処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー!

福留しゅん

文字の大きさ
上 下
49 / 53
Season 2 キャサリン・ランカスター

処刑まであと17日(後)

しおりを挟む
「その時点で暗殺の失敗を確信し、撤退することにしました。そしてその判断は決して間違っていなかった、と今でも思っております」
「そこ、省略しないで。撤退の際も何かあったのでしょう?」
「……はい。暗殺役二名はもはや手遅れだ、と判断した私はすぐさま男爵邸の脱出に踏み切りました。そんな私に元部下はあろうことか、別れを告げる時のように手を振ったのです……!」
「なるほど。既に元部下は聖女側に取り込まれていたわけですね」

 何のことはありません。ベラは謀られたのです。あえて隙を作って誘い込み、返り討ちにされたわけですか。内通者だった筈の元部下は案内役で、暗殺をこなす優秀な人材をみすみす向こうに取られた、という結果に終わったのです。

 と、なれば、もはやシャーロットの暗殺は不可能と言っても良いでしょう。他の市民を巻き添えに大々的に事に及べば、あるいは食事や衣服に毒物を仕込むかすれば不可能ではありませんが、この一件でその実行役が信じられなくなりましたから。

「それで、この暗殺失敗について第一王宮騎士団から正式な抗議はありませんか?」
「いえ、今のところはありません」
「大騒ぎするつもりはない、ということですか……」

 沈黙が部屋を支配します。考えれば考えるほど絶望的な状況に陥っていくようで、気が重くなります。こんな時はインクの付いていない筆を指で回して、と。ふう、だんだんと落ち着いてきました。

「やはりここは偉大なる先人、ヴィクトリア様の叡智にすがる他ありませんね」
「ヴィクトリア様の叡智、ですか?」
「そうですね。ではまず、ベラを試しましょう」

 わたくしは机からとある物を引っ張り出し、ベラの前に置きました。とある絵が描かれた真鍮の板で、それを見たベラは目を大きく開きました。わたくしは足元のソレを指差し、かしずくベラを見下ろします。

「異教を信仰していないか、を確かめるための踏み絵というそうです。これを踏めればまだあの魔女の虜になっていない何よりの証明になるでしょう」
「シャーロットの肖像画……!?」
「勿論、ベラは踏めますよね? さあ、やりなさい」
「……それでは、失礼いたします」

 立ち上がったベラは僅かな間だけ踏み絵を見つめ、そして次には憎しみで顔を歪ませながら思いっきり踏みつけました。そして執拗に踏みにじりました。詰らないよう必死に歯を食いしばりながら。

 やはり、愚兄やサイラス達の心を奪った聖女には相当負の感情を抱いているようですね。今もわたくしの前なので、おそらくこれでもある程度自制はしていることでしょう。

 溜飲が少し下がったのか、足を離したベラは再びわたくしへとかしずきました。わたくしも彼女の前で踏み絵に両足を乗せ、体重をかけます。良かった、心はさざ波一つ立ちません。わたくしはまだ聖女の虜にはなっていないようですね。

「これである程度は見抜けるはずです。これを使って王宮騎士団内の人員を洗い出し、次の任務に備えなさい」
「ありがたく頂戴いたします」
「頼みましたよ。わたくしにはもはや頼れる者は貴女を除いていませんから」
「……次こそは必ずやお役に立ってみせます」

 ベラは踏み絵を手にして退室していきました。来た時と異なり、表情は少し明るく元気になっていました。どうやら踏み絵は彼女の希望になったようで、何よりです。

 一人になった執務室でわたくしは椅子に寄りかかります。そして目元を押さえながら天井を仰ぎました。それはまるで無力にも天へと救いを求めるようで、わたくし個人はあまり好きではないのですがね。

「事態は何も改善していないのに、時間だけが刻一刻と過ぎていく……」

 キャサリン様の潔白を証明したところで愚兄や父が聞き入れるとは思えず、シャーロットの暗殺は極めて困難。キャサリン様をお救いするには、もはや亡命していただくしかすべがないような……。

 ふと、恐ろしい解決手段が頭に浮かびました。

 それはいくら否定しても頭から離れず、むしろそれが最適解だろうと思うようになってきます。そうなればその下準備をどうすれば、と次々と考えが膨らんでいき、執務を忘れてしばし没頭してしまいました。

「わたくしが王権を行使してキャサリン様を無罪とする……」

 その手段とは他ならぬ、王位の簒奪でした。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。