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部活⑦・魔王達は貧民達を救う
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「ベルンシュタイン家方が雇う、ですって?」
ターニャが耳を疑うかのように問い質してくる。
「うむ。ベルンシュタイン家の領土は広大だがその分開拓されていない土地も多々ある。その者達に土地と家を分け与えて農業や牧畜を営んでもらうのだ」
「我がヴァルツェル家は国境に面しているから戦力があるに越した事はない。職業兵士となってもらい国境警備や治安維持に務めてもらう」
「キルヒヘル家に来ていただけたら街道や水路の整備を進めていただきましょう。人の往来が良くなれば豊かになりますから」
そんな彼女を始めとした生徒会一同に三人の悪役令嬢達は各々の計画を述べた。自分達の土地が持てる、賃金が高い仕事に付ける、と聞いた周囲の住人達はいたる場所で会話を繰り広げる。これらの話が本当か、そして乗るべきか否か、等今後の在り方についてを。
「当主どころか後継者ですらない一令嬢が家を代表して意見を安易に口にするべきではないな」
「はっ、浅はかなのはデニス、そなたの方だぞ! ルードヴィヒ達の前に立ちはだかった上で宣言したのだ、当然話は通したに決まっておるではないか!」
なおも疑うデニスを一刀両断するようにアーデルハイドは高らかに断言した。この頃になると周囲にいた旧市街地の住人達はその口から口へと貴族令嬢の提案を伝えていき、瞬く間に激震となって広がっていく。
「お待ちくださいベルンシュタイン嬢、旧市街地には大勢住んでいらっしゃいます。彼らを一度に貴女方の領地に招き入れるのは船が使えない以上は無理では?」
「レオンハルト様、剣士の尺度で物事を計らないでくださいまし。わたくしの転送魔法を駆使すれば一度に多くの方を目的の土地に移動させられます」
「転送魔法!? ジーク、そんな高度な魔法まで使えたのか」
「きゃー! マクシミリアン様ぁ、もっと褒めてくださいまし」
ジークリットは造作も無いようにレオンハルトの不安を一蹴するが、大半の生徒会役員達にとってはにわかには信じられなかった。彼らの尺度からすれば転移魔法など一流の魔導師として認識される宮廷魔導師ですら短距離がせいぜいだったから。
そんな中、アンネローゼは生徒会の帝都視察に合わせて改善策を練ってきた姉達に驚嘆した。既に彼女からすれば姉は既に自分の考えが及ぶ存在ではなさそうとの認識だったが、それは理解し難いと受け取っていたから。
アンネローゼはそんな姉への印象を改める。
恐ろしい人だ、と。
一方、ユリアーナは爪が食い込むほどに拳を握りしめていた。悪役令嬢が示した対策案は貧乏男爵家に生を受けた彼女では到底実現不可能。学園生徒会役員という立場でも不十分。何せ力に物を言わせて強引に引っ張り上げただけだから。
「今日わたくし共がここにいるのは旧市街地の何箇所かにそうした意思を伝えるおふれを出そうかと思っておりまして」
「それで偶然皆を見かけたから声をかけただけだ」
「無論これらはわたし達が部活の一環としてやっているだけの事。そなた達生徒会一同の邪魔立てをするつもりは無いぞ」
アーデルハイドとジークリットは遮っていた生徒会の道を譲るように道の脇に寄った。それを受けて周囲に集っていた民衆も二つに分かれて道を開けていく。二人はルードヴィヒ達に慇懃なほどの会釈をした。
「では貴方様方の貴重なお時間を奪う訳にはいきませんし、わたくし共はこれにて失礼させていただきます」
「無論、わたし達もそなた達学園生徒会がここに住む者達の為に動いてくれるのなら嬉しいぞ」
真っ先に動いたのはターニャとデニスだった。二人は一刻も早くこの場を去りたいのか、急ぎ足でアーデルハイド達の前を通り抜けて行った。他の生徒会役員も二人に続いていく。ユリアーナは相手に穴が開く程鋭くアーデルハイドを睨みつける。
「これで勝ったと思わない事ね……!」
口にはしなかったがユリアーナの目は明確に意思を伝えていた。
アーデルハイドはそれを負け惜しみと捉えて悪役令嬢らしく嘲笑で返した。
「凄えなアデル。まさかそんな事考えてたなんてな」
「家の為に何か出来ないかと探っていたら偶然思い付いただけだ。だがもっと褒めよ」
「ああ、良くやったぞアデル」
「えへへ、それ程でもないぞ」
ルードヴィヒはアーデルハイドの頭を優しくなでる。彼が浮かべた笑みはとても朗らかなものだった。ルードヴィヒは更にアーデルハイドの耳元に顔を近づける。
「今度は二人きりで帝都の街に行こうぜ。一日中とびきり楽しませてやるよ」
そして、吐息混じりの小声で甘く囁いた。
アーデルハイドはこそばゆさと鼓動の高鳴りを感じつつ笑顔をこぼす。
「言ったな。では心待ちにするとしよう」
アーデルハイドの返答に満足したルードヴィヒは歯を見せて笑い、彼女に手を振りながら立ち去っていった。
彼に付き従ったレオンハルトはヴァルプルギスと視線を交えただけだった。彼女達が語るべきは剣、それ以上に意味など無いとばかりに。
「ジーク、今の話なんだが……」
「マクシミリアン様。わたくしが旧市街地で育ったのはご存知ですよね」
「……ああ」
「わたくしはたまたまキルヒヘル家の血を引いていたから拾い上げていただきましたが、もしかしたら今日を迎えられずに死を迎えていたかもしれません。わたくしは、恵まれていると言えます」
「……そうだな」
「恵まれた者、力ある者には責務があるとも考えられます。それが皆様の仰る施しとやらなのかもしれませんね」
「だから故郷とも言うべきここの改善をしたかったのか」
「恩返し、と考えていただいても構いません」
ジークリットへと駆け寄ったマクシミリアンは彼女から別の動機を聞いて衝撃を受けた。貴族としての責任、学園生徒会役員としての役割、そうした使命とは違った彼女の純粋な願いに心打たれて。そして彼は己の婚約者の別の一面を垣間見た気がした。
マクシミリアンは自然と笑みが浮かんだ。そしてジークリットの頬にわずかに触れる。
「ルードヴィヒじゃねえが、こういうのを愛おしいって言うんだろうな」
「そのお言葉こそわたくしにとっては一番嬉しゅうございます」
マクシミリアンは踵を返してルードヴィヒ達の後を追った。
「……やったなジークリット、ヴァルプルギスよ」
「ええ、一泡吹かせてやりましたねえ」
「ヒロインの奴にはこれ以上の代案は出せないだろう。私達の勝利だな」
生徒会一同を見届けたアーデルハイド達は互いに顔を見合わせ、ひとまずの成功を喜び合う。
そんな三人の貴族令嬢の周りには先ほどまで学園生徒会の後ろに付いていた観衆達が何割か残っていた。アーデルハイドはそんな大衆を鬱陶しがらず、むしろ自分達に注目が集まるよう手を振ってみせた。途端、彼女達を讃える声が沸き上がる。
「さて、では目的も果たしたし、宣言通りこちらからの提案を知らしめるとしようか」
そうして三人は日が暮れそうになるまで旧市街地を巡回、自分達からの誘いを広めていった。
■■■
「結局、学園じゃあ一時的な施しは出来ても抜本的には解決できねえって結論になったぜ」
「であろうな。ああ、ちなみにわたし達の提案は盛況だったぞ。出発式を盛大に執り行う程にな」
「それも聞いてる。おかげで旧市街地の住人は何割かが新天地に移っていったってな」
後日、ルードヴィヒは悪役令嬢同好会の部室にお邪魔してアーデルハイドと向き合っていた。ヴァルプルギスは何もない空間で身体を動かし、ジークリットは別の椅子に腰かけて魔導書を読みふけっている。テーブルには二人だけの空間が出来上がっていた。
「予想外に帝都に愛着を持つ者がいてな。待遇が良ければ釣られるものでもないと分かってしまった」
「帝都を故郷にしてる人も多いからな。中々離れられないだろ、そういう人達ってさ」
「親のいない孤児はわたし達で割り振ってそれぞれの領土で育てるからな」
「助かった。帝都の教会で面倒見れる子供の数にも限度があるからな」
不幸にも親を失った子が懸命に生きようと過酷な労働をこなしたり罪に手を染める。そんな状況を改善しようとアーデルハイド達は多少強引に子供達を引き取った。尤も、教会とは関係無く各家が支援する養護施設で育てる方針なのだが。
「ところでルードヴィヒよ、そなた国に訴えて新たな公共事業を立ち上げたんだとな」
「ああ。少しでも改善に繋がればな、ってな」
ルードヴィヒは皇太子の命として都市の清掃を請け負う事業を立ち上げた。重労働な分金払いが良く設定されており、日々の食を始めとする生活は質素ながら困らなくなった人が多くなった。評判は上々、ルードヴィヒの名声も高まっている。
「ありがとうな。本当だったら俺や親父が率先して動かなきゃいけなかったのによ」
「わたし達だからこそ出来たのもあるな。国が動けば大事になりかねぬ」
「……ああ、そうだな」
アーデルハイドは自分の手でルードヴィヒのカップにお茶を注ぎ入れる。パトリシアから教わって身の回りの世話は自分でそつなくこなせるようになっていた。さすがに侍女たる彼女ほど洗練されてはいないが、ルードヴィヒを満足にもてなすには十分だった。
「ところでよ、解決策は三つって言ってたよな。最後の一個って何だったんだ?」
「二つ目が採用されたから不要であろう。それとも参考に聞きたいのか?」
「ああ、是非な」
「なら声を落とす故少し顔をこちらに近づけよ」
ルードヴィヒは言われるがままに身を乗り出す。アーデルハイドも身を乗り出して彼の耳へと自分の唇を近づけていく。だがそれは逆にアーデルハイドの顔もルードヴィヒに近づいていくとも言えた。アーデルハイドは気付かなかった。ルードヴィヒが軽く舌なめずりをしたと。
「きゃあぁっ!?」
そして、彼は己の婚約者の耳を軽く舐めた。
アーデルハイドは甲高い悲鳴を挙げる。ルードヴィヒはそんな婚約者の初々しい反応が可愛くてたまらず、思わず顔がにやけてしまう。
「な、なな……っ!」
「隙だらけだぜ。ご馳走様でした」
「っっ!!」
してやられたアーデルハイドは羞恥心で顔を真紅に染めた。
その後アーデルハイドが怒ってからの痴話喧嘩が始まったのは言うまでもない。
だから、三つ目の解決策が語られる事は無かった。
三つ目。それは魔王、魔女、魔竜としての解決法。人を贄とするものだったから……。
ターニャが耳を疑うかのように問い質してくる。
「うむ。ベルンシュタイン家の領土は広大だがその分開拓されていない土地も多々ある。その者達に土地と家を分け与えて農業や牧畜を営んでもらうのだ」
「我がヴァルツェル家は国境に面しているから戦力があるに越した事はない。職業兵士となってもらい国境警備や治安維持に務めてもらう」
「キルヒヘル家に来ていただけたら街道や水路の整備を進めていただきましょう。人の往来が良くなれば豊かになりますから」
そんな彼女を始めとした生徒会一同に三人の悪役令嬢達は各々の計画を述べた。自分達の土地が持てる、賃金が高い仕事に付ける、と聞いた周囲の住人達はいたる場所で会話を繰り広げる。これらの話が本当か、そして乗るべきか否か、等今後の在り方についてを。
「当主どころか後継者ですらない一令嬢が家を代表して意見を安易に口にするべきではないな」
「はっ、浅はかなのはデニス、そなたの方だぞ! ルードヴィヒ達の前に立ちはだかった上で宣言したのだ、当然話は通したに決まっておるではないか!」
なおも疑うデニスを一刀両断するようにアーデルハイドは高らかに断言した。この頃になると周囲にいた旧市街地の住人達はその口から口へと貴族令嬢の提案を伝えていき、瞬く間に激震となって広がっていく。
「お待ちくださいベルンシュタイン嬢、旧市街地には大勢住んでいらっしゃいます。彼らを一度に貴女方の領地に招き入れるのは船が使えない以上は無理では?」
「レオンハルト様、剣士の尺度で物事を計らないでくださいまし。わたくしの転送魔法を駆使すれば一度に多くの方を目的の土地に移動させられます」
「転送魔法!? ジーク、そんな高度な魔法まで使えたのか」
「きゃー! マクシミリアン様ぁ、もっと褒めてくださいまし」
ジークリットは造作も無いようにレオンハルトの不安を一蹴するが、大半の生徒会役員達にとってはにわかには信じられなかった。彼らの尺度からすれば転移魔法など一流の魔導師として認識される宮廷魔導師ですら短距離がせいぜいだったから。
そんな中、アンネローゼは生徒会の帝都視察に合わせて改善策を練ってきた姉達に驚嘆した。既に彼女からすれば姉は既に自分の考えが及ぶ存在ではなさそうとの認識だったが、それは理解し難いと受け取っていたから。
アンネローゼはそんな姉への印象を改める。
恐ろしい人だ、と。
一方、ユリアーナは爪が食い込むほどに拳を握りしめていた。悪役令嬢が示した対策案は貧乏男爵家に生を受けた彼女では到底実現不可能。学園生徒会役員という立場でも不十分。何せ力に物を言わせて強引に引っ張り上げただけだから。
「今日わたくし共がここにいるのは旧市街地の何箇所かにそうした意思を伝えるおふれを出そうかと思っておりまして」
「それで偶然皆を見かけたから声をかけただけだ」
「無論これらはわたし達が部活の一環としてやっているだけの事。そなた達生徒会一同の邪魔立てをするつもりは無いぞ」
アーデルハイドとジークリットは遮っていた生徒会の道を譲るように道の脇に寄った。それを受けて周囲に集っていた民衆も二つに分かれて道を開けていく。二人はルードヴィヒ達に慇懃なほどの会釈をした。
「では貴方様方の貴重なお時間を奪う訳にはいきませんし、わたくし共はこれにて失礼させていただきます」
「無論、わたし達もそなた達学園生徒会がここに住む者達の為に動いてくれるのなら嬉しいぞ」
真っ先に動いたのはターニャとデニスだった。二人は一刻も早くこの場を去りたいのか、急ぎ足でアーデルハイド達の前を通り抜けて行った。他の生徒会役員も二人に続いていく。ユリアーナは相手に穴が開く程鋭くアーデルハイドを睨みつける。
「これで勝ったと思わない事ね……!」
口にはしなかったがユリアーナの目は明確に意思を伝えていた。
アーデルハイドはそれを負け惜しみと捉えて悪役令嬢らしく嘲笑で返した。
「凄えなアデル。まさかそんな事考えてたなんてな」
「家の為に何か出来ないかと探っていたら偶然思い付いただけだ。だがもっと褒めよ」
「ああ、良くやったぞアデル」
「えへへ、それ程でもないぞ」
ルードヴィヒはアーデルハイドの頭を優しくなでる。彼が浮かべた笑みはとても朗らかなものだった。ルードヴィヒは更にアーデルハイドの耳元に顔を近づける。
「今度は二人きりで帝都の街に行こうぜ。一日中とびきり楽しませてやるよ」
そして、吐息混じりの小声で甘く囁いた。
アーデルハイドはこそばゆさと鼓動の高鳴りを感じつつ笑顔をこぼす。
「言ったな。では心待ちにするとしよう」
アーデルハイドの返答に満足したルードヴィヒは歯を見せて笑い、彼女に手を振りながら立ち去っていった。
彼に付き従ったレオンハルトはヴァルプルギスと視線を交えただけだった。彼女達が語るべきは剣、それ以上に意味など無いとばかりに。
「ジーク、今の話なんだが……」
「マクシミリアン様。わたくしが旧市街地で育ったのはご存知ですよね」
「……ああ」
「わたくしはたまたまキルヒヘル家の血を引いていたから拾い上げていただきましたが、もしかしたら今日を迎えられずに死を迎えていたかもしれません。わたくしは、恵まれていると言えます」
「……そうだな」
「恵まれた者、力ある者には責務があるとも考えられます。それが皆様の仰る施しとやらなのかもしれませんね」
「だから故郷とも言うべきここの改善をしたかったのか」
「恩返し、と考えていただいても構いません」
ジークリットへと駆け寄ったマクシミリアンは彼女から別の動機を聞いて衝撃を受けた。貴族としての責任、学園生徒会役員としての役割、そうした使命とは違った彼女の純粋な願いに心打たれて。そして彼は己の婚約者の別の一面を垣間見た気がした。
マクシミリアンは自然と笑みが浮かんだ。そしてジークリットの頬にわずかに触れる。
「ルードヴィヒじゃねえが、こういうのを愛おしいって言うんだろうな」
「そのお言葉こそわたくしにとっては一番嬉しゅうございます」
マクシミリアンは踵を返してルードヴィヒ達の後を追った。
「……やったなジークリット、ヴァルプルギスよ」
「ええ、一泡吹かせてやりましたねえ」
「ヒロインの奴にはこれ以上の代案は出せないだろう。私達の勝利だな」
生徒会一同を見届けたアーデルハイド達は互いに顔を見合わせ、ひとまずの成功を喜び合う。
そんな三人の貴族令嬢の周りには先ほどまで学園生徒会の後ろに付いていた観衆達が何割か残っていた。アーデルハイドはそんな大衆を鬱陶しがらず、むしろ自分達に注目が集まるよう手を振ってみせた。途端、彼女達を讃える声が沸き上がる。
「さて、では目的も果たしたし、宣言通りこちらからの提案を知らしめるとしようか」
そうして三人は日が暮れそうになるまで旧市街地を巡回、自分達からの誘いを広めていった。
■■■
「結局、学園じゃあ一時的な施しは出来ても抜本的には解決できねえって結論になったぜ」
「であろうな。ああ、ちなみにわたし達の提案は盛況だったぞ。出発式を盛大に執り行う程にな」
「それも聞いてる。おかげで旧市街地の住人は何割かが新天地に移っていったってな」
後日、ルードヴィヒは悪役令嬢同好会の部室にお邪魔してアーデルハイドと向き合っていた。ヴァルプルギスは何もない空間で身体を動かし、ジークリットは別の椅子に腰かけて魔導書を読みふけっている。テーブルには二人だけの空間が出来上がっていた。
「予想外に帝都に愛着を持つ者がいてな。待遇が良ければ釣られるものでもないと分かってしまった」
「帝都を故郷にしてる人も多いからな。中々離れられないだろ、そういう人達ってさ」
「親のいない孤児はわたし達で割り振ってそれぞれの領土で育てるからな」
「助かった。帝都の教会で面倒見れる子供の数にも限度があるからな」
不幸にも親を失った子が懸命に生きようと過酷な労働をこなしたり罪に手を染める。そんな状況を改善しようとアーデルハイド達は多少強引に子供達を引き取った。尤も、教会とは関係無く各家が支援する養護施設で育てる方針なのだが。
「ところでルードヴィヒよ、そなた国に訴えて新たな公共事業を立ち上げたんだとな」
「ああ。少しでも改善に繋がればな、ってな」
ルードヴィヒは皇太子の命として都市の清掃を請け負う事業を立ち上げた。重労働な分金払いが良く設定されており、日々の食を始めとする生活は質素ながら困らなくなった人が多くなった。評判は上々、ルードヴィヒの名声も高まっている。
「ありがとうな。本当だったら俺や親父が率先して動かなきゃいけなかったのによ」
「わたし達だからこそ出来たのもあるな。国が動けば大事になりかねぬ」
「……ああ、そうだな」
アーデルハイドは自分の手でルードヴィヒのカップにお茶を注ぎ入れる。パトリシアから教わって身の回りの世話は自分でそつなくこなせるようになっていた。さすがに侍女たる彼女ほど洗練されてはいないが、ルードヴィヒを満足にもてなすには十分だった。
「ところでよ、解決策は三つって言ってたよな。最後の一個って何だったんだ?」
「二つ目が採用されたから不要であろう。それとも参考に聞きたいのか?」
「ああ、是非な」
「なら声を落とす故少し顔をこちらに近づけよ」
ルードヴィヒは言われるがままに身を乗り出す。アーデルハイドも身を乗り出して彼の耳へと自分の唇を近づけていく。だがそれは逆にアーデルハイドの顔もルードヴィヒに近づいていくとも言えた。アーデルハイドは気付かなかった。ルードヴィヒが軽く舌なめずりをしたと。
「きゃあぁっ!?」
そして、彼は己の婚約者の耳を軽く舐めた。
アーデルハイドは甲高い悲鳴を挙げる。ルードヴィヒはそんな婚約者の初々しい反応が可愛くてたまらず、思わず顔がにやけてしまう。
「な、なな……っ!」
「隙だらけだぜ。ご馳走様でした」
「っっ!!」
してやられたアーデルハイドは羞恥心で顔を真紅に染めた。
その後アーデルハイドが怒ってからの痴話喧嘩が始まったのは言うまでもない。
だから、三つ目の解決策が語られる事は無かった。
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