろ」
「だからと言って挨拶もしないのは失礼に当たりますよ。我々は聖地巡礼という立派な使命で旅をしているんですから」

 物はいいようだなー、とか思いながら、俺達は馬車の駅から教会に向けて足を進める。街道沿いの宿場町なのもあってそれなりに栄えていて、旅人で賑わっている様子だった。それでも聖女と聖騎士は目立つらしく、否応なしに注目を集めた。

 そして町の中心付近にある教会の建物が見えてきたんだが、何やら様子がおかしかった。扉の前で大人の女性がしきりに聖職者の男にお願いをしているようだった。女性が抱えているのはぐったりとした子供だろうか?

「何かあったのでしょうか?」
「あー。子供が病気か怪我にかかったから治してほしい、辺りか?」
「成程。では実際に話を聞いてみましょうか」
「え? あ、オイ……!」

 ミカエラは俺の静止も聞かずに女性へと歩み寄っていく。先にミカエラに気付いたのは男聖職者の方で、まとっている祭服から聖女だと気付いたらしい。慌てた様子でミカエラに一礼する。

「こ、これは聖女様! こんなところに良くぞお越し下さりました……!」
「いかにも。余は先日新たに聖女を拝命しましたミカエラと申します。それで、これは一体何の騒ぎでしょうか?」
「はい。それが、この者が子を治せと言って聞かず……」
「聖女様……!? お願いです、どうか、どうか子供をお救いください……!」

 あからさまに困った様子な男聖職者が説明を終える前に、母親が縋り付く勢いでミカエラに懇願した。ミカエラは母親が抱える子供の額に手を触れ、顔を覗き込んでじっくりと観察する。

「凄い高熱ですね。安静にしてないと駄目じゃないですか」
「それが、数日前からずっと熱が引かず……。お医者様からお薬を買うお金も無く、どうにか教会の慈悲を賜わろうと……」

 この国には医者に診てもらえないほどの貧困層が一定数いる。そういった人達は病気にかかったらちょっと薬草の知識がある冒険者に頼るか、根性で治すか、泣き寝入りするしかない。

 教会の慈悲、とは、神の奇跡を宿した治療師による治療を指す。何も治療や回復の奇跡は聖女の専売特許じゃなく、例えば聖女になれなかった元聖女候補者、聖女を目指さずあえて現場で働くことを望んだ者など、少なからず存在している。

 ただし、治療士の治療は教会が独占してるのもあって、かなりぼったくりである。ちょっとした擦り傷切り傷の治療だって普通の一般庶民の給料数カ月分をふんだくられる始末。高熱の治療ともなればどれだけの金をむしり取られるやら。

「事情は分かりました。寄付金が払えないから追い返そうとしている。そうですね?」
「……神はこの者に試練を与えているのです。神が祈りを聞き届けるには信仰心が足りない、と申しているに過ぎません」
「ではお金以外の寄付を求めてはいかがですか? 例えば一週間ほど奉仕活動をしてもらう、とか」
「御冗談を。何年ただ働きしたって足りませんよ」

 無論、教会がそんなごうつくばりな商売してる、なんて公言出来るわけもなく。表向きは信者の信仰による寄付だ、ってことにしてる。汚え真似しやがる、とは一概に言えない。それで教会で働く者は食っていけるって一面もあるしな。

「お願いします。どうか、どうかこの子をお救いください……!」

 泣き崩れる母親は必死だ。子を失う恐怖と絶望と戦いながら、何とか願いを教会や聖女に聞き届けてもらおうと何度も頭を下げる。男聖職者はそれを鬱陶しそうに顔をしかめてるが、ミカエラの手前態度に出そうとまではしていない。

 ここで通りすがりの聖女が慈悲を示して子供を治療するのは簡単だ。けれどそうしたらどうなる? 自分も、いや自分も、と聖女に群がったりしないか? そして期待に答えられなかったら失望だけじゃなく憎しみをもたらしかねないか?

 勝手な真似は教会の秩序を見出しかねない。なので教会の許可なき奇跡の行使は暗黙の了解で行われていない。必ず教会を通して正式な奉仕活動の一環として行われるのが常なわけだ。

「ヒーリング」

 ま、そんな常識がミカエラに通用するわきゃねえけどな。
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