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部活④・魔王は魔剣士を雇う
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「それで、ルードヴィヒ達は今何処におるのだ?」
「んーと、まだこの区域までは足を延ばしていないようですねえ」
「なら今少しは放置で構わぬな。その調子で監視を頼むぞ」
「へいへい。つーかわたくし、貴女様の小間使いではないのですがねえ?」
ジークリットが眺めたのは顔より少し大きい手鏡だった。そこには自分の顔の他に焼き入れのように黒焦げた地図が浮かび上がっていた。二重丸と星の記号で現在位置と目標位置を割り出せる彼女が編み出した独自の探索魔法になる。
三人がいるのは少年に案内された彼の自宅。木板の玄関戸を開くとすぐに台所兼居間の土間が広がっていた。脇には区切られた寝室へと続く廊下がある。壁の所々にひびが入り、窓には当然硝子ははめ込まれておらず上側に木製の雨戸がある程度だった。
ところが招き入れられた三人の悪役令嬢は何の遠慮も無く足を踏み入れていく。
「ほう、これが庶民の営みというものか」
「正直申し上げて拍子抜けですねえ。水道設備に隠れ住むとまで考えておりました」
「……アンタ等、ここを汚いとかみすぼらしいとか思わないのか?」
少年が向けてきた疑問に三人は各々の反応を示す。アーデルハイドは素直に否定を示すよう顔を左右に振り、ジークリットは嘲笑を湛え、ヴァルプルギスは僅かに眉をひそめる。
「何故? 人が懸命に生きる在り様をどうして馬鹿に出来よう?」
「わたくしはここより劣悪な環境で育ちましたので」
「雨風は十分に凌げる。野営に比べればどうと言う事は無い」
「……俺、貴族って連中を誤解してたかもしれない」
少年は少し表情を曇らせながら前へと視線を戻す。ジークリットは自分達が変わり者だとの無粋な発言はあえて口にしなかった。
「母ちゃん、姉ちゃん。今戻ったよ」
三人は少年に付き従って家の奥へと進んでいき、布で仕切られた部屋へと通される。奥方の四角い窓から差し込む日光に照らされていたのは寝具に横たわる痩せ細った老女と、彼女の傍らに座って老女を看護するアーデルハイド達とそう年も違わない少女だった。
少女は少年の帰宅にほのかな笑顔を浮かべたが、招かれざる客人を目にして形相を変貌させた。怒りを帯びた非難の目は少年へと向けられる。
「ねえ、その人達は誰?」
「姉ちゃん、この人達は母ちゃんを助けてくれるかも……!」
「誰かって聞いているの。聞こえなかった?」
「と……通りすがりで知り合った人達――」
少女はすぐさま立ち上がり、その場で跪くとその頭を床に擦り付ける程に垂れて……ヴァルプルギスに両肩を掴まれると軽々と持ち上げられ、椅子に座らされた。少女が何かしら抗議を声を挙げかけるも、すぐさまヴァルプルギスは少女の口を押さえてしまう。
「お前はこの少年が悪事を働いて我々がお前達家族を糾弾しに来たと考えた。そして跪き赦しを請おうとした。違うか?」
「~~……っ!?」
「だが我々はこの少年を既に叱っている。改めてお前の謝罪を受けるつもりは無い。そこは分かってほしい」
ヴァルプルギスが表情一つ変えずに言葉を送ると少女は静かに頷く。それを確認してヴァルプルギスは彼女から身を離した。少女が少年を睨みつけると少年は竦み上がって視線を地面へと逸らす。少女は何も言わぬままに軽くため息を漏らし、慇懃に頭を下げた。
「弟がご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「良い。ところで今日参ったのはそなたの弟に頼まれて母親の容体を確認する為だ」
「母のですか? ですがあたし共に貴女様方へ払えるお金などありません」
「あー、そんなものは始めから期待しておらぬ。今日一日弟を使い走りにする程度で十分だ」
腕を組んだまま説明するアーデルハイドを余所にジークリットは一言許しを述べてから病床の女性へと近寄っていく。彼女の顔色を窺い、それから布団をめくって身体を確認していく。最後に彼女の頬に触れ、手首を軽く摘まむ。
途端、ジークリットの顔色が曇った。
「体力の低下で余計病気が進行しているようですねえ。決して治せなくはないのですが……」
「あたし共に医者に診せてもらうお金なんてありません。精々気休めの薬とか朝夕の食事を買うぐらいしか……」
「成程。で、如何します?」
ジークリットは女性の腕をそっと置くとアーデルハイドの方を見やった。アーデルハイドは眉を吊り上げる。
「どうしてそこでわたしに話を聞くのだ? そなたなら彼女の完全回復も容易いであろう」
「あのですねえ、そもそもアーデルハイドさんが引き受けた寄り道でしょう。まさかわたくし頼みだったと仰るつもりと?」
「莫迦にするでない。わたしにかかればその程度の病状を治すなど造作もない」
「ではお手並み拝見と行きましょう。アーデルハイドさんのちょっと良い所が見たい~」
アーデルハイドは絶対の自信を込めて頷くと病弱の女性へと歩み寄った。そして少女や少年の見守る中、彼女は手を大きく上げて力ある言葉を唱える。それは少女達やヴァルプルギスはおろか、魔女たるジークリットも耳にした事の無いものだった。
窓辺より射し込む日光がアーデルハイドの手へと集まり、やがて煌めく光の粒子となって女性へと降り注いでく。女性がかすかなうめき声を出しながら身をよじる。思わず立ち上がろうとした少女の肩へとヴァルプルギスは手を置いた。
次第に苦しそうだった女性の顔は穏やかなものへと変わっていく。やがて女性は静かな寝息を立てて眠りについた。そこでアーデルハイドは手を降ろし、額ににじみ出た汗を袖で拭い取る。大きく息を吐きつつ。
「ふう、中々上手くいったな」
「い……今のは……?」
「聖女とやらが体現させる奇蹟の再現だな。わたしは疑似神聖魔法と呼んでおる」
驚愕で目を丸くさせる少女にアーデルハイドはこれでもかと言わんばかりに自慢げに鼻息を荒くした。その間もジークリットが女性の容体を確認していき、安定したと一言述べてから身を退いた。「本当か」と詰め寄る少年に「ええ」と力強く頷いてみせる。
少女は固まったままで大粒の涙をこぼしていく。それは止めどなく彼女の膝元へと落ちて衣服を濡らしていく。そんな彼女の前にアーデルハイドはしゃがみこみ、笑顔を見せた。「もう頑張らなくともよいぞ」と声をかけると、少女は声を出して泣きだした。
「あ、りがとう、ございます……っ!」
「礼なら後でわたし達に依頼した弟にでも言うがよい」
「あたし、あたし……!」
「辛かったであろう?」
父親という働き手を失い、母親が病気で倒れた。貧民街に住む家族が受けられる援助などたかが知れている。それでもなお衣食住を最低限に維持し続けているのは一重に子供が稼ぎ手となったからに他ならない。更に熟れ時の少女が手っ取り早く稼ぐ手段ともなれば……。
と、容赦ない想像を膨らませたジークリットだったが、そんな彼女を余所にアーデルハイドは土間構造の部屋にも関わらず床に尻を付いて座った。腰にかけた革袋から取り出したハンカチで少女の顔から涙を拭き取っていく。
「そなた、名は何と申す?」
「……ゾフィー」
「ではゾフィーよ。そなたが良ければ余に仕えぬか? 賃金は弾むぞ」
「……いえ。あたしが貴女に仕えても何も出来ません」
破格な提案だとヴァルプルギスは思考を巡らせる。ベルンシュタイン公爵家の賃金は他のどの貴族が払うソレより高額だと言われている。その分志願者が後を絶たず技能と教養の面で大半が振り落とされる。如何に偶然関わったといえ貧民街の一少女に提示するものではない。
アーデルハイドの誘いを言葉を濁して断ったゾフィー。そんな彼女にさせたアーデルハイドの笑いは……何もかも見透かすように余裕と威厳に満ちていた。
「余はそなたの『腕』を高く買うぞ。凡百な貴族共に使い倒されるつもりか?」
「……何の事を言っているのかあたしには分かりません」
「とぼけずとも良い。余には臭いで分かる」
「……っ!?」
――そなたが醸し出す瘴気はとても心地が良いぞ。
そう魔王は少女の耳元で甘く囁いた。
直後、ゾフィーは飛び退いた。やや前かがみになりながら背中へと片手を回すその姿勢は、ヴァルプルギスはおろかジークリットの目からも臨戦態勢にしか見えなかった。少年は雰囲気を急変させる自分の姉に戸惑うばかりで言葉も出ない。
瘴気、それは魔の者が発するとされる人間を始めとした神の創造物に害を成す空気。何故そんな単語が飛び出したのかとジークリットは疑問を感じてゾフィーを注意深く観察するも、答えは導き出せなかった。ヴァルプルギスは関係無いと割り切って軽く身構える。
ゾフィーから殺意すら向けられるアーデルハイドは、怯むどころか満面の笑みを込めて彼女へと拍手を送った。
「ゾフィーよ。そなたの母親の病状は改善されたとは言え体力を養うには食事を満足に取らせる他あるまい。そなたが懸命に働いても叶えられるものか?」
「それ、は……」
「弟にはこれ以上悪事に手を染めてほしくなかろう。別にわたしはそなたを闇に引きずり込もうとしているのではない。むしろ逆を望んでおる」
「逆……」
「日にあたる所へ、だ。詳しくは契約時に話すとするが、どうだ?」
アーデルハイドはゾフィーへと手を差し伸べる。ゾフィーはその手を眺め、アーデルハイドを見つめ、やがて笑みをこぼしてその手を取った。
「……分かりました。こんなあたしで良ければよろしくお願いします」
「うむ! よろしく頼むぞ!」
とんとん拍子に話が進む展開を見せつけられるジークリット達はただ茫然とする他なかった。そしてふとある考えが過る。本来の目的はどこに行った、と。
「んーと、まだこの区域までは足を延ばしていないようですねえ」
「なら今少しは放置で構わぬな。その調子で監視を頼むぞ」
「へいへい。つーかわたくし、貴女様の小間使いではないのですがねえ?」
ジークリットが眺めたのは顔より少し大きい手鏡だった。そこには自分の顔の他に焼き入れのように黒焦げた地図が浮かび上がっていた。二重丸と星の記号で現在位置と目標位置を割り出せる彼女が編み出した独自の探索魔法になる。
三人がいるのは少年に案内された彼の自宅。木板の玄関戸を開くとすぐに台所兼居間の土間が広がっていた。脇には区切られた寝室へと続く廊下がある。壁の所々にひびが入り、窓には当然硝子ははめ込まれておらず上側に木製の雨戸がある程度だった。
ところが招き入れられた三人の悪役令嬢は何の遠慮も無く足を踏み入れていく。
「ほう、これが庶民の営みというものか」
「正直申し上げて拍子抜けですねえ。水道設備に隠れ住むとまで考えておりました」
「……アンタ等、ここを汚いとかみすぼらしいとか思わないのか?」
少年が向けてきた疑問に三人は各々の反応を示す。アーデルハイドは素直に否定を示すよう顔を左右に振り、ジークリットは嘲笑を湛え、ヴァルプルギスは僅かに眉をひそめる。
「何故? 人が懸命に生きる在り様をどうして馬鹿に出来よう?」
「わたくしはここより劣悪な環境で育ちましたので」
「雨風は十分に凌げる。野営に比べればどうと言う事は無い」
「……俺、貴族って連中を誤解してたかもしれない」
少年は少し表情を曇らせながら前へと視線を戻す。ジークリットは自分達が変わり者だとの無粋な発言はあえて口にしなかった。
「母ちゃん、姉ちゃん。今戻ったよ」
三人は少年に付き従って家の奥へと進んでいき、布で仕切られた部屋へと通される。奥方の四角い窓から差し込む日光に照らされていたのは寝具に横たわる痩せ細った老女と、彼女の傍らに座って老女を看護するアーデルハイド達とそう年も違わない少女だった。
少女は少年の帰宅にほのかな笑顔を浮かべたが、招かれざる客人を目にして形相を変貌させた。怒りを帯びた非難の目は少年へと向けられる。
「ねえ、その人達は誰?」
「姉ちゃん、この人達は母ちゃんを助けてくれるかも……!」
「誰かって聞いているの。聞こえなかった?」
「と……通りすがりで知り合った人達――」
少女はすぐさま立ち上がり、その場で跪くとその頭を床に擦り付ける程に垂れて……ヴァルプルギスに両肩を掴まれると軽々と持ち上げられ、椅子に座らされた。少女が何かしら抗議を声を挙げかけるも、すぐさまヴァルプルギスは少女の口を押さえてしまう。
「お前はこの少年が悪事を働いて我々がお前達家族を糾弾しに来たと考えた。そして跪き赦しを請おうとした。違うか?」
「~~……っ!?」
「だが我々はこの少年を既に叱っている。改めてお前の謝罪を受けるつもりは無い。そこは分かってほしい」
ヴァルプルギスが表情一つ変えずに言葉を送ると少女は静かに頷く。それを確認してヴァルプルギスは彼女から身を離した。少女が少年を睨みつけると少年は竦み上がって視線を地面へと逸らす。少女は何も言わぬままに軽くため息を漏らし、慇懃に頭を下げた。
「弟がご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「良い。ところで今日参ったのはそなたの弟に頼まれて母親の容体を確認する為だ」
「母のですか? ですがあたし共に貴女様方へ払えるお金などありません」
「あー、そんなものは始めから期待しておらぬ。今日一日弟を使い走りにする程度で十分だ」
腕を組んだまま説明するアーデルハイドを余所にジークリットは一言許しを述べてから病床の女性へと近寄っていく。彼女の顔色を窺い、それから布団をめくって身体を確認していく。最後に彼女の頬に触れ、手首を軽く摘まむ。
途端、ジークリットの顔色が曇った。
「体力の低下で余計病気が進行しているようですねえ。決して治せなくはないのですが……」
「あたし共に医者に診せてもらうお金なんてありません。精々気休めの薬とか朝夕の食事を買うぐらいしか……」
「成程。で、如何します?」
ジークリットは女性の腕をそっと置くとアーデルハイドの方を見やった。アーデルハイドは眉を吊り上げる。
「どうしてそこでわたしに話を聞くのだ? そなたなら彼女の完全回復も容易いであろう」
「あのですねえ、そもそもアーデルハイドさんが引き受けた寄り道でしょう。まさかわたくし頼みだったと仰るつもりと?」
「莫迦にするでない。わたしにかかればその程度の病状を治すなど造作もない」
「ではお手並み拝見と行きましょう。アーデルハイドさんのちょっと良い所が見たい~」
アーデルハイドは絶対の自信を込めて頷くと病弱の女性へと歩み寄った。そして少女や少年の見守る中、彼女は手を大きく上げて力ある言葉を唱える。それは少女達やヴァルプルギスはおろか、魔女たるジークリットも耳にした事の無いものだった。
窓辺より射し込む日光がアーデルハイドの手へと集まり、やがて煌めく光の粒子となって女性へと降り注いでく。女性がかすかなうめき声を出しながら身をよじる。思わず立ち上がろうとした少女の肩へとヴァルプルギスは手を置いた。
次第に苦しそうだった女性の顔は穏やかなものへと変わっていく。やがて女性は静かな寝息を立てて眠りについた。そこでアーデルハイドは手を降ろし、額ににじみ出た汗を袖で拭い取る。大きく息を吐きつつ。
「ふう、中々上手くいったな」
「い……今のは……?」
「聖女とやらが体現させる奇蹟の再現だな。わたしは疑似神聖魔法と呼んでおる」
驚愕で目を丸くさせる少女にアーデルハイドはこれでもかと言わんばかりに自慢げに鼻息を荒くした。その間もジークリットが女性の容体を確認していき、安定したと一言述べてから身を退いた。「本当か」と詰め寄る少年に「ええ」と力強く頷いてみせる。
少女は固まったままで大粒の涙をこぼしていく。それは止めどなく彼女の膝元へと落ちて衣服を濡らしていく。そんな彼女の前にアーデルハイドはしゃがみこみ、笑顔を見せた。「もう頑張らなくともよいぞ」と声をかけると、少女は声を出して泣きだした。
「あ、りがとう、ございます……っ!」
「礼なら後でわたし達に依頼した弟にでも言うがよい」
「あたし、あたし……!」
「辛かったであろう?」
父親という働き手を失い、母親が病気で倒れた。貧民街に住む家族が受けられる援助などたかが知れている。それでもなお衣食住を最低限に維持し続けているのは一重に子供が稼ぎ手となったからに他ならない。更に熟れ時の少女が手っ取り早く稼ぐ手段ともなれば……。
と、容赦ない想像を膨らませたジークリットだったが、そんな彼女を余所にアーデルハイドは土間構造の部屋にも関わらず床に尻を付いて座った。腰にかけた革袋から取り出したハンカチで少女の顔から涙を拭き取っていく。
「そなた、名は何と申す?」
「……ゾフィー」
「ではゾフィーよ。そなたが良ければ余に仕えぬか? 賃金は弾むぞ」
「……いえ。あたしが貴女に仕えても何も出来ません」
破格な提案だとヴァルプルギスは思考を巡らせる。ベルンシュタイン公爵家の賃金は他のどの貴族が払うソレより高額だと言われている。その分志願者が後を絶たず技能と教養の面で大半が振り落とされる。如何に偶然関わったといえ貧民街の一少女に提示するものではない。
アーデルハイドの誘いを言葉を濁して断ったゾフィー。そんな彼女にさせたアーデルハイドの笑いは……何もかも見透かすように余裕と威厳に満ちていた。
「余はそなたの『腕』を高く買うぞ。凡百な貴族共に使い倒されるつもりか?」
「……何の事を言っているのかあたしには分かりません」
「とぼけずとも良い。余には臭いで分かる」
「……っ!?」
――そなたが醸し出す瘴気はとても心地が良いぞ。
そう魔王は少女の耳元で甘く囁いた。
直後、ゾフィーは飛び退いた。やや前かがみになりながら背中へと片手を回すその姿勢は、ヴァルプルギスはおろかジークリットの目からも臨戦態勢にしか見えなかった。少年は雰囲気を急変させる自分の姉に戸惑うばかりで言葉も出ない。
瘴気、それは魔の者が発するとされる人間を始めとした神の創造物に害を成す空気。何故そんな単語が飛び出したのかとジークリットは疑問を感じてゾフィーを注意深く観察するも、答えは導き出せなかった。ヴァルプルギスは関係無いと割り切って軽く身構える。
ゾフィーから殺意すら向けられるアーデルハイドは、怯むどころか満面の笑みを込めて彼女へと拍手を送った。
「ゾフィーよ。そなたの母親の病状は改善されたとは言え体力を養うには食事を満足に取らせる他あるまい。そなたが懸命に働いても叶えられるものか?」
「それ、は……」
「弟にはこれ以上悪事に手を染めてほしくなかろう。別にわたしはそなたを闇に引きずり込もうとしているのではない。むしろ逆を望んでおる」
「逆……」
「日にあたる所へ、だ。詳しくは契約時に話すとするが、どうだ?」
アーデルハイドはゾフィーへと手を差し伸べる。ゾフィーはその手を眺め、アーデルハイドを見つめ、やがて笑みをこぼしてその手を取った。
「……分かりました。こんなあたしで良ければよろしくお願いします」
「うむ! よろしく頼むぞ!」
とんとん拍子に話が進む展開を見せつけられるジークリット達はただ茫然とする他なかった。そしてふとある考えが過る。本来の目的はどこに行った、と。
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