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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと24日(後)
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「サイラスはキャサリン様のことを魔女だと罵っていたそうですね」
「あ、兄上はおかしくなられたのです! 突如あの聖女めを心酔し出して――!」
「ベラ! ここは貴女の屋敷でなくてよ。もっと声を落としなさい」
「っ! も、申し訳ございません」
「落ち着いて、ゆっくり説明して」
「は、はい……。事の始まりは私の甥であるジェイコブでした」
ベラからの説明を整理しましょう。
まず、ジェイコブが王立学園で聖女シャーロットを見初め、彼女に剣を捧げようと思うほど入れ込んだ、とはわたくしも聞いている報告のとおりですね。しかし、そこからはわたくしも想像していませんでした。
ジェイコブはあろうことか、家族にシャーロットを紹介したらしいのです。
本来であれば主の暴走は仕える騎士が命と引き換えにしてでも止めるべきです。サイラスの家の嫡男であるジェイコブが、そのような教育を受けていないとは到底思えません。
王太子の婚約者であるキャサリン様を追い落とそうとするなどまさに騎士の風上にも置けない愚行。であるならサイラスが父として、騎士として、ジェイコブの過ちを正さなければなりません。そして、おそらくは実際にジェイコブを叱り、騎士のあるべき姿は何だと問うたことでしょう。
「私はその場にいなかったので何が起こったかは存じておりません。しかし、その後実家に戻ると……悪夢が待ち受けていました」
「サイラスが聖女シャーロットに心酔していた、と」
「兄上だけではございません。、義姉上、他の甥や姪、家令、使用人、そして家にいた私共の両親までもが聖女シャーロットを認めていたのです……!」
「どのような手口かは分かりませんが、彼女は自分という存在を彼らに刷り込んだのですね」
ベラが自分を抱きしめ、震えました。
わたくしも末恐ろしかったです。
彼女の報告が正しければ、シャーロットは出会う人を老若男女関係なく魅了出来てしまうのでしょう。
それが聖女としての奇跡なのか、単に口が上手いのか。
もし一歩違っていたら、わたくしやベラもまた愚兄と同じようになっていたかもしれませんね。
「やはり、ここは国王陛下に具申をすべきです」
「……なりません」
「何故ですか!? あの聖女めをこのままにしておいては、この国は――!」
「具申は、無駄です。そして忠告しますが、この部屋から出たら決してそのようなことを口にしてはなりません」
「何故……。いえ、まさか……?」
そう、そのまさかです。
ベラの報告を聞いて天を仰ぎたくなったのは、彼女の実家も同じような事態に陥っていることが分かったからです。
だって、殿方が愛する女性を家族に紹介したくなるのは、何ら不思議でないでしょう?
「国王、王妃、両陛下は既に聖女シャーロットの味方です」
「なん、と……」
ベラが項垂れました。
わたくしだってそうしたい気分です。
しかし絶望している場合ではありません。そんな愚かな選択は許されません。
「詳しい経緯は省きますが、兄上が両陛下にシャーロットを紹介し、餌食になりました。でなければキャサリン様を投獄、更には処刑する蛮行を撤回しないはずがないでしょう」
「……ええ。あのヴィクトリア様の時と同じ真似をするつもりなのか、と」
「今や信じられる者は限られています。正直、ベラのことも本当はわたくしをたばかるための演技ではないのか、との疑念を捨ててはいません」
「わ、私の忠誠は揺るぎません! ……いえ、失礼致しました。それほど疑ってかからなければ、キャサリン様の二の舞いになりかねませんか」
そうです。キャサリン様を救い、この異変を解決するには、慎重にことを運ばなければいけません。
「ベラ。わたくしはそれでも貴女を頼らざるを得ないのです」
「殿下! お顔をお上げください!」
「敵は強大です。下手をすればわたくしや貴女は愚者、悪役として歴史に名を刻むことでしょう。それでもどうか、力になってくれないかしら?」
「……殿下。立派になられましたね」
ベラはわたくしを安心させるように朗らかに笑うと、腰を上げてわたくしの前に歩を進め、跪き頭を垂れました。それが今の……いえ、ずっとわたくしにとっては頼もしくてたまりません。
「このベラ・クレメンス。必ずや殿下をお守りし、その暗雲を晴らしてみせましょう」
「頼りにしていますよ」
聖女、そして兄上。わたくしは決して貴女達の思い通りにはなりませんよ。
「あ、兄上はおかしくなられたのです! 突如あの聖女めを心酔し出して――!」
「ベラ! ここは貴女の屋敷でなくてよ。もっと声を落としなさい」
「っ! も、申し訳ございません」
「落ち着いて、ゆっくり説明して」
「は、はい……。事の始まりは私の甥であるジェイコブでした」
ベラからの説明を整理しましょう。
まず、ジェイコブが王立学園で聖女シャーロットを見初め、彼女に剣を捧げようと思うほど入れ込んだ、とはわたくしも聞いている報告のとおりですね。しかし、そこからはわたくしも想像していませんでした。
ジェイコブはあろうことか、家族にシャーロットを紹介したらしいのです。
本来であれば主の暴走は仕える騎士が命と引き換えにしてでも止めるべきです。サイラスの家の嫡男であるジェイコブが、そのような教育を受けていないとは到底思えません。
王太子の婚約者であるキャサリン様を追い落とそうとするなどまさに騎士の風上にも置けない愚行。であるならサイラスが父として、騎士として、ジェイコブの過ちを正さなければなりません。そして、おそらくは実際にジェイコブを叱り、騎士のあるべき姿は何だと問うたことでしょう。
「私はその場にいなかったので何が起こったかは存じておりません。しかし、その後実家に戻ると……悪夢が待ち受けていました」
「サイラスが聖女シャーロットに心酔していた、と」
「兄上だけではございません。、義姉上、他の甥や姪、家令、使用人、そして家にいた私共の両親までもが聖女シャーロットを認めていたのです……!」
「どのような手口かは分かりませんが、彼女は自分という存在を彼らに刷り込んだのですね」
ベラが自分を抱きしめ、震えました。
わたくしも末恐ろしかったです。
彼女の報告が正しければ、シャーロットは出会う人を老若男女関係なく魅了出来てしまうのでしょう。
それが聖女としての奇跡なのか、単に口が上手いのか。
もし一歩違っていたら、わたくしやベラもまた愚兄と同じようになっていたかもしれませんね。
「やはり、ここは国王陛下に具申をすべきです」
「……なりません」
「何故ですか!? あの聖女めをこのままにしておいては、この国は――!」
「具申は、無駄です。そして忠告しますが、この部屋から出たら決してそのようなことを口にしてはなりません」
「何故……。いえ、まさか……?」
そう、そのまさかです。
ベラの報告を聞いて天を仰ぎたくなったのは、彼女の実家も同じような事態に陥っていることが分かったからです。
だって、殿方が愛する女性を家族に紹介したくなるのは、何ら不思議でないでしょう?
「国王、王妃、両陛下は既に聖女シャーロットの味方です」
「なん、と……」
ベラが項垂れました。
わたくしだってそうしたい気分です。
しかし絶望している場合ではありません。そんな愚かな選択は許されません。
「詳しい経緯は省きますが、兄上が両陛下にシャーロットを紹介し、餌食になりました。でなければキャサリン様を投獄、更には処刑する蛮行を撤回しないはずがないでしょう」
「……ええ。あのヴィクトリア様の時と同じ真似をするつもりなのか、と」
「今や信じられる者は限られています。正直、ベラのことも本当はわたくしをたばかるための演技ではないのか、との疑念を捨ててはいません」
「わ、私の忠誠は揺るぎません! ……いえ、失礼致しました。それほど疑ってかからなければ、キャサリン様の二の舞いになりかねませんか」
そうです。キャサリン様を救い、この異変を解決するには、慎重にことを運ばなければいけません。
「ベラ。わたくしはそれでも貴女を頼らざるを得ないのです」
「殿下! お顔をお上げください!」
「敵は強大です。下手をすればわたくしや貴女は愚者、悪役として歴史に名を刻むことでしょう。それでもどうか、力になってくれないかしら?」
「……殿下。立派になられましたね」
ベラはわたくしを安心させるように朗らかに笑うと、腰を上げてわたくしの前に歩を進め、跪き頭を垂れました。それが今の……いえ、ずっとわたくしにとっては頼もしくてたまりません。
「このベラ・クレメンス。必ずや殿下をお守りし、その暗雲を晴らしてみせましょう」
「頼りにしていますよ」
聖女、そして兄上。わたくしは決して貴女達の思い通りにはなりませんよ。
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