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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと27日(前)
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■Side フレデリック
舗装されていない道を進む馬車の中は、しかしあまり揺れていなかった。慣れない者なら車酔いしただろうが、少なくとも中で外の景色を眺めるフレデリックにとっては寝てしまえる程度には悪くない乗り心地だった。
フレデリックは昨日のことを思い出す。キャサリンの父、ランカスター侯との打ち合わせを。
「護送中にキャサリンを助けようと差し向けた刺客は失敗したと聞いている」
「まさかキャサリンの護送に第一王宮騎士団が務めるのは予想外でした」
キャサリンが捕まった段階にまでなった今、過去の振り返りもそこそこに、二人は今後どうするかについて話題を切り替えた。部屋の中は必要最低限の人物、フレデリックとカーティス当人達とヘイデン等その護衛のみだった。使用人すら退室している。
「残念ながら聖女のために動く輩は学友以外にもいるようだね」
「甘く見ておりました。せいぜい影響を受けているのは聖女が日常的に関わる者ばかりと思っておりましたが……」
「そう不思議でもない。聖女を大切な友人として屋敷に招待した子息は少なくないと聞いている。それに夜会でも何度か顔を合わせる機会はあっただろうし」
「そんな数回で心を掴まれたとは。もはやどこまで聖女に心酔しているのかわかったものではありませんな」
キャサリンを奪還すべき差し向けられたランカスター家の騎士達は撃退された後、伝書鳩を飛ばしていち早くカーティスに報告した。護衛任務についた騎士達の士気は並々ならぬものだった、と所感が加えられて。
王太子フィリップ以外にも聖女に好意を抱く貴族子息がいることは調べがついていた。王太子の断罪劇に加担した王太子の側近達の中に第一王宮騎士団団長の息子が名を連ねていることも分かっていた。
しかし、過去の過ちを繰り返した息子を咎めるばかりか王太子の愚行を正義とみなして任務に励んだとの旨はカーティスを大きく驚かせた。そこまで聖女はこの国に食い込んでしまっているのか、と。
「それで、次の一手はいかが致しましょう?」
「念のために確認するけれど、ヴィクトリアの遺産は確かにあるんでしょう?」
「ええ、最終点検もこの一年で全て済ませ、問題なく運用出来ます」
「そして、ランカスター家の手の者も監獄に潜ませているんでしょう?」
フレデリックの問いかけにカーティスは目を見開いた。彼は目の前の隣国王子を観察し、少しばかり思考を巡らせ、やがて軽くため息を漏らす。
「よくご存知で。どのように調べたのですか?」
「いや、ただの直感さ。数代に渡って準備期間があったんだ。無駄にはしていなかっただろうと思うものでしょう?」
「おみそれしました。殿下には敵いませんな」
ヴィクトリアの遺産、それはランカスター家に伝わる彼女の叡智を指す。
彼女が獄中で各人に与えた発想は王国に宗教革命を始めとする多大な影響をもたらした。王妃となった後も彼女は王国の発展に貢献し、中には当時の技術では叶えられないと後世に託す技術まであるほどだ。
そんな彼女は秘密裏にランカスター家に命じた。
来たる時に備えよ。それがランカスター家の使命である、と。
ヴィクトリアによってもたらされた伝声管を王国の獄中に仕込む闇工事と、監獄には常にランカスター家の息のかかった者を忍ばせること。この二つもヴィクトリアによって指示されて数世代をかけて完工させた任務だった。
一体ヴィクトリアには何が見えていたかなど知る由もないし、もじヴィクトリアに直接問いかける機会に恵まれたとしても、それは彼女と同じような目にあっている愛娘キャサリンに譲っただろう、とカーティスは思った。
「キャサリンに害が及ばないように根回し済みですし、必要であれば伝声管では届けられぬ細かな打ち合わせも文を介して手配しましょう」
「どうせ処刑するから好きにしていい、とろくでもないことを考える輩の手がキャサリンに伸びる心配が無いのは何よりだ」
「出来れば獄中でも快適に過ごせるよう物資を届けてやりたいのですが、おそらく王太子殿下の息のかかった者もおりますゆえ。大きくは動けませぬ」
「まいった、彼もろくでもないことばかりに気が回る」
舗装されていない道を進む馬車の中は、しかしあまり揺れていなかった。慣れない者なら車酔いしただろうが、少なくとも中で外の景色を眺めるフレデリックにとっては寝てしまえる程度には悪くない乗り心地だった。
フレデリックは昨日のことを思い出す。キャサリンの父、ランカスター侯との打ち合わせを。
「護送中にキャサリンを助けようと差し向けた刺客は失敗したと聞いている」
「まさかキャサリンの護送に第一王宮騎士団が務めるのは予想外でした」
キャサリンが捕まった段階にまでなった今、過去の振り返りもそこそこに、二人は今後どうするかについて話題を切り替えた。部屋の中は必要最低限の人物、フレデリックとカーティス当人達とヘイデン等その護衛のみだった。使用人すら退室している。
「残念ながら聖女のために動く輩は学友以外にもいるようだね」
「甘く見ておりました。せいぜい影響を受けているのは聖女が日常的に関わる者ばかりと思っておりましたが……」
「そう不思議でもない。聖女を大切な友人として屋敷に招待した子息は少なくないと聞いている。それに夜会でも何度か顔を合わせる機会はあっただろうし」
「そんな数回で心を掴まれたとは。もはやどこまで聖女に心酔しているのかわかったものではありませんな」
キャサリンを奪還すべき差し向けられたランカスター家の騎士達は撃退された後、伝書鳩を飛ばしていち早くカーティスに報告した。護衛任務についた騎士達の士気は並々ならぬものだった、と所感が加えられて。
王太子フィリップ以外にも聖女に好意を抱く貴族子息がいることは調べがついていた。王太子の断罪劇に加担した王太子の側近達の中に第一王宮騎士団団長の息子が名を連ねていることも分かっていた。
しかし、過去の過ちを繰り返した息子を咎めるばかりか王太子の愚行を正義とみなして任務に励んだとの旨はカーティスを大きく驚かせた。そこまで聖女はこの国に食い込んでしまっているのか、と。
「それで、次の一手はいかが致しましょう?」
「念のために確認するけれど、ヴィクトリアの遺産は確かにあるんでしょう?」
「ええ、最終点検もこの一年で全て済ませ、問題なく運用出来ます」
「そして、ランカスター家の手の者も監獄に潜ませているんでしょう?」
フレデリックの問いかけにカーティスは目を見開いた。彼は目の前の隣国王子を観察し、少しばかり思考を巡らせ、やがて軽くため息を漏らす。
「よくご存知で。どのように調べたのですか?」
「いや、ただの直感さ。数代に渡って準備期間があったんだ。無駄にはしていなかっただろうと思うものでしょう?」
「おみそれしました。殿下には敵いませんな」
ヴィクトリアの遺産、それはランカスター家に伝わる彼女の叡智を指す。
彼女が獄中で各人に与えた発想は王国に宗教革命を始めとする多大な影響をもたらした。王妃となった後も彼女は王国の発展に貢献し、中には当時の技術では叶えられないと後世に託す技術まであるほどだ。
そんな彼女は秘密裏にランカスター家に命じた。
来たる時に備えよ。それがランカスター家の使命である、と。
ヴィクトリアによってもたらされた伝声管を王国の獄中に仕込む闇工事と、監獄には常にランカスター家の息のかかった者を忍ばせること。この二つもヴィクトリアによって指示されて数世代をかけて完工させた任務だった。
一体ヴィクトリアには何が見えていたかなど知る由もないし、もじヴィクトリアに直接問いかける機会に恵まれたとしても、それは彼女と同じような目にあっている愛娘キャサリンに譲っただろう、とカーティスは思った。
「キャサリンに害が及ばないように根回し済みですし、必要であれば伝声管では届けられぬ細かな打ち合わせも文を介して手配しましょう」
「どうせ処刑するから好きにしていい、とろくでもないことを考える輩の手がキャサリンに伸びる心配が無いのは何よりだ」
「出来れば獄中でも快適に過ごせるよう物資を届けてやりたいのですが、おそらく王太子殿下の息のかかった者もおりますゆえ。大きくは動けませぬ」
「まいった、彼もろくでもないことばかりに気が回る」
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