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Season 2 キャサリン・ランカスター
処刑まであと31日 その④
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■Side エリザベス
まあ、騎士が千人の敵兵をなぎ倒した、といった英雄譚のように誇張もされているでしょう。しかし王太子が失脚して令嬢が王妃となったのはまごうことなき事実。それを教訓として不当な断罪は行わぬよう後世に伝わってきました。
奇しくも、断罪されたのはまたしてもランカスター侯爵家の令嬢ですか。
「それで、どうなさいますか? これまでもあの魔女めの尻尾は掴めませんでしたが」
「キャサリン様が投獄されたことで兄上は油断している筈です。そこにつけ込んで聖女に魅了されたからくりを暴かなければいけません」
「御意に。我らステュアート家は独自に動きます。王女殿下はくれぐれも王太子殿下に目をつけられぬよう慎重に事をお運びください」
ジェーンは勝鬨を上げるように高らかに笑う王太子フィリップを目の当たりにして身震いしました。側近達も勝利に酔いしれているようです。シャーロットは遠慮気味に彼らの輪に入ってワインに口を付けていました。
「もはや王太子殿下があの魔女めに抱くのは愛情ではありません。崇拝に近いものがあります。邪魔になるのなら容赦はしないでしょう」
「……ええ。キャサリン様を処刑なさろうとまでするなんて、ね。ですがそこまでするだろうとの確信があればやりようはいくらでもありました」
「と、言いますと?」
「兄上のことです。キャサリン様の処刑が正当だと知らしめるために秘密裏には行わないでしょう。そうなれば色々と準備が必要になります。ある程度の期間が設けられるのであれば、キャサリン様は処刑までの間投獄するしかありません」
「それは、言い伝えのように?」
「ええ。言い伝えのように」
ジェーンは目を丸くしてわたくしを見つめ、わたくしは彼女に笑みをこぼしました。
そう、愚兄がもう止められないと悟ったわたくしは何とか愚かな野望を打ち砕こうと必死になって逆転の一手になりうる材料を探しました。もう諦めかけたその時、わたくしはとうとうソレを発見したのです。
ソレを見つけた時、わたくしは「まさか」と思いました。しかしソレに書かれていることはまるで今の事態を見越したかのようで、今のわたくしにとっては道標となっていました。そしてソレがあるからこそわたくしは愚兄が間違っているのだと自信が持てるのです。
「時間がありません。やれることはやりましょう」
「御意に」
ジェーンは恭しく頭を垂れてからその場を後にします。
わたくしは大きく息を吐いてから果実水の入ったグラスに手を伸ばし、先に取られたと思ったらこちらに差し出されました。ありがたく受け取って喉を潤します。一方的な茶番劇とその対応で疲れた身体が癒やされます。
「やはり、危惧したとおりになりましたね」
「ええ」
彼はわたくしのグラスにおかわりを注ぎ足し、自分のグラスと接触させます。心地よい音が鳴って互いに「乾杯」と述べて再び口に付けました。彼は口元を拭き取ってから殻になったグラスを給仕に片付けさせます。
「なら僕はかねてからの宣言どおりに動きます。構いませんよね?」
「くれぐれも国際問題に発展しない程度に抑えてくださいませ」
「節度は守りますよ。僕だって彼女には嫌われたくありませんし、ね」
「どの口がおっしゃいますか。先程だって兄上への殺意が漏れていたくせに」
彼は手を振りながらわたくしに背を向けて立ち去っていきます。上辺だけなら軽快な様子に見えますが、その背中からは並々ならぬ決意が感じられました。もはやあの方の情熱は止められやしないでしょう。
処刑場の準備と市民への通達を踏まえて日程を逆算したら……処刑日はおそらく今から約一ヶ月後ぐらいでしょう。それまでに何とか出来なければ愚兄……いえ、我ら王家は末代まで伝わる失態を犯すことになります。それは絶対に阻止しなければ。
言い伝えでも物語でもない、わたくし達の新たな戦いはこうして始まったのです。
まあ、騎士が千人の敵兵をなぎ倒した、といった英雄譚のように誇張もされているでしょう。しかし王太子が失脚して令嬢が王妃となったのはまごうことなき事実。それを教訓として不当な断罪は行わぬよう後世に伝わってきました。
奇しくも、断罪されたのはまたしてもランカスター侯爵家の令嬢ですか。
「それで、どうなさいますか? これまでもあの魔女めの尻尾は掴めませんでしたが」
「キャサリン様が投獄されたことで兄上は油断している筈です。そこにつけ込んで聖女に魅了されたからくりを暴かなければいけません」
「御意に。我らステュアート家は独自に動きます。王女殿下はくれぐれも王太子殿下に目をつけられぬよう慎重に事をお運びください」
ジェーンは勝鬨を上げるように高らかに笑う王太子フィリップを目の当たりにして身震いしました。側近達も勝利に酔いしれているようです。シャーロットは遠慮気味に彼らの輪に入ってワインに口を付けていました。
「もはや王太子殿下があの魔女めに抱くのは愛情ではありません。崇拝に近いものがあります。邪魔になるのなら容赦はしないでしょう」
「……ええ。キャサリン様を処刑なさろうとまでするなんて、ね。ですがそこまでするだろうとの確信があればやりようはいくらでもありました」
「と、言いますと?」
「兄上のことです。キャサリン様の処刑が正当だと知らしめるために秘密裏には行わないでしょう。そうなれば色々と準備が必要になります。ある程度の期間が設けられるのであれば、キャサリン様は処刑までの間投獄するしかありません」
「それは、言い伝えのように?」
「ええ。言い伝えのように」
ジェーンは目を丸くしてわたくしを見つめ、わたくしは彼女に笑みをこぼしました。
そう、愚兄がもう止められないと悟ったわたくしは何とか愚かな野望を打ち砕こうと必死になって逆転の一手になりうる材料を探しました。もう諦めかけたその時、わたくしはとうとうソレを発見したのです。
ソレを見つけた時、わたくしは「まさか」と思いました。しかしソレに書かれていることはまるで今の事態を見越したかのようで、今のわたくしにとっては道標となっていました。そしてソレがあるからこそわたくしは愚兄が間違っているのだと自信が持てるのです。
「時間がありません。やれることはやりましょう」
「御意に」
ジェーンは恭しく頭を垂れてからその場を後にします。
わたくしは大きく息を吐いてから果実水の入ったグラスに手を伸ばし、先に取られたと思ったらこちらに差し出されました。ありがたく受け取って喉を潤します。一方的な茶番劇とその対応で疲れた身体が癒やされます。
「やはり、危惧したとおりになりましたね」
「ええ」
彼はわたくしのグラスにおかわりを注ぎ足し、自分のグラスと接触させます。心地よい音が鳴って互いに「乾杯」と述べて再び口に付けました。彼は口元を拭き取ってから殻になったグラスを給仕に片付けさせます。
「なら僕はかねてからの宣言どおりに動きます。構いませんよね?」
「くれぐれも国際問題に発展しない程度に抑えてくださいませ」
「節度は守りますよ。僕だって彼女には嫌われたくありませんし、ね」
「どの口がおっしゃいますか。先程だって兄上への殺意が漏れていたくせに」
彼は手を振りながらわたくしに背を向けて立ち去っていきます。上辺だけなら軽快な様子に見えますが、その背中からは並々ならぬ決意が感じられました。もはやあの方の情熱は止められやしないでしょう。
処刑場の準備と市民への通達を踏まえて日程を逆算したら……処刑日はおそらく今から約一ヶ月後ぐらいでしょう。それまでに何とか出来なければ愚兄……いえ、我ら王家は末代まで伝わる失態を犯すことになります。それは絶対に阻止しなければ。
言い伝えでも物語でもない、わたくし達の新たな戦いはこうして始まったのです。
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