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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと22日(後)
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その日、リーヴァイも商会事務所で業務に励んでいた。そこに現れたドラ息子ことウォルター、そして彼が連れて来た少女シャーロット。リーヴァイを初めとする部屋の中にいた従業員全員が彼らに注目した。
シャーロットは確かにウォルターが惚気けるのも頷けるほど可憐だったのは認められるが、貴族階級も相手する商会従業員は美しい貴族令嬢、夫人で目が慣れている。その方々を凌ぐほどではない、がその場全員の総評だった。
会長室から出てきた会長は相当お怒りなもようで、リーヴァイ達は朝から会長に近づかないようにしていたほどだった。会長はバカ息子達に会長室に来るように大声を上げ、ウォルター達が入ったところで扉は閉められた。
「ところが、だ。だいぶ経ってから出てきた会長は、気持ち悪いぐらいに上機嫌だったんだ。そしてドラ息子を褒めまくって、聖女を素晴らしい女性だ、とか言ったんだよ」
「はあ? 訳分からねえんだけど。評価がこう、反転したってか?」
「ドラ息子が何を言ったって頑として聞かなかった会長がだぞ。聖女と少し会話したぐらいであんなだらしない顔になるか? 俺は今でも信じられねえぜ」
「そんだけ口が達者だったのかね? それともこれも聖女の奇跡って奴なのか?」
貴女なら息子を任せられる、商会の将来は安泰だ、などと会長は発言した。これにより聖女と商会御曹司の関係は親公認となったのだ。
それはこれまでウォルターが自分の懐から援助していたのが、商会が全面的に聖女を支援していくことにも繋がったのだった。
リーヴァイを初めとする商会の従業員達は恐怖した。あの金こそがこの世で最も大事だと公言して憚らなかった会長の変わりように。そして御曹司と会長を誑かしたシャーロットの魔性さに。
「聖女の支援って何だよ? ドレスとか宝石でも贈ってるのか?」
「違う。聖女の奉仕活動の支援だよ。資金、物資、色々と必要だからな。王太子様が使える予算には上限があるから、ドラ息子が被ってるんだよ」
「それ、全然商会の売上に返ってこねえ奴じゃんか。ヤバくね?」
「ヤバいよ! 税金対策で寄付するにしたってやりすぎだ。この先もこの調子だといずれは商会が傾いちまうかもしれねえ」
しかし悪夢はそこで終わりではなく、むしろ始まりだった。
商会内で次第に聖女を賛美する者が現れ始めたのだ。それはやがてたちの悪い風邪のように広がっていった。やがて、聖女に疑問を抱く者の方が少数となった。今では大多数がウォルターや会長の方針に賛同するようになっていた。
「ちょっと待った。そこんところ詳しく」
「詳しくー? 聖女の信者になってったって所か?」
「風邪だって例えたよな。それと同じで広がる条件みたいなのがねえかな、って」
「あー、なるほど。ちょっと待ってな。今思い出してみるわ」
リーヴァイはうんうん唸りながら頭を捻り、
「そう言えば、聖女を不気味がる仲間は結構な割合で聖女と会ったこと無かったな」
と口にした。
重大な情報だ、とジョージは直感した。聖女が何かしらの手段で出会う人の心を奪っているのは間違いない。それさえ解明すれば対策を打ちやすくなり、やがてキャサリンの救出にも繋がるだろう。
「待て待て待て。聖女と会うことが彼女に絆される条件だったとしたら、あの場にいた俺がこんななのは何でなんだ?」
「一応聞いとくが、それが演技で実は聖女を崇拝してます、は無えよな?」
「無えよ! こちとら職失うかもしれねえんだぞ! そんな色ボケしちゃいねえよ」
「聖女のイコンでも持ってきてたら踏めるか確かめられたんだがな。まあいい」
しかしリーヴァイの発言も尤もで、あの場で聖女を目の当たりにした従業員全員が虜になったわけではない。何がきっかけか、リーヴァイは引き続き商会内で聞き込みすることをジョージに約束した。
「もう一つ確認したいんだが、その後会長さんは聖女と何回か会ってるのか?」
「ん、あー、そうだな。一緒に夕食を取ることもあるみたいだぞ」
「交流を深めてるのか。もしかしたら頻繁に会って洗脳をかけ直してるのかもな」
「聖女に会った回数で依存性が上下するかもしれない、か。そこも調べてみるわ」
「頼むぞ。また奢ってやるからよ」
「奢るっつったってジョージんところの侯爵様が経費で出してくれるんだろ?」
その夜にジョージは友人から得た情報をしたため、夜が明けてすぐに伝書鳩でランカスター侯と姉に送った。そして更に情報を得るために、別の知人とも会うべく動き出した。
シャーロットは確かにウォルターが惚気けるのも頷けるほど可憐だったのは認められるが、貴族階級も相手する商会従業員は美しい貴族令嬢、夫人で目が慣れている。その方々を凌ぐほどではない、がその場全員の総評だった。
会長室から出てきた会長は相当お怒りなもようで、リーヴァイ達は朝から会長に近づかないようにしていたほどだった。会長はバカ息子達に会長室に来るように大声を上げ、ウォルター達が入ったところで扉は閉められた。
「ところが、だ。だいぶ経ってから出てきた会長は、気持ち悪いぐらいに上機嫌だったんだ。そしてドラ息子を褒めまくって、聖女を素晴らしい女性だ、とか言ったんだよ」
「はあ? 訳分からねえんだけど。評価がこう、反転したってか?」
「ドラ息子が何を言ったって頑として聞かなかった会長がだぞ。聖女と少し会話したぐらいであんなだらしない顔になるか? 俺は今でも信じられねえぜ」
「そんだけ口が達者だったのかね? それともこれも聖女の奇跡って奴なのか?」
貴女なら息子を任せられる、商会の将来は安泰だ、などと会長は発言した。これにより聖女と商会御曹司の関係は親公認となったのだ。
それはこれまでウォルターが自分の懐から援助していたのが、商会が全面的に聖女を支援していくことにも繋がったのだった。
リーヴァイを初めとする商会の従業員達は恐怖した。あの金こそがこの世で最も大事だと公言して憚らなかった会長の変わりように。そして御曹司と会長を誑かしたシャーロットの魔性さに。
「聖女の支援って何だよ? ドレスとか宝石でも贈ってるのか?」
「違う。聖女の奉仕活動の支援だよ。資金、物資、色々と必要だからな。王太子様が使える予算には上限があるから、ドラ息子が被ってるんだよ」
「それ、全然商会の売上に返ってこねえ奴じゃんか。ヤバくね?」
「ヤバいよ! 税金対策で寄付するにしたってやりすぎだ。この先もこの調子だといずれは商会が傾いちまうかもしれねえ」
しかし悪夢はそこで終わりではなく、むしろ始まりだった。
商会内で次第に聖女を賛美する者が現れ始めたのだ。それはやがてたちの悪い風邪のように広がっていった。やがて、聖女に疑問を抱く者の方が少数となった。今では大多数がウォルターや会長の方針に賛同するようになっていた。
「ちょっと待った。そこんところ詳しく」
「詳しくー? 聖女の信者になってったって所か?」
「風邪だって例えたよな。それと同じで広がる条件みたいなのがねえかな、って」
「あー、なるほど。ちょっと待ってな。今思い出してみるわ」
リーヴァイはうんうん唸りながら頭を捻り、
「そう言えば、聖女を不気味がる仲間は結構な割合で聖女と会ったこと無かったな」
と口にした。
重大な情報だ、とジョージは直感した。聖女が何かしらの手段で出会う人の心を奪っているのは間違いない。それさえ解明すれば対策を打ちやすくなり、やがてキャサリンの救出にも繋がるだろう。
「待て待て待て。聖女と会うことが彼女に絆される条件だったとしたら、あの場にいた俺がこんななのは何でなんだ?」
「一応聞いとくが、それが演技で実は聖女を崇拝してます、は無えよな?」
「無えよ! こちとら職失うかもしれねえんだぞ! そんな色ボケしちゃいねえよ」
「聖女のイコンでも持ってきてたら踏めるか確かめられたんだがな。まあいい」
しかしリーヴァイの発言も尤もで、あの場で聖女を目の当たりにした従業員全員が虜になったわけではない。何がきっかけか、リーヴァイは引き続き商会内で聞き込みすることをジョージに約束した。
「もう一つ確認したいんだが、その後会長さんは聖女と何回か会ってるのか?」
「ん、あー、そうだな。一緒に夕食を取ることもあるみたいだぞ」
「交流を深めてるのか。もしかしたら頻繁に会って洗脳をかけ直してるのかもな」
「聖女に会った回数で依存性が上下するかもしれない、か。そこも調べてみるわ」
「頼むぞ。また奢ってやるからよ」
「奢るっつったってジョージんところの侯爵様が経費で出してくれるんだろ?」
その夜にジョージは友人から得た情報をしたため、夜が明けてすぐに伝書鳩でランカスター侯と姉に送った。そして更に情報を得るために、別の知人とも会うべく動き出した。
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