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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと29日(後)
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「あ、あー。もっしもーし。聞こえますかー?」
伝声管が伸びる先は監獄を囲う城壁の外だ。当たり前だけど向こう側も普段は見つからないよう隠してあるけれど、私がこんな目にあうと見越して掘り起こしている筈。
昔と違って監獄周辺はそこに務める従業員向けの町が出来てるから、侯爵家の手の者が紛れ込むのは超簡単。私の身柄の奪還に失敗したことだし、既に誰かが向こう側に待機している筈だけれど……。
耳を澄ましていたら管の向こうからものすごく小さな物音が聞こえてきた。えっと、多分椅子が倒れた音かしら? それから「マジで聞こえてきた……!」とか「驚いていないで早く返事しなくては!」みたいな声も聞こえてきた。
「お嬢様、聞こえています!」
「え、もしかしてアシュリー?」
「ええ、アシュリーでございます。よくぞご無事で……!」
意外、なんと向こうから私の侍女が呼びかけてきたじゃないの。
アシュリーは幼い頃から私に仕えてくれた私にとって姉も同然の人だ。我儘だった頃は何度も叱られたし、逆に一緒になっていたずらもしたっけ。私をないがしろにするフィリップ様にも怒ってくれたし、私の味方だと断言出来る。
けれどこの危機を脱する計画にアシュリーを関わらせてはいない。何かやれることは無いか、力になりたい、と涙ながらに訴えてきた彼女を私は拒絶した。
だって私が相手するのは絶対的な存在である王家、そして聖女。私に加担しているとバレたら一巻の終わりだ。そんな危険にアシュリーを晒すわけにはいかない。
「ちょっと、どうしてアシュリーがそこにいるのよ」
「わたしだけではございません。弟も待機しています」
「そこは問題じゃなくて、首を突っ込んできた理由を言いなさいって言ってるのよ」
「……それに関してお嬢様にご報告したいことが」
そんな私の心配をないがしろにしたアシュリーに憤りを覚えて少し声に棘が入る。
けれどアシュリーから返ってきたのは深刻そうに重苦しい声だった。
「お嬢様がこの伝声管のことを調べた際、わたしもおりましたよね」
「ええ。侯爵家の書斎の奥深くにヴィクトリアの手記が残されてて、それを見つけて一緒に読んだものね」
ヴィクトリアは来るべき危機に備えて色々と遺していた。それを子孫に知らせるために記録を王宮ではなく侯爵邸に隠した。自分のことを調べようと屋敷の中を調べたら見つかるところに。
「そしてこの伝声管の先は町の一角、とある家の地下室だと知っているのはごく少数です。お嬢様、このわたし、そしてお嬢様に直々に命を受けた者だけだったかと」
「ええ。私が牢屋にいる間の連絡係にだけ教えたわ」
その連絡係も侯爵家に長年仕えてきた騎士二人だ。お父様からの信頼も厚く、私の護衛だって何度も引き受けてくれた。私が申し訳なくお願いしたら彼らは迷いなく快諾してくれた。必ずや私を救い出す、と誓って。
「その連絡係は拘束しました」
「……は?」
なのに、その騎士はおらず、侍女がいる。
そして侍女の報告を私は最初理解できなかった。
「いつの間にかランカスター家にもあの魔女信望者が現れていたんです。そしてあの両名共いつの間にかあの魔女めに心奪われていたらしく、この伝声管の存在を密告しようと企てていたんです」
「……嘘よ」
「幸いにも警戒していた旦那様が不審な素振りを見せる両名を疑っていたために未遂で済みました……。今彼らの身柄は取り押さえています」
信じられなかった。
いつから裏切られていたの? どこであのシャーロットと知り合った?
彼らほどの忠義者が私に背を向けるなら、私は一体誰を頼りにすれば……。
「もはや誰が魔女の毒牙にかかっているか分かりませんので、わたしがお嬢様との連絡係を務めます」
「……そう、もう誰も彼も信用ならないのね」
「ご命令に背きますが、わたしはお嬢様の力になりたいんです。どうかお許しを」
そうなると途端に不安になる。
向こうにいるアシュリーは本当に私の味方でいてくれるのか、と。
土壇場になって私を後ろから刺すような最悪な絶望を味わわないか、と。
「お嬢様。なにもこのわたしを信用なさらずともよろしいのですよ」
「はい?」
恐怖にかられていたら、アシュリーからとんでもない発言がふられてきた。
信用しろ、といった私を安心させるものじゃなく、あっけらかんとした口調だった。
「ええ、このわたしもあの魔女めに拐かされているかもしれませんね。しかしそう疑ってばかりいたら疲れてしまいましょう。だったら化かし合いぐらいに思っておけばいいんです」
……おかげで恐怖は遥か彼方に吹っ飛んでいったわ。
この感じ、彼女は間違いなくシャーロットに惑わされていない。
少なくとも私はそう信じたい、と思えるぐらいにはなった。
「アシュリーがシャーロットに内通してようが構わないやりとりをしろ、ってことね?」
「それは面白そうですね。お嬢様との腹のさぐりあいでしたら何度もやりましたし」
「……ありがとう」
「礼でしたら後ほど全てが片付いてからに」
何にせよ、これで外界との連絡手段が確保できた。
これは大きな第一歩でしょう。
伝声管が伸びる先は監獄を囲う城壁の外だ。当たり前だけど向こう側も普段は見つからないよう隠してあるけれど、私がこんな目にあうと見越して掘り起こしている筈。
昔と違って監獄周辺はそこに務める従業員向けの町が出来てるから、侯爵家の手の者が紛れ込むのは超簡単。私の身柄の奪還に失敗したことだし、既に誰かが向こう側に待機している筈だけれど……。
耳を澄ましていたら管の向こうからものすごく小さな物音が聞こえてきた。えっと、多分椅子が倒れた音かしら? それから「マジで聞こえてきた……!」とか「驚いていないで早く返事しなくては!」みたいな声も聞こえてきた。
「お嬢様、聞こえています!」
「え、もしかしてアシュリー?」
「ええ、アシュリーでございます。よくぞご無事で……!」
意外、なんと向こうから私の侍女が呼びかけてきたじゃないの。
アシュリーは幼い頃から私に仕えてくれた私にとって姉も同然の人だ。我儘だった頃は何度も叱られたし、逆に一緒になっていたずらもしたっけ。私をないがしろにするフィリップ様にも怒ってくれたし、私の味方だと断言出来る。
けれどこの危機を脱する計画にアシュリーを関わらせてはいない。何かやれることは無いか、力になりたい、と涙ながらに訴えてきた彼女を私は拒絶した。
だって私が相手するのは絶対的な存在である王家、そして聖女。私に加担しているとバレたら一巻の終わりだ。そんな危険にアシュリーを晒すわけにはいかない。
「ちょっと、どうしてアシュリーがそこにいるのよ」
「わたしだけではございません。弟も待機しています」
「そこは問題じゃなくて、首を突っ込んできた理由を言いなさいって言ってるのよ」
「……それに関してお嬢様にご報告したいことが」
そんな私の心配をないがしろにしたアシュリーに憤りを覚えて少し声に棘が入る。
けれどアシュリーから返ってきたのは深刻そうに重苦しい声だった。
「お嬢様がこの伝声管のことを調べた際、わたしもおりましたよね」
「ええ。侯爵家の書斎の奥深くにヴィクトリアの手記が残されてて、それを見つけて一緒に読んだものね」
ヴィクトリアは来るべき危機に備えて色々と遺していた。それを子孫に知らせるために記録を王宮ではなく侯爵邸に隠した。自分のことを調べようと屋敷の中を調べたら見つかるところに。
「そしてこの伝声管の先は町の一角、とある家の地下室だと知っているのはごく少数です。お嬢様、このわたし、そしてお嬢様に直々に命を受けた者だけだったかと」
「ええ。私が牢屋にいる間の連絡係にだけ教えたわ」
その連絡係も侯爵家に長年仕えてきた騎士二人だ。お父様からの信頼も厚く、私の護衛だって何度も引き受けてくれた。私が申し訳なくお願いしたら彼らは迷いなく快諾してくれた。必ずや私を救い出す、と誓って。
「その連絡係は拘束しました」
「……は?」
なのに、その騎士はおらず、侍女がいる。
そして侍女の報告を私は最初理解できなかった。
「いつの間にかランカスター家にもあの魔女信望者が現れていたんです。そしてあの両名共いつの間にかあの魔女めに心奪われていたらしく、この伝声管の存在を密告しようと企てていたんです」
「……嘘よ」
「幸いにも警戒していた旦那様が不審な素振りを見せる両名を疑っていたために未遂で済みました……。今彼らの身柄は取り押さえています」
信じられなかった。
いつから裏切られていたの? どこであのシャーロットと知り合った?
彼らほどの忠義者が私に背を向けるなら、私は一体誰を頼りにすれば……。
「もはや誰が魔女の毒牙にかかっているか分かりませんので、わたしがお嬢様との連絡係を務めます」
「……そう、もう誰も彼も信用ならないのね」
「ご命令に背きますが、わたしはお嬢様の力になりたいんです。どうかお許しを」
そうなると途端に不安になる。
向こうにいるアシュリーは本当に私の味方でいてくれるのか、と。
土壇場になって私を後ろから刺すような最悪な絶望を味わわないか、と。
「お嬢様。なにもこのわたしを信用なさらずともよろしいのですよ」
「はい?」
恐怖にかられていたら、アシュリーからとんでもない発言がふられてきた。
信用しろ、といった私を安心させるものじゃなく、あっけらかんとした口調だった。
「ええ、このわたしもあの魔女めに拐かされているかもしれませんね。しかしそう疑ってばかりいたら疲れてしまいましょう。だったら化かし合いぐらいに思っておけばいいんです」
……おかげで恐怖は遥か彼方に吹っ飛んでいったわ。
この感じ、彼女は間違いなくシャーロットに惑わされていない。
少なくとも私はそう信じたい、と思えるぐらいにはなった。
「アシュリーがシャーロットに内通してようが構わないやりとりをしろ、ってことね?」
「それは面白そうですね。お嬢様との腹のさぐりあいでしたら何度もやりましたし」
「……ありがとう」
「礼でしたら後ほど全てが片付いてからに」
何にせよ、これで外界との連絡手段が確保できた。
これは大きな第一歩でしょう。
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