処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー!

福留しゅん

文字の大きさ
上 下
35 / 53
Season 2 キャサリン・ランカスター

処刑まであと24日(後)

しおりを挟む
「サイラスはキャサリン様のことを魔女だと罵っていたそうですね」
「あ、兄上はおかしくなられたのです! 突如あの聖女めを心酔し出して――!」
「ベラ! ここは貴女の屋敷でなくてよ。もっと声を落としなさい」
「っ! も、申し訳ございません」
「落ち着いて、ゆっくり説明して」
「は、はい……。事の始まりは私の甥であるジェイコブでした」

 ベラからの説明を整理しましょう。

 まず、ジェイコブが王立学園で聖女シャーロットを見初め、彼女に剣を捧げようと思うほど入れ込んだ、とはわたくしも聞いている報告のとおりですね。しかし、そこからはわたくしも想像していませんでした。

 ジェイコブはあろうことか、家族にシャーロットを紹介したらしいのです。

 本来であれば主の暴走は仕える騎士が命と引き換えにしてでも止めるべきです。サイラスの家の嫡男であるジェイコブが、そのような教育を受けていないとは到底思えません。

 王太子の婚約者であるキャサリン様を追い落とそうとするなどまさに騎士の風上にも置けない愚行。であるならサイラスが父として、騎士として、ジェイコブの過ちを正さなければなりません。そして、おそらくは実際にジェイコブを叱り、騎士のあるべき姿は何だと問うたことでしょう。

「私はその場にいなかったので何が起こったかは存じておりません。しかし、その後実家に戻ると……悪夢が待ち受けていました」
「サイラスが聖女シャーロットに心酔していた、と」
「兄上だけではございません。、義姉上、他の甥や姪、家令、使用人、そして家にいた私共の両親までもが聖女シャーロットを認めていたのです……!」
「どのような手口かは分かりませんが、彼女は自分という存在を彼らに刷り込んだのですね」

 ベラが自分を抱きしめ、震えました。
 わたくしも末恐ろしかったです。
 彼女の報告が正しければ、シャーロットは出会う人を老若男女関係なく魅了出来てしまうのでしょう。
 それが聖女としての奇跡なのか、単に口が上手いのか。
 もし一歩違っていたら、わたくしやベラもまた愚兄と同じようになっていたかもしれませんね。

「やはり、ここは国王陛下に具申をすべきです」
「……なりません」
「何故ですか!? あの聖女めをこのままにしておいては、この国は――!」
「具申は、無駄です。そして忠告しますが、この部屋から出たら決してそのようなことを口にしてはなりません」
「何故……。いえ、まさか……?」

 そう、そのまさかです。
 ベラの報告を聞いて天を仰ぎたくなったのは、彼女の実家も同じような事態に陥っていることが分かったからです。

 だって、殿方が愛する女性を家族に紹介したくなるのは、何ら不思議でないでしょう?

「国王、王妃、両陛下は既に聖女シャーロットの味方です」
「なん、と……」

 ベラが項垂れました。
 わたくしだってそうしたい気分です。
 しかし絶望している場合ではありません。そんな愚かな選択は許されません。

「詳しい経緯は省きますが、兄上が両陛下にシャーロットを紹介し、餌食になりました。でなければキャサリン様を投獄、更には処刑する蛮行を撤回しないはずがないでしょう」
「……ええ。あのヴィクトリア様の時と同じ真似をするつもりなのか、と」
「今や信じられる者は限られています。正直、ベラのことも本当はわたくしをたばかるための演技ではないのか、との疑念を捨ててはいません」
「わ、私の忠誠は揺るぎません! ……いえ、失礼致しました。それほど疑ってかからなければ、キャサリン様の二の舞いになりかねませんか」

 そうです。キャサリン様を救い、この異変を解決するには、慎重にことを運ばなければいけません。

「ベラ。わたくしはそれでも貴女を頼らざるを得ないのです」
「殿下! お顔をお上げください!」
「敵は強大です。下手をすればわたくしや貴女は愚者、悪役として歴史に名を刻むことでしょう。それでもどうか、力になってくれないかしら?」
「……殿下。立派になられましたね」

 ベラはわたくしを安心させるように朗らかに笑うと、腰を上げてわたくしの前に歩を進め、跪き頭を垂れました。それが今の……いえ、ずっとわたくしにとっては頼もしくてたまりません。

「このベラ・クレメンス。必ずや殿下をお守りし、その暗雲を晴らしてみせましょう」
「頼りにしていますよ」

 聖女、そして兄上。わたくしは決して貴女達の思い通りにはなりませんよ。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。