処刑エンドからだけど何とか楽しんでやるー!

福留しゅん

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Season 2 キャサリン・ランカスター

処刑まであと28日(前)

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 ■Side ランカスター侯爵

「旦那様、我々をここから出してください!」
「俺達は聖女様のために命をとして動かなきゃいけないんです!」

 ランカスター侯カーティスは牢屋に閉じ込めている二人の騎士達の様子を目の当たりにして深い溜め息を漏らした。その隣には当主の護衛を務める騎士団長ヘイデンが愕然としながらも毅然とした佇まいで両名を睨みつけている。

「もはやこやつらは話にならんな。ことが収まるまではこのままとする」
「御意に」

 カーティスは踵を返すと地下牢を後にした。ヘイデン達が続き、地下牢へと続く階段の扉が固く閉ざされた。地下階の天井付近は地面スレスレの窓が設けられていて、牢屋の騎士達が暗闇に閉ざされることはない。

「聖女の魅力は恐ろしいものだな。まさかこの屋敷にまで影響を及ぼしているとはな」
「部下の管理が甘く、申し訳ございません」

 ヘイデンにとって捕らえた騎士達は忠実な部下だった。ランカスター家の者たちへの忠誠心も高く、勤務態度も申し分なし。信頼に足ると判断したからこそキャサリン救出作戦の一端を担わせたのだ。

 しかし、アシュリーだけは警戒を怠っていなかった。キャサリン達ランカスター家の者が見ていないところで普段と違った様子を見せる二人を警戒し、念には念を入れるべきだとカーティスに進言したのだった。

(『石橋を叩くように』、とヴィクトリア様は表現なさっていたな)

 用心に越したことはない、と両名を見張らせていたところ、なんと街中の教会で奉仕活動を行う聖女と接触していたことが判明。不穏な動きこそ見られなかったが、任務から外す決断を下したのだった。

「それにしても……あの方のおっしゃるとおりでしたな」
「未だに信じられんが、あの方は我々とは違うものが見えているのかもしれんな」
「あのお方が聖女に惑わされていないのは心強い限りです」
「そこまで信頼していいのかは迷うところだがな」

 カーティス達が向かった先は客室。中では青年がソファーにもたれかかって目をつむっていたが、家主が現れるとすぐさま立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。カーティスはそんな青年に向けてかしこまらなくてもいいと述べつつ座るように促す。

「失礼。ほんの少しの間だけでも何も考えない時間があると頭の中が整理されるんだ」
「分かります。私も移動中馬車ではよく仮眠を取りますからな」

 侯爵かつ屋敷の主人でもあるカーティスは目の前の青年を敬う態度を取る。そしてそれをヘイデンや使用人達は気にする様子もない。青年も年上の侯爵に敬意を払いこそしているものの、当然のように受け止めていた。

「それで、二名の騎士の様子は?」
「……もはや聖女の虜ですな。洗脳されていると言っていい」
「やはり、か。だとすると元に戻すのは容易じゃないな」
「ええ。先程我々もそのように思ったところです」

 二名の騎士の拘束は青年が提案した。任務から外されたことで聖女に密告されたりキャサリンを危険な目に合わせる等、何をするか分かったものではなかったから。

 そこまでする必要はないだろう、とヘイデンは考えたものの、青年による提案で二名の騎士を試すことになった。具体的にはあえて彼らの前で聖女を貶すような発言をすることで彼らの怒りを誘い出したのだった。

(『踏み絵』と殿下は表現なさっていたが……我々の知らぬ表現だ。もしや後世に伝わっていないだけでこれもまたヴィクトリア様のお言葉なのかもしれぬな)

 そのうえでカーティスは屋敷内の洗い出しをし、発覚した他の聖女信望者達に暇を申し渡した。理不尽だと憤る者もいたが、やはり聖女を卑下する発言をすると大小の差異あれど反応が出たため、言い逃れは出来なかった。

 そして、ランカスター家内の一掃もまた青年の提案によるものだった。

「これで卿も僕を信用してくれるかな?」
「め、滅相もない! 以前はとんだ失礼をいたしました」
「いや、卿はそれでいい。昨今においてそうして何事も疑うに越したことはない」

 フレデリック・ノルマン。アルビオン王国を形成する白き島に対して海峡を挟んだ向こう側に位置する隣国の王子であり、留学生としてアルビオン王立学園で学んでいる。

 彼はキャサリンと同級生として共に学んでいた。キャサリンの口からは度々フレデリックの名が登場しており、既に王太子の婚約者となっているキャサリンとは節度ある、しかし気心知れた関係を築けていると感想を抱いていた。

 そんなフレデリックがカーティスに接触してきたのは、キャサリンが友人を招いたお茶会での時だった。

 たまたま屋敷内で執務を行っていたカーティスが気分転換に顔を見せたところ、フレデリックから内密に話し合いたいと声をかけられた。隣国との交易の話かと想像していたカーティスは、フレデリックからの発言に驚愕するしかなかった。

 フレデリックはカーティスに言った。このままでは『悪役令嬢』キャサリンは『ヒロイン』シャーロットに破滅させられる、と。

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