52 / 53
Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと15日(前)
しおりを挟む
■Side カーティス
「閣下。聖女についてですが、調べがつきました」
「分かった。聞こう」
キャサリン・ランカスターが捕らえられてから二週間が経過した。ランカスター家の者はごくわずかの人員を残して王都から領地に移動している。王家から何度か問い質しの文が送られてきたが、「娘のことを思うと~」などと尤もらしい理由を付けて返事している。
以前のヴィクトリアの件、そして今回のキャサリンの件。ランカスター家は二度にわたり王家にコケにされたことになる。これで大人しくしていては逆に一族から非難されるのは必至。抗議の意味も込めての引き払いだった。
無論、ことの成り行きを静観するばかりではない。監獄内に潜ませたランカスター家の息のかかった者達はキャサリンがいつでも脱獄出来るよう人員配置の調整に取り組んでいるし、最悪の場合に備えて挙兵の準備も進めている。
それよりランカスター家が目下取り組んでいるのは、全ての元凶であろう聖女シャーロットの調査だった。
ランカスター侯爵カーティスは紙束を抱えてやってきたヘイデンに座るよう促し、自分もまた執務中だった書類や筆を机の脇に寄せた。腰を落ち着けたヘイデンは指を舐めてから紙束をめくり、目当ての紙を取り出す。
「まず、聖女シャーロットの出自ですが、シャーウッド男爵家の公表に相違ありませんでした」
「ではあの娘はまさしく男爵家の庶子なのか」
「そしてシャーロットの聖女としての適正ですが、こちらも厳格な審査を行ったうえで国教会が認定しており、総本山にも認められていることが分かりました」
「そうか、紛うこと無き聖女であったか。ますます厄介な」
この後もシャーロットの情報の洗い出しは行われたが、男爵家での教育や学生生活、王太子達とどのように親密になったか、はこれまでの情報を裏付けるばかりで、何も裏が無かった。
これではキャサリンが囚われの身になった原因は王太子達が勝手に正義感を振りかざしただけで、シャーロット本人はキャサリンの罪を問う意思は無かった、としか思えなかった。認めたくはなかったが。
「繰り返すが、あの聖女めは本当に我が娘を糾弾してはいないのだな?」
「はい。聖女シャーロットは決してお嬢様を非難してはいなかった、と誰もが証言しております。あの断罪の場でさえ……」
「しかしそれだけで奴が無実だとは言えん。王太子殿下方を誑かし、けしかけたかもしれんからな」
「もしそうだとしたら恐ろしいことです。自分が一切手を加えずに事を成したのですから……」
もしキャサリンの無実を晴らそうと、これではシャーロットを罪には問えまい。
あくまで暴走したのは王太子達のようなシャーロットを愛する輩なのだから。
やはり王太子達を扇動する奇跡や魔法めいた何かした、と考えるのが自然か。
「シャーウッド男爵めが吹聴する情報は娘を引き取ってからについてばかりだ。だがその時には既にある程度成長していただろう。人格が形成された幼少期に遡って調べるべき、との結論を先日出したのだったな」
シャーロットを授かった元使用人はシャーウッド男爵領の隣の領に落ち延び、密かに暮らしていた。母親が亡くなってから男爵が迎えに来るまでの間は一人暮らしで、町をあげて総出で見送られた、とはシャーウッド本人の口から語られている。
「はい。それで、聖女シャーロットが育ったという町へと向かったのですが……」
「どうした? 歯切れが悪いな」
「それが、聖女シャーロットの故郷は無くなっていました」
その報告を受けたカーティスはきな臭さくなったな、と感じた。
「それはただ事ではないな。疫病が蔓延したか? それとも総出で移住したのか?」
「大規模な火災があったようで、建物全てが焼け落ちていました。住民がほとんど亡くなっており、復興は諦めて放置されたそうです」
「なんと。それは災難だったものだ。原因は不注意か? それとも乾燥していたための自然発火なのか? 領主が調べていただろう」
「それが……不明のまま捜査は終わっています。打ち切られたわけではなく、分からずじまいだとまとめられていました」
「閣下。聖女についてですが、調べがつきました」
「分かった。聞こう」
キャサリン・ランカスターが捕らえられてから二週間が経過した。ランカスター家の者はごくわずかの人員を残して王都から領地に移動している。王家から何度か問い質しの文が送られてきたが、「娘のことを思うと~」などと尤もらしい理由を付けて返事している。
以前のヴィクトリアの件、そして今回のキャサリンの件。ランカスター家は二度にわたり王家にコケにされたことになる。これで大人しくしていては逆に一族から非難されるのは必至。抗議の意味も込めての引き払いだった。
無論、ことの成り行きを静観するばかりではない。監獄内に潜ませたランカスター家の息のかかった者達はキャサリンがいつでも脱獄出来るよう人員配置の調整に取り組んでいるし、最悪の場合に備えて挙兵の準備も進めている。
それよりランカスター家が目下取り組んでいるのは、全ての元凶であろう聖女シャーロットの調査だった。
ランカスター侯爵カーティスは紙束を抱えてやってきたヘイデンに座るよう促し、自分もまた執務中だった書類や筆を机の脇に寄せた。腰を落ち着けたヘイデンは指を舐めてから紙束をめくり、目当ての紙を取り出す。
「まず、聖女シャーロットの出自ですが、シャーウッド男爵家の公表に相違ありませんでした」
「ではあの娘はまさしく男爵家の庶子なのか」
「そしてシャーロットの聖女としての適正ですが、こちらも厳格な審査を行ったうえで国教会が認定しており、総本山にも認められていることが分かりました」
「そうか、紛うこと無き聖女であったか。ますます厄介な」
この後もシャーロットの情報の洗い出しは行われたが、男爵家での教育や学生生活、王太子達とどのように親密になったか、はこれまでの情報を裏付けるばかりで、何も裏が無かった。
これではキャサリンが囚われの身になった原因は王太子達が勝手に正義感を振りかざしただけで、シャーロット本人はキャサリンの罪を問う意思は無かった、としか思えなかった。認めたくはなかったが。
「繰り返すが、あの聖女めは本当に我が娘を糾弾してはいないのだな?」
「はい。聖女シャーロットは決してお嬢様を非難してはいなかった、と誰もが証言しております。あの断罪の場でさえ……」
「しかしそれだけで奴が無実だとは言えん。王太子殿下方を誑かし、けしかけたかもしれんからな」
「もしそうだとしたら恐ろしいことです。自分が一切手を加えずに事を成したのですから……」
もしキャサリンの無実を晴らそうと、これではシャーロットを罪には問えまい。
あくまで暴走したのは王太子達のようなシャーロットを愛する輩なのだから。
やはり王太子達を扇動する奇跡や魔法めいた何かした、と考えるのが自然か。
「シャーウッド男爵めが吹聴する情報は娘を引き取ってからについてばかりだ。だがその時には既にある程度成長していただろう。人格が形成された幼少期に遡って調べるべき、との結論を先日出したのだったな」
シャーロットを授かった元使用人はシャーウッド男爵領の隣の領に落ち延び、密かに暮らしていた。母親が亡くなってから男爵が迎えに来るまでの間は一人暮らしで、町をあげて総出で見送られた、とはシャーウッド本人の口から語られている。
「はい。それで、聖女シャーロットが育ったという町へと向かったのですが……」
「どうした? 歯切れが悪いな」
「それが、聖女シャーロットの故郷は無くなっていました」
その報告を受けたカーティスはきな臭さくなったな、と感じた。
「それはただ事ではないな。疫病が蔓延したか? それとも総出で移住したのか?」
「大規模な火災があったようで、建物全てが焼け落ちていました。住民がほとんど亡くなっており、復興は諦めて放置されたそうです」
「なんと。それは災難だったものだ。原因は不注意か? それとも乾燥していたための自然発火なのか? 領主が調べていただろう」
「それが……不明のまま捜査は終わっています。打ち切られたわけではなく、分からずじまいだとまとめられていました」
36
お気に入りに追加
3,187
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。