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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと26日(後)
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そんな間柄だったフレデリック様が処刑が決まって監獄に収容された私に会いに来てくださるのは予想出来ていた。
フレデリック様がお父様と結託して何やら動いていたのは察していたし、何ならエリザベス殿下とも交流を深めていたのも意図があってでしょう。
それにフレデリック様は常日頃から「キャサリン嬢を不幸な目には遭わせない」って言ってくださってたし。この絶望的状況でも彼は諦めてはいないようね。
「さて、いい加減かしこまるのは止めてくれ。僕とキャサリン嬢の仲じゃないか」
「……それもそうね。咎めるフィリップ様もいないことだし」
私はフレデリック様から私が連れ去られてからの家族の様子とかその後何があったかを聞かせて下さった。お父様がすぐさま異議申し立てをしたとか、フレデリック様も私の無実を晴らそうと証拠をかき集めている最中とか。
無論、監視に見張られてる状況で細かい相談をするのはまずい。あくまでも私達の会話は表向きの動きに終始する。第一、私が首を突っ込まなくてもフレデリック様方の邪魔にしかならないでしょうしね。
「今日は会えて良かったよ。時間が許す限りまた会いに来るから」
「そうね。でも無理しちゃ駄目よ。それに私に時間を費やして大事なことが出来なくなったら身も蓋も無いんだから」
「勿論さ。やることはやる。全力を尽くさないとキャサリン嬢を救い出せないから」
「期待して待たせてもらうわ」
さて、面会時間を知らせる砂時計の砂がかなり少なくなってきた。
フレデリック様との談話はとても楽しくて時間があっという間に過ぎてしまう。それがとても残念でならない。
フレデリック様はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、じっと私を見つめてくる。
「ねえキャサリン嬢。変なこと聞くけれど、いいかな?」
「ん? ええ、別に構わないわ。何かしら?」
なんか意味深なものだから思わず身構えてしまう。
そして、それが正しい反応だったと次の発言で悟った。
「『白き島』、って知ってる?」
白き島。それは海峡を挟んだフレデリック様の国からこちらに来る際、最初に目につくのが白い崖だったことが由来で、いつしか島全体がそう呼ばれるようになった。そしてこの王国の名であるアルビオンが正に白き島を意味する。
だから王国民なら誰でも……は言い過ぎにしても、ほとんどが知ってる一般常識だと答えると、フレデリック様は若干驚きとほんの僅かな期待外れ感を表に出した。ただ息を一回吸って吐くぐらいの短い間で、その後はすぐさまいつも通りの彼に戻る。
「やーね。いくら長年の婚約者から婚約破棄を突きつけられたからって、そこまでボケてはいないから」
「そ、そうか。安心した。変なことを聞いてごめん」
「いいのよ。じゃあフレデリック様、どうかお身体にはお気をつけて。それからくれぐれも無茶はしないで」
「……勿論さ。キャサリン嬢を怒らせたくないし、悲しませたくはないからね」
こうしてフレデリック様は監獄を後にして、私は再び自分の部屋に収容される。
私は固いベッドに寝転んで天井を見上げながら、深い溜め息をついた。きっとエリザベス殿下が見ていらっしゃったら「まあ、キャサリン様ったら。幸せが逃げてしまうわ」と仰っていたでしょう。
「はぁ。ひょっとしたらって思ってたけど、やっぱそうなのかぁ」
フレデリック様が仰った『白き島』って単語、勿論一般常識を聞いたんじゃない。
彼は間違いなく『乙女ゲーム』を知っているか、って尋ねてきたんじゃないかしら。
『白き島の理想郷から』。超人気乙女ゲームで、小説、漫画、舞台、更にはアニメまで様々な媒体で展開された。当時青春時代を送っていた女子にとっては知ってなきゃ時代遅れ、とまで言われる認知度だったっけ。
原作は王道的ノベルゲーム。主人公のヒロインがやんごとなき殿方と恋をしていくいたって普通の話。途中幾多もの障害が立ちふさがるけれどヒロインは攻略した殿方との愛で乗り切っていく、的な展開だった。
なんでそんなことを知っているか?
そりゃあ私、前世の記憶を持つ、所謂『転生者』だもの。
ただし、私には致命的欠陥がある。
(話の中身を全っ然思い出せないんだけれど!)
だって私って多分生まれた頃から前世の記憶を持っていたんだもの。それからランカスター家の娘として育てられて十数年。この世界で生きていくための知識と教養を頭に詰め込むために思い出す機会が無い情報なんて忘れる一方でしょうよ。
なので、ランカスター家出身の王妃であるヴィクトリアが『白き島1』の『悪役令嬢』だったと気づいたのはつい数年前だし、もしかして私が『白き島2』の『悪役令嬢』ポジなんじゃないか、って疑ったのもここ一年以内。
(確か『白き島1』が好評で舞台と登場人物を一新した『白き島2』が作られて、社会現象にはならなかったけれど好評で……それから何だっけ?)
いや、今となっちゃあカビとホコリだらけの記憶を叩いてもしょうがない。私がかろうじて覚えている『白き島2』の情報は登場人物が誰だったか程度の上辺だけ。ヒロインがどう攻略して殿方と結ばれるか、なんて綺麗サッパリ忘れてるもの。
ただ、この一年間で違和感は覚えていた。だからフィリップ様に早々見切りをつけられたし、ある意味こんな『処刑エンド』になっても達観していられる。細部が分からなくたって何となく展開はこんな感じかも、って危機感からだったんでしょうね。
「じゃあ、早速行動を開始しちゃいましょうか」
私は伸びをして呼吸を整えると、ある魔法を発動した。
フレデリック様がお父様と結託して何やら動いていたのは察していたし、何ならエリザベス殿下とも交流を深めていたのも意図があってでしょう。
それにフレデリック様は常日頃から「キャサリン嬢を不幸な目には遭わせない」って言ってくださってたし。この絶望的状況でも彼は諦めてはいないようね。
「さて、いい加減かしこまるのは止めてくれ。僕とキャサリン嬢の仲じゃないか」
「……それもそうね。咎めるフィリップ様もいないことだし」
私はフレデリック様から私が連れ去られてからの家族の様子とかその後何があったかを聞かせて下さった。お父様がすぐさま異議申し立てをしたとか、フレデリック様も私の無実を晴らそうと証拠をかき集めている最中とか。
無論、監視に見張られてる状況で細かい相談をするのはまずい。あくまでも私達の会話は表向きの動きに終始する。第一、私が首を突っ込まなくてもフレデリック様方の邪魔にしかならないでしょうしね。
「今日は会えて良かったよ。時間が許す限りまた会いに来るから」
「そうね。でも無理しちゃ駄目よ。それに私に時間を費やして大事なことが出来なくなったら身も蓋も無いんだから」
「勿論さ。やることはやる。全力を尽くさないとキャサリン嬢を救い出せないから」
「期待して待たせてもらうわ」
さて、面会時間を知らせる砂時計の砂がかなり少なくなってきた。
フレデリック様との談話はとても楽しくて時間があっという間に過ぎてしまう。それがとても残念でならない。
フレデリック様はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、じっと私を見つめてくる。
「ねえキャサリン嬢。変なこと聞くけれど、いいかな?」
「ん? ええ、別に構わないわ。何かしら?」
なんか意味深なものだから思わず身構えてしまう。
そして、それが正しい反応だったと次の発言で悟った。
「『白き島』、って知ってる?」
白き島。それは海峡を挟んだフレデリック様の国からこちらに来る際、最初に目につくのが白い崖だったことが由来で、いつしか島全体がそう呼ばれるようになった。そしてこの王国の名であるアルビオンが正に白き島を意味する。
だから王国民なら誰でも……は言い過ぎにしても、ほとんどが知ってる一般常識だと答えると、フレデリック様は若干驚きとほんの僅かな期待外れ感を表に出した。ただ息を一回吸って吐くぐらいの短い間で、その後はすぐさまいつも通りの彼に戻る。
「やーね。いくら長年の婚約者から婚約破棄を突きつけられたからって、そこまでボケてはいないから」
「そ、そうか。安心した。変なことを聞いてごめん」
「いいのよ。じゃあフレデリック様、どうかお身体にはお気をつけて。それからくれぐれも無茶はしないで」
「……勿論さ。キャサリン嬢を怒らせたくないし、悲しませたくはないからね」
こうしてフレデリック様は監獄を後にして、私は再び自分の部屋に収容される。
私は固いベッドに寝転んで天井を見上げながら、深い溜め息をついた。きっとエリザベス殿下が見ていらっしゃったら「まあ、キャサリン様ったら。幸せが逃げてしまうわ」と仰っていたでしょう。
「はぁ。ひょっとしたらって思ってたけど、やっぱそうなのかぁ」
フレデリック様が仰った『白き島』って単語、勿論一般常識を聞いたんじゃない。
彼は間違いなく『乙女ゲーム』を知っているか、って尋ねてきたんじゃないかしら。
『白き島の理想郷から』。超人気乙女ゲームで、小説、漫画、舞台、更にはアニメまで様々な媒体で展開された。当時青春時代を送っていた女子にとっては知ってなきゃ時代遅れ、とまで言われる認知度だったっけ。
原作は王道的ノベルゲーム。主人公のヒロインがやんごとなき殿方と恋をしていくいたって普通の話。途中幾多もの障害が立ちふさがるけれどヒロインは攻略した殿方との愛で乗り切っていく、的な展開だった。
なんでそんなことを知っているか?
そりゃあ私、前世の記憶を持つ、所謂『転生者』だもの。
ただし、私には致命的欠陥がある。
(話の中身を全っ然思い出せないんだけれど!)
だって私って多分生まれた頃から前世の記憶を持っていたんだもの。それからランカスター家の娘として育てられて十数年。この世界で生きていくための知識と教養を頭に詰め込むために思い出す機会が無い情報なんて忘れる一方でしょうよ。
なので、ランカスター家出身の王妃であるヴィクトリアが『白き島1』の『悪役令嬢』だったと気づいたのはつい数年前だし、もしかして私が『白き島2』の『悪役令嬢』ポジなんじゃないか、って疑ったのもここ一年以内。
(確か『白き島1』が好評で舞台と登場人物を一新した『白き島2』が作られて、社会現象にはならなかったけれど好評で……それから何だっけ?)
いや、今となっちゃあカビとホコリだらけの記憶を叩いてもしょうがない。私がかろうじて覚えている『白き島2』の情報は登場人物が誰だったか程度の上辺だけ。ヒロインがどう攻略して殿方と結ばれるか、なんて綺麗サッパリ忘れてるもの。
ただ、この一年間で違和感は覚えていた。だからフィリップ様に早々見切りをつけられたし、ある意味こんな『処刑エンド』になっても達観していられる。細部が分からなくたって何となく展開はこんな感じかも、って危機感からだったんでしょうね。
「じゃあ、早速行動を開始しちゃいましょうか」
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