処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー!

福留しゅん

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Season 2 キャサリン・ランカスター

処刑まであと27日(後)

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 ■Side フレデリック

 しばしの間沈黙が部屋を支配する。重苦しくなった雰囲気を振り払うようにカーティスは少し冷めた茶をあおるように一気飲みした。そして自分の手で茶を入れ直す。落ち着いた彼が視線を戻すと、フレデリックは静かに茶を口につけていた。

「僕はこの後キャサリンの面会を申し入れる。卿の根回しもあって受け入れられるだろう。そこで彼女の様子を確かめるつもりだ」
「何も殿下自らがいかずとも。キャサリンが信頼する侍女に連絡係を任せています」
「言い方を変えよう。僕がキャサリンに会いたい。何か問題でも?」
「……失礼。特に問題はありません」

 頭を下げようとするカーティスをフレデリックは手で制した。

「何も僕が我儘を通そうとしてるだけじゃない。直に会わないと細かな変化は見極めにくいからね。侍女のアシュリーも優秀だけれど、学園生活を彼女と共にしたのはこの僕だ。アシュリーには分からないことも分かるかもしれない」
「誠、おっしゃるとおりですな」
「そして、キャサリンも何か閃くかもしれないでしょう?」
「あのヴィクトリア様のように、ですか」

 彼女と同じ境遇に至ったのならもしかして、と思うのは当然か。とはいうもののカーティスの目からはフレデリックはその点に関してキャサリンに期待する様子は一切見られない。おそらくはただの口実で、その前こそ彼の本音だろうと予想した。

「ただ、キャサリンに過度な期待は寄せないべきだ。過去は神が微笑んだんじゃないかって思うぐらいヴィクトリア様のお言葉で上手く転がったけれど、今度もそうなるとは限らないからね」
「もちろんですとも。キャサリンを追い落とした愚か者共はランカスター家に刃を向けたも同然。鉄槌をくださねばなりませぬからな」

 聖女を虐げたのはキャサリンが元凶、と主張したのは何も王太子フィリップばかりではない。主に彼の側近や友人も加担してキャサリンがフレデリックの言う『悪役令嬢』に仕立て上げられたのだった。

(フレデリック殿下は各々を『攻略対象者』と呼んでいた。ヴィクトリア様が執筆なさった『白き島』で定義された造語だったが……我々の知らぬ意味があるのかもしれぬな。そしてそれをフレデリック殿下もご存知ということは……)

 ともあれ、王太子の独断を覆すには彼に加担した『攻略対象者』共の排除が必要不可欠である、との認識はフレデリックとカーティスとの間で一致していた。王太子の判断が間違っていると突きつけるにも、まずは情勢を味方につけなければならないから。

「証拠は固めております。後は彼奴らがボロを出すのを待つか、こちらから叩いて埃を出すべきか、ですが……」
「それはキャサリンの様子を窺ってからでも遅くない。卿はそれまで彼らが妙な動きを見せないかを睨んでいてほしい」
「吉報をお待ちしております。しかし、いかにランカスター家と言えども『攻略対象者』当人ならまだしも家もろともとなると些か厳しいですな」
「その点を卿が心配する必要はない。今は言えないけれど、卿と同じく此度の騒動に思うところがある者は少なくないからね」

 フレデリックははぐらかすが、カーティスにはいくらか目星が付いている。最もあてに出来るのは王国有数の名門ステュアート公爵家。ヴィクトリアの時も途中から彼女に加勢して王国内を正した、と伝わっている。

 ただ、それとなく打診したところ、協力はせず独自に動く、と突っぱねられた。それでもカーティスにとってステュアート家が味方になることは大変心強く感じられた。……邪魔になると見越して聖女が息をかけていないかだけは今も心配だったが。

「ランカスター家が動く前に殿下の仰る同志と協調する必要は?」
「無い。彼らはランカスター家の動きに注目してる。それとなく助勢するだろうさ」
「見張られているのは気になりますが、キャサリンを救うためなら必要経費ですな」

 ちょうど菓子も茶もつきたあたりでフレデリックは席を立った。
 このような需要な打ち合わせでも爽やかな好青年といった印象が崩れないのはさすがだと思ったが、だからこそ益々疑問が湧いた。

「殿下。一つお聞きしてもよろしいかな?」
「今答えられる範囲なら」
「殿下にとって娘は親しい学友でしか無いでしょうが、どうしてこれほどまでに率先して動いてくださるのですか?」

 フレデリックの笑みがわずかにこわばった。それだけなのにカーティスはほんの僅かだが気圧された。その面持ちの裏で並々ならぬ決意と思いが渦巻いていて、それが漏れたのだろう、と受け取った。

「それ、愚問だと卿も思っているんでしょう? あえて聞くかなぁ?」
「あいにく私めは察しが悪うございまして。口に出していただかないと」
「ははっ、言うねえ。じゃあ少しだけ本音を語ろうとしよう」

 玄関先でカーティスら侯爵家の一同が送り届ける玄関先で、フレデリックは丁寧に一礼した。使用人の一部が思わず感嘆の声を漏らすほど優雅で、絵になるとはまさにこのことか、とヘイデンは感じた。

「僕にとってキャサリンは大切な人だ。どうしても助けたいんだ」

 フレデリックはそう言い残すと、侯爵家一同の反応を窺わないうちに踵を返して馬車に乗り込んだ。既に監獄へ向かうための旅支度は済ませており、彼は御者に早速出発するよう指示を出したのだった。

 こうして今に至る。

 出発が昨日遅かったのもあって到着は今日の日が沈みかけた頃の予定だ。キャサリンとの面会は明日の午前中を予定している。どうやらさすがに隣国の王子であるフレデリックを邪魔するような馬鹿な真似を仕出かす輩は現れず、順調な旅路だった。

「キャサリン……会えるのが待ち遠しいよ。早く明日にならないかな?」

 外の景色を眺めるフレデリックの傍らには一冊の手記が置かれていた。
 その表紙には得体のしれぬ文字で『白き島の理想郷から2』と書かれていた。
 そして今回は誰がそれを読めるのか、はフレデリックすら把握出来ていなかった。
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