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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと15日(後)
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「何を言っている。町自体が焼け落ちていても一人や二人ぐらい生き残りはいるだろう。証言から当時の状況が分からないのか?」
「それが……おりません」
「……は?」
「当時町にいた者は全員犠牲になりました。逃げる隙が無いほど火の勢いが強かったのだろう、としか……」
まさか放火されたのか? シャーロットの過去を知られないように。
口封じが目的の人災だとしたら、一体誰の仕業なのか?
それともシャーロットと結びつけるのが単に考えすぎなのだろうか?
「……だからとあの娘が幼い頃を知る者が途絶えたわけではあるまい。買い出し、猟、出稼ぎ、その日に町にいなかった者から聞き出せなかったのか?」
「はい。そこで近隣の村、町を巡ったところ、偶然隣町にいた家族を見つけました」
「なるほど。それで、娘は幼い頃どうだったのだ?」
「明るく元気で、要領の良い子だったそうです。他の子供からも慕われてたそうで」
「それだけでは何の手がかりにもならんな。成り上がり思考はあったか?」
ヘイデンは報告書をめくっていく。そしてその情報が記された紙に視線を走らせ、カーティスに見せながら指差した。
「あったようですね。町の中で終わるつもりは全く無い、みたいなことを何度か発言したらしく」
「それが王太子殿下方に取り入った動機か。思っていたより俗物的だが……」
「しかし、聖女シャーロットは男爵家で最低限の教育は施されてから王立学園に転入しています。王太子殿下方に近寄る行為がいかに畏れ多いかは真っ先に覚えて然るべき、と考えますが……」
「ああ。それでは報告と辻褄が合わない」
もしこの一連の流れが実は物語となっており、その内容をシャーロットが把握していたとしよう。王太子達の好感度を稼ぐために立ち回り、邪魔な元々の婚約者であるキャサリンを悪役に仕立て上げた、としたら?
問題は、シャーロットが自分から王太子達と密接な関係になろうとする積極的な素振りを見せなかった点だ。むしろ王太子達が勝手に釣られた、と言い切っても良い。尤も、それすら王太子達の気を引くためなら大した名女優ぶりだが。
「結局、王太子殿下方が恋に惑わされた要因を掴まない限りは説明不可能、か」
「しかし、王国の歴史上、聖女が魅了のような奇跡を起こした記録などありませんでした」
「だからとあの娘個人の魅力に惹かれた、とは片付けられまい。あの娘が密かに悪魔めいた手法を会得してたのではないか?」
「……ああ、そう言えば一つ、大きな出来事があの町であったそうです」
ヘイデンは該当の頁を見つけると、それをカーティスへと提示する。受け取って目を通したカーティスは目を見開き、もう一回、今度は一言一句見逃さないように読み込む。そして、カーティスは額に手を当てて項垂れた。
「魔女狩りがあっただと?」
魔女狩り。教会の教えに反する異端者を悪魔に魅入られた魔女だとして罪に問う行動。しかし民間伝承への難癖だったり、虚偽の密告に端を発していたりと、その多くは本当は正義なき私刑だったとも言われている。
しかし、異端の魔法に手を染めた本物の魔女を罰する事もある。闇に魅入られた者や取り憑かれた者、更には闇の住人が人に化けていた場合もある。そして……闇の眷属達を率いて人々を恐怖と絶望で染め上げる、かの者もまた確実に存在していた。
「魔王を断罪した、か」
「はい」
魔王。
歴史上幾度となく現れた、聖女等といった神の遣いと対を成す存在。
無論、本物の魔王ならすぐにでも討伐してしかるべきだが……。
「処刑された者は本当に魔王だったのか?」
「分かりません。紛うことなき魔王である、と記録されてはいますが……」
「そんなものは後からいくらでも改ざん出来る。地方にはヴィクトリア様の意思は届いていなかった、とも考えられるが……」
魔王の特徴を持つ者だからと魔王と断じるべきではない。それがかつてヴィクトリアが王国中に示した見解だ。それは王国ならびに国教会公式であり、本来なら厳密な調査の上で執行して然るべきだった。
地方に伝わりきっていない、というのも理由の一つだろうが、決定打は違った。カーティスが着目したのは、処刑された者が魔王かもしれない、と教会に訴えた者の名前だった。
「シャーロット、か」
「はい」
シャーロットがその者を魔王として死に追い込んだ。
真偽はもはや調べようもないが、それが事実として記録されていた。
シャーロットが聖女に任命されたことで一応その者が魔王であったことに信憑性が増したのだが……。
「もしかしたら、この一件も無関係ではないかもしれないな」
この魔王が鍵だとしたら?
カーティスはそう思わずにはいられなかった。
「それが……おりません」
「……は?」
「当時町にいた者は全員犠牲になりました。逃げる隙が無いほど火の勢いが強かったのだろう、としか……」
まさか放火されたのか? シャーロットの過去を知られないように。
口封じが目的の人災だとしたら、一体誰の仕業なのか?
それともシャーロットと結びつけるのが単に考えすぎなのだろうか?
「……だからとあの娘が幼い頃を知る者が途絶えたわけではあるまい。買い出し、猟、出稼ぎ、その日に町にいなかった者から聞き出せなかったのか?」
「はい。そこで近隣の村、町を巡ったところ、偶然隣町にいた家族を見つけました」
「なるほど。それで、娘は幼い頃どうだったのだ?」
「明るく元気で、要領の良い子だったそうです。他の子供からも慕われてたそうで」
「それだけでは何の手がかりにもならんな。成り上がり思考はあったか?」
ヘイデンは報告書をめくっていく。そしてその情報が記された紙に視線を走らせ、カーティスに見せながら指差した。
「あったようですね。町の中で終わるつもりは全く無い、みたいなことを何度か発言したらしく」
「それが王太子殿下方に取り入った動機か。思っていたより俗物的だが……」
「しかし、聖女シャーロットは男爵家で最低限の教育は施されてから王立学園に転入しています。王太子殿下方に近寄る行為がいかに畏れ多いかは真っ先に覚えて然るべき、と考えますが……」
「ああ。それでは報告と辻褄が合わない」
もしこの一連の流れが実は物語となっており、その内容をシャーロットが把握していたとしよう。王太子達の好感度を稼ぐために立ち回り、邪魔な元々の婚約者であるキャサリンを悪役に仕立て上げた、としたら?
問題は、シャーロットが自分から王太子達と密接な関係になろうとする積極的な素振りを見せなかった点だ。むしろ王太子達が勝手に釣られた、と言い切っても良い。尤も、それすら王太子達の気を引くためなら大した名女優ぶりだが。
「結局、王太子殿下方が恋に惑わされた要因を掴まない限りは説明不可能、か」
「しかし、王国の歴史上、聖女が魅了のような奇跡を起こした記録などありませんでした」
「だからとあの娘個人の魅力に惹かれた、とは片付けられまい。あの娘が密かに悪魔めいた手法を会得してたのではないか?」
「……ああ、そう言えば一つ、大きな出来事があの町であったそうです」
ヘイデンは該当の頁を見つけると、それをカーティスへと提示する。受け取って目を通したカーティスは目を見開き、もう一回、今度は一言一句見逃さないように読み込む。そして、カーティスは額に手を当てて項垂れた。
「魔女狩りがあっただと?」
魔女狩り。教会の教えに反する異端者を悪魔に魅入られた魔女だとして罪に問う行動。しかし民間伝承への難癖だったり、虚偽の密告に端を発していたりと、その多くは本当は正義なき私刑だったとも言われている。
しかし、異端の魔法に手を染めた本物の魔女を罰する事もある。闇に魅入られた者や取り憑かれた者、更には闇の住人が人に化けていた場合もある。そして……闇の眷属達を率いて人々を恐怖と絶望で染め上げる、かの者もまた確実に存在していた。
「魔王を断罪した、か」
「はい」
魔王。
歴史上幾度となく現れた、聖女等といった神の遣いと対を成す存在。
無論、本物の魔王ならすぐにでも討伐してしかるべきだが……。
「処刑された者は本当に魔王だったのか?」
「分かりません。紛うことなき魔王である、と記録されてはいますが……」
「そんなものは後からいくらでも改ざん出来る。地方にはヴィクトリア様の意思は届いていなかった、とも考えられるが……」
魔王の特徴を持つ者だからと魔王と断じるべきではない。それがかつてヴィクトリアが王国中に示した見解だ。それは王国ならびに国教会公式であり、本来なら厳密な調査の上で執行して然るべきだった。
地方に伝わりきっていない、というのも理由の一つだろうが、決定打は違った。カーティスが着目したのは、処刑された者が魔王かもしれない、と教会に訴えた者の名前だった。
「シャーロット、か」
「はい」
シャーロットがその者を魔王として死に追い込んだ。
真偽はもはや調べようもないが、それが事実として記録されていた。
シャーロットが聖女に任命されたことで一応その者が魔王であったことに信憑性が増したのだが……。
「もしかしたら、この一件も無関係ではないかもしれないな」
この魔王が鍵だとしたら?
カーティスはそう思わずにはいられなかった。
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