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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと28日(後)
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■Side ランカスター侯爵
「確かに王太子殿下方が聖女に誑かされている、と聞かされても耳を疑うばかりでした。昔の出来事、ヴィクトリア様の一件が無ければ一笑に付していたでしょう」
「先例があってくれて助かった。話が早いからね」
「それでも娘から学園での実態を聞かされるまでは半信半疑でしたよ」
「そりゃあここの国では誰もが過去の過ちを教訓にしているからね。まさか『焼き増し』されるなんで思いもしなかっただろう」
カーティスの後ろで控えるヘイデンは『焼き増し』という単語が分からなかったが、おそらく再来や繰り返しの意味なんだろうと自分を納得させた。隣国独特の表現なのか、それとも全く別の由来かは見当も付かなかった。
キャサリンは薄々王太子の心が自分から離れていると悟ったのか、生活態度を改めていった。そのうえでいかにやり過ごすかを考えるようになり、更には最悪の事態、それこそヴィクトリアのような仕打ちを受けた場合を想定するようになった。
「僕はむしろ安心しているよ。卿までキャサリンを害する存在になられたら少しばかり厄介だったからね」
「……私はぎりぎりまでキャサリンの味方でいようと決めています」
「その覚悟を溶かしかねない事態も起こっただろう? 僕は危惧していたんだ」
「見くびらないでいただきたい、と憤りたいところですが、殿下のお気持ちも分かります」
ヴィクトリアの一件もあってランカスター一族はキャサリンを擁護する立場を取った。だが相手は神に奇跡を与えられた聖女。その存在を信望する者は多く、水面下で慎重に準備を整えるしかなかった。
そして、侯爵であるカーティスと聖女であるシャーロットが接触する機会は皆無ではなかった。式典や行事などでは同じ空間にいた時もあり、数回ほど夜会で挨拶を交わしたこともあった。
最初抱いた感想は「礼儀正しい」、「清潔感がある」、そして「初々しい」だった。
聖女として祭り上げられたのが最近なのを加味すれば充分に及第点といえる教養は身に付けていたし、それでいて己をわきまえる謙虚さが好印象だった。何より、近寄りがたいが近づきたいという複雑な気分に陥る神秘性すらあった。
「キャサリン、どうした?」
「……いえ。どうも彼女が気になるもので」
会場内は概ねカーティスと同じように受け止めていたようだったが、キャサリンだけは思うところがあるようだった。失礼だろうと窘めようとの考えも浮かんだが、ひとまず表に出さないでおいた。
二回目に会った時はより好印象を覚えた。聖母がこの世に誕生したとしたら正しく彼女だろうと思うほどで、自然とそうなってしまう自分に恐怖を覚えた。それをきっかけにカーティスは聖女を警戒し続けるようになった。
三回目、最後に会った時には既に社交界のほぼ全体が、君主たる国王を含めて、彼女を崇拝するようになっていた。危機感を抱く極小数がその場限りの同調を示してやり過ごす居心地の悪さに吐き気がした。
「あの聖女めに国王陛下まで篭絡される始末。我々だけで対抗せねばなるまいと覚悟を決めていましたが、殿下がキャサリンの味方をしていただけるとは」
なのでカーティスはフレデリックが接触してきた時、聖女が仕組んだ罠、もしくは彼も聖女のために自分を嵌めようとしているかもと疑った。
しかし、キャサリンが牢獄に入れられ死刑まであと数日まで迫った段階でもなおフレデリックは諦めなかった。そんな彼にカーティスはやっと全幅の信頼を寄せてもいいのでは、と思い始めていた。
「そうしたかったからそうしているまでだ。あいにく僕は聖者でも慈善家でもない。そのうえで宣言するけれど、僕はキャサリンを助けたいと思っている。卿にも協力してほしい」
「もちろんですとも。娘を助けたいと思う気持ちは殿下に負けておりませんので」
「素直じゃないなぁ。若造なんかより娘への気持ちが小さいわけないだろ、とか思ってたりしない?」
「はははっ、それは言わないでおきましょう」
ここにいたり、カーティスとフレデリックは同志となっていた。
王太子の企てを打ち砕き、キャサリンを取り戻すための。
「確かに王太子殿下方が聖女に誑かされている、と聞かされても耳を疑うばかりでした。昔の出来事、ヴィクトリア様の一件が無ければ一笑に付していたでしょう」
「先例があってくれて助かった。話が早いからね」
「それでも娘から学園での実態を聞かされるまでは半信半疑でしたよ」
「そりゃあここの国では誰もが過去の過ちを教訓にしているからね。まさか『焼き増し』されるなんで思いもしなかっただろう」
カーティスの後ろで控えるヘイデンは『焼き増し』という単語が分からなかったが、おそらく再来や繰り返しの意味なんだろうと自分を納得させた。隣国独特の表現なのか、それとも全く別の由来かは見当も付かなかった。
キャサリンは薄々王太子の心が自分から離れていると悟ったのか、生活態度を改めていった。そのうえでいかにやり過ごすかを考えるようになり、更には最悪の事態、それこそヴィクトリアのような仕打ちを受けた場合を想定するようになった。
「僕はむしろ安心しているよ。卿までキャサリンを害する存在になられたら少しばかり厄介だったからね」
「……私はぎりぎりまでキャサリンの味方でいようと決めています」
「その覚悟を溶かしかねない事態も起こっただろう? 僕は危惧していたんだ」
「見くびらないでいただきたい、と憤りたいところですが、殿下のお気持ちも分かります」
ヴィクトリアの一件もあってランカスター一族はキャサリンを擁護する立場を取った。だが相手は神に奇跡を与えられた聖女。その存在を信望する者は多く、水面下で慎重に準備を整えるしかなかった。
そして、侯爵であるカーティスと聖女であるシャーロットが接触する機会は皆無ではなかった。式典や行事などでは同じ空間にいた時もあり、数回ほど夜会で挨拶を交わしたこともあった。
最初抱いた感想は「礼儀正しい」、「清潔感がある」、そして「初々しい」だった。
聖女として祭り上げられたのが最近なのを加味すれば充分に及第点といえる教養は身に付けていたし、それでいて己をわきまえる謙虚さが好印象だった。何より、近寄りがたいが近づきたいという複雑な気分に陥る神秘性すらあった。
「キャサリン、どうした?」
「……いえ。どうも彼女が気になるもので」
会場内は概ねカーティスと同じように受け止めていたようだったが、キャサリンだけは思うところがあるようだった。失礼だろうと窘めようとの考えも浮かんだが、ひとまず表に出さないでおいた。
二回目に会った時はより好印象を覚えた。聖母がこの世に誕生したとしたら正しく彼女だろうと思うほどで、自然とそうなってしまう自分に恐怖を覚えた。それをきっかけにカーティスは聖女を警戒し続けるようになった。
三回目、最後に会った時には既に社交界のほぼ全体が、君主たる国王を含めて、彼女を崇拝するようになっていた。危機感を抱く極小数がその場限りの同調を示してやり過ごす居心地の悪さに吐き気がした。
「あの聖女めに国王陛下まで篭絡される始末。我々だけで対抗せねばなるまいと覚悟を決めていましたが、殿下がキャサリンの味方をしていただけるとは」
なのでカーティスはフレデリックが接触してきた時、聖女が仕組んだ罠、もしくは彼も聖女のために自分を嵌めようとしているかもと疑った。
しかし、キャサリンが牢獄に入れられ死刑まであと数日まで迫った段階でもなおフレデリックは諦めなかった。そんな彼にカーティスはやっと全幅の信頼を寄せてもいいのでは、と思い始めていた。
「そうしたかったからそうしているまでだ。あいにく僕は聖者でも慈善家でもない。そのうえで宣言するけれど、僕はキャサリンを助けたいと思っている。卿にも協力してほしい」
「もちろんですとも。娘を助けたいと思う気持ちは殿下に負けておりませんので」
「素直じゃないなぁ。若造なんかより娘への気持ちが小さいわけないだろ、とか思ってたりしない?」
「はははっ、それは言わないでおきましょう」
ここにいたり、カーティスとフレデリックは同志となっていた。
王太子の企てを打ち砕き、キャサリンを取り戻すための。
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