処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー!

福留しゅん

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Season 2 キャサリン・ランカスター

処刑まであと16日(前)

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 ■Side ジョージ

「なあジョージ、やっぱ止めようぜ」
「何言ってんだリーヴァイ。この目で見ない限りは分からねえだろ」
「だからって突撃するなんざ無茶だ! 他の連中みたいになんてなりたくねえよ」
「嫌だったら付いてこなくてもいいぜ。案内さえしてくれりゃあ充分だ」
「ジョージを放っておけるか! それに二人ならどっちかがおかしくなっても相手をぶっ叩いて正気に戻せるからな」
「ありがとよ。この恩は必ず返すから」

 一通りの調査を終えたジョージはいよいよ聖女本人の周りを探ることにした。掴んだ情報は既にランカスター侯や姉へと連絡済みであり、自分一人が捕まろうと吐き出せる情報も限られ、実害は少ないだろう、と判断した上でだ。

 その方法は簡単。一般庶民に紛れ込んで奉仕活動にあたるシャーロットへ近づけばいい。ジョージはシャーロットに会ったことがないので顔も割れていない。聖女としてのシャーロットの在り方が分かれば何か打開の一手が見いだせるかもしれない。

 もっとも、主人のキャサリンや姉のアシュリーが聞けば絶対に止めただろうが。

「にしても……既に教会に向かう連中が結構多いな」
「ああ。どいつもこいつも聖女の影響で奉仕活動に目覚めたのかね」
「単純に聖女目当てなんじゃね?」
「それは考えたくもねえな」

 恵まれた者が弱き者へ施しを与える、こうした奉仕活動は教会の教えで美徳であり義務とされていた。聖女シャーロットは率先して皆の前に姿を見せ、王都の人々の力となってきた。

 シャーロットの賢いところは無償の施しを与えない点だ。授けるばかりではそのうちそれが当たり前となり、欲張るようになる。傲慢と強欲という罪を招きかねず、民のためにはならない、と彼女は主張したのだ。

 シャーロットは貧困者達に労働を課した。町の清掃、溝浚い、見回りなど、働いた対価として施しを与えたのだ。食事、衣服、生活用品。日々の生活に困らないように配給し、同時に町の生活環境を改善していった。

「それだけ聞くとかなり大層なことやってるみたいだな」
「実際今を生きられるのは聖女のお陰だって崇める連中はかなりいる。けれどよ、聖女の人気が高まるのが気に入らねえ奴もいるってわけだ」
「あー、お役人達か。自分達が搾取しまくったくせに、不満だけぶつけられるようになったら喚いたのかよ。みっともねえ」
「教会の権威が高まるのを嫌う役人もいるしな」

 たまったものではなくなったのが、町を統治する役場。自分達を救ったのは聖女であってお役所ではない、と非難されるようになった。怒りの矛先が向けられる原因は聖女にある、と取り締まろうとする動きもあったのだが……。

「そこで登場したのが王太子殿下ってわけだ」
「あー、聖女の奉仕活動を全面的に支持したんだろ。そりゃあ文句言えねえわな」

 今や聖女には王太子を筆頭として多額の援助が募っている。聖女はそれを私利私欲には決して使おうとせず、奉仕活動や教会の修繕などに費やしている。人を第一に考えて無欲である、という点も聖女の支持が高まっている理由の一つだろう。

「だから、今となっちゃあ聖女活動は公認みたいな感じになってる。資金だって王太子殿下を初めとして多くの援助があるって聞くぜ」
「まあ、そうなるわな」

 キャサリンが投獄されようとシャーロット達の学生生活は続いている。それもいよいよ卒業を間近に控えており、巣立てば学生達は大人の仲間入りを果たす。シャーロットの聖女としての活動は本格化するだろう。

 そうしたこともあってか、教会への道には連日人だかりが出来るようになった。聖女シャーロットは自分がいなくてもこの王都での奉仕活動が続けられるよう教会へ働きかけたと公言しているが、聖女本人の見納めの時が近づいていた。

 そうこう喋っているうちに二人は目当ての教会前までたどり着いた。

 貧民街の中に立てられたそれは貴族街にあるような神の威厳を示すかのごとき豪華絢爛さは無く、質素ながら重厚であった。最近改築されたのか、壁などは比較的新しく見える。

「丁度炊き出しをしてるところか。で、どいつが聖女サマなんで?」
「あーん、と。アイツだ」

 そして、ジョージは目当ての人物を見つけた。

 なるほど、確かに可愛い。人気が出るのも頷ける。しかし、彼女以上に魅力的な女性は間違いなく多い。特に長きにわたり美と気品を磨き続けた貴族階級の令嬢と比べるならあの程度は野花といって差し支えないだろう。それはキャサリンに仕えてきたジョージにだって分かる。

 が、しかし。何故か妙に気になって仕方がない。意識していないと気付いた時にはシャーロットへと視線を向けている。笑顔か、仕草か、それとも声か。どの要素が引き付けてやまないのか分からないが、とにかく好印象を抱いてしまうのだ。

 それは以前リーヴァイから商会での出来事を聞いていたジョージにとって、恐怖でしかなかった。
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