26 / 53
Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと28日(前)
しおりを挟む
■Side ランカスター侯爵
「旦那様、我々をここから出してください!」
「俺達は聖女様のために命をとして動かなきゃいけないんです!」
ランカスター侯カーティスは牢屋に閉じ込めている二人の騎士達の様子を目の当たりにして深い溜め息を漏らした。その隣には当主の護衛を務める騎士団長ヘイデンが愕然としながらも毅然とした佇まいで両名を睨みつけている。
「もはやこやつらは話にならんな。ことが収まるまではこのままとする」
「御意に」
カーティスは踵を返すと地下牢を後にした。ヘイデン達が続き、地下牢へと続く階段の扉が固く閉ざされた。地下階の天井付近は地面スレスレの窓が設けられていて、牢屋の騎士達が暗闇に閉ざされることはない。
「聖女の魅力は恐ろしいものだな。まさかこの屋敷にまで影響を及ぼしているとはな」
「部下の管理が甘く、申し訳ございません」
ヘイデンにとって捕らえた騎士達は忠実な部下だった。ランカスター家の者たちへの忠誠心も高く、勤務態度も申し分なし。信頼に足ると判断したからこそキャサリン救出作戦の一端を担わせたのだ。
しかし、アシュリーだけは警戒を怠っていなかった。キャサリン達ランカスター家の者が見ていないところで普段と違った様子を見せる二人を警戒し、念には念を入れるべきだとカーティスに進言したのだった。
(『石橋を叩くように』、とヴィクトリア様は表現なさっていたな)
用心に越したことはない、と両名を見張らせていたところ、なんと街中の教会で奉仕活動を行う聖女と接触していたことが判明。不穏な動きこそ見られなかったが、任務から外す決断を下したのだった。
「それにしても……あの方のおっしゃるとおりでしたな」
「未だに信じられんが、あの方は我々とは違うものが見えているのかもしれんな」
「あのお方が聖女に惑わされていないのは心強い限りです」
「そこまで信頼していいのかは迷うところだがな」
カーティス達が向かった先は客室。中では青年がソファーにもたれかかって目をつむっていたが、家主が現れるとすぐさま立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。カーティスはそんな青年に向けてかしこまらなくてもいいと述べつつ座るように促す。
「失礼。ほんの少しの間だけでも何も考えない時間があると頭の中が整理されるんだ」
「分かります。私も移動中馬車ではよく仮眠を取りますからな」
侯爵かつ屋敷の主人でもあるカーティスは目の前の青年を敬う態度を取る。そしてそれをヘイデンや使用人達は気にする様子もない。青年も年上の侯爵に敬意を払いこそしているものの、当然のように受け止めていた。
「それで、二名の騎士の様子は?」
「……もはや聖女の虜ですな。洗脳されていると言っていい」
「やはり、か。だとすると元に戻すのは容易じゃないな」
「ええ。先程我々もそのように思ったところです」
二名の騎士の拘束は青年が提案した。任務から外されたことで聖女に密告されたりキャサリンを危険な目に合わせる等、何をするか分かったものではなかったから。
そこまでする必要はないだろう、とヘイデンは考えたものの、青年による提案で二名の騎士を試すことになった。具体的にはあえて彼らの前で聖女を貶すような発言をすることで彼らの怒りを誘い出したのだった。
(『踏み絵』と殿下は表現なさっていたが……我々の知らぬ表現だ。もしや後世に伝わっていないだけでこれもまたヴィクトリア様のお言葉なのかもしれぬな)
そのうえでカーティスは屋敷内の洗い出しをし、発覚した他の聖女信望者達に暇を申し渡した。理不尽だと憤る者もいたが、やはり聖女を卑下する発言をすると大小の差異あれど反応が出たため、言い逃れは出来なかった。
そして、ランカスター家内の一掃もまた青年の提案によるものだった。
「これで卿も僕を信用してくれるかな?」
「め、滅相もない! 以前はとんだ失礼をいたしました」
「いや、卿はそれでいい。昨今においてそうして何事も疑うに越したことはない」
フレデリック・ノルマン。アルビオン王国を形成する白き島に対して海峡を挟んだ向こう側に位置する隣国の王子であり、留学生としてアルビオン王立学園で学んでいる。
彼はキャサリンと同級生として共に学んでいた。キャサリンの口からは度々フレデリックの名が登場しており、既に王太子の婚約者となっているキャサリンとは節度ある、しかし気心知れた関係を築けていると感想を抱いていた。
そんなフレデリックがカーティスに接触してきたのは、キャサリンが友人を招いたお茶会での時だった。
たまたま屋敷内で執務を行っていたカーティスが気分転換に顔を見せたところ、フレデリックから内密に話し合いたいと声をかけられた。隣国との交易の話かと想像していたカーティスは、フレデリックからの発言に驚愕するしかなかった。
フレデリックはカーティスに言った。このままでは『悪役令嬢』キャサリンは『ヒロイン』シャーロットに破滅させられる、と。
「旦那様、我々をここから出してください!」
「俺達は聖女様のために命をとして動かなきゃいけないんです!」
ランカスター侯カーティスは牢屋に閉じ込めている二人の騎士達の様子を目の当たりにして深い溜め息を漏らした。その隣には当主の護衛を務める騎士団長ヘイデンが愕然としながらも毅然とした佇まいで両名を睨みつけている。
「もはやこやつらは話にならんな。ことが収まるまではこのままとする」
「御意に」
カーティスは踵を返すと地下牢を後にした。ヘイデン達が続き、地下牢へと続く階段の扉が固く閉ざされた。地下階の天井付近は地面スレスレの窓が設けられていて、牢屋の騎士達が暗闇に閉ざされることはない。
「聖女の魅力は恐ろしいものだな。まさかこの屋敷にまで影響を及ぼしているとはな」
「部下の管理が甘く、申し訳ございません」
ヘイデンにとって捕らえた騎士達は忠実な部下だった。ランカスター家の者たちへの忠誠心も高く、勤務態度も申し分なし。信頼に足ると判断したからこそキャサリン救出作戦の一端を担わせたのだ。
しかし、アシュリーだけは警戒を怠っていなかった。キャサリン達ランカスター家の者が見ていないところで普段と違った様子を見せる二人を警戒し、念には念を入れるべきだとカーティスに進言したのだった。
(『石橋を叩くように』、とヴィクトリア様は表現なさっていたな)
用心に越したことはない、と両名を見張らせていたところ、なんと街中の教会で奉仕活動を行う聖女と接触していたことが判明。不穏な動きこそ見られなかったが、任務から外す決断を下したのだった。
「それにしても……あの方のおっしゃるとおりでしたな」
「未だに信じられんが、あの方は我々とは違うものが見えているのかもしれんな」
「あのお方が聖女に惑わされていないのは心強い限りです」
「そこまで信頼していいのかは迷うところだがな」
カーティス達が向かった先は客室。中では青年がソファーにもたれかかって目をつむっていたが、家主が現れるとすぐさま立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。カーティスはそんな青年に向けてかしこまらなくてもいいと述べつつ座るように促す。
「失礼。ほんの少しの間だけでも何も考えない時間があると頭の中が整理されるんだ」
「分かります。私も移動中馬車ではよく仮眠を取りますからな」
侯爵かつ屋敷の主人でもあるカーティスは目の前の青年を敬う態度を取る。そしてそれをヘイデンや使用人達は気にする様子もない。青年も年上の侯爵に敬意を払いこそしているものの、当然のように受け止めていた。
「それで、二名の騎士の様子は?」
「……もはや聖女の虜ですな。洗脳されていると言っていい」
「やはり、か。だとすると元に戻すのは容易じゃないな」
「ええ。先程我々もそのように思ったところです」
二名の騎士の拘束は青年が提案した。任務から外されたことで聖女に密告されたりキャサリンを危険な目に合わせる等、何をするか分かったものではなかったから。
そこまでする必要はないだろう、とヘイデンは考えたものの、青年による提案で二名の騎士を試すことになった。具体的にはあえて彼らの前で聖女を貶すような発言をすることで彼らの怒りを誘い出したのだった。
(『踏み絵』と殿下は表現なさっていたが……我々の知らぬ表現だ。もしや後世に伝わっていないだけでこれもまたヴィクトリア様のお言葉なのかもしれぬな)
そのうえでカーティスは屋敷内の洗い出しをし、発覚した他の聖女信望者達に暇を申し渡した。理不尽だと憤る者もいたが、やはり聖女を卑下する発言をすると大小の差異あれど反応が出たため、言い逃れは出来なかった。
そして、ランカスター家内の一掃もまた青年の提案によるものだった。
「これで卿も僕を信用してくれるかな?」
「め、滅相もない! 以前はとんだ失礼をいたしました」
「いや、卿はそれでいい。昨今においてそうして何事も疑うに越したことはない」
フレデリック・ノルマン。アルビオン王国を形成する白き島に対して海峡を挟んだ向こう側に位置する隣国の王子であり、留学生としてアルビオン王立学園で学んでいる。
彼はキャサリンと同級生として共に学んでいた。キャサリンの口からは度々フレデリックの名が登場しており、既に王太子の婚約者となっているキャサリンとは節度ある、しかし気心知れた関係を築けていると感想を抱いていた。
そんなフレデリックがカーティスに接触してきたのは、キャサリンが友人を招いたお茶会での時だった。
たまたま屋敷内で執務を行っていたカーティスが気分転換に顔を見せたところ、フレデリックから内密に話し合いたいと声をかけられた。隣国との交易の話かと想像していたカーティスは、フレデリックからの発言に驚愕するしかなかった。
フレデリックはカーティスに言った。このままでは『悪役令嬢』キャサリンは『ヒロイン』シャーロットに破滅させられる、と。
23
お気に入りに追加
3,187
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。