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入学⑦・魔王は皇太子に抱きかかえられる
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「……転生の法、実在していたのか」
「おや、わたくし独自の秘儀をご存じとは。アーデルハイドさんも中々に博識ですねえ」
生命の魂は世界で循環する輪廻転生という考えがある。死の後に生前の罪はそれ相応の罰と共に浄められ、新たなる器に宿されていくというもの。終末論を根底とする神聖帝国国教の教えとは相いれないが、一部の者達や魔の者には信じられている。
本来新たなる生命として誕生した際は前世の記憶も罪も全て浄化されている。故に前世と今世はあくまで全く別の存在と解釈されるのだが、一部例外がある。それが前世の記憶と経験をほんのわずかでも引き継ぐ現象。そうなった者を魔王達は転生者と呼んでいる。
転生の法とはそんな引き継ぎを意図的に起こす魔法。神の教えに背くとの理由で神聖帝国を始めとする人類諸国では悉く禁術とされている。魔王もそんな技法があるとまでは耳にしたが、実例を目の当たりにしたのは初めてだった。
「とすればそなたは本来、前回までを思い出すのはもっと後だったわけだな?」
「ええ、ご推察の通りです。本来わたくしの出番は貴女様と同じく半年ほど後になるのですが、ふとしたきっかけで予定より早く記憶が蘇ってしまった次第です」
「きっかけ?」
「アーデルハイドさんの言葉をお借りするなら、予言の書を読んでしまったせいですかねえ」
やはりか、とアーデルハイドは頷いた。本来の運命の流れを大きく変えるとしたら先を知る他無いのだから。ただ魔王が手にしたものとは内容が異なるようなので、アーデルハイドは率直にその疑問をジークリットにぶつけてみた。
「それはわたくしの書物の背表紙に記されていた題目、第二章とやらと関係があるかと」
「……言われてみれば余の書物には第一章と記されておったな。他の恋愛小説のように複数の展開があるというわけか」
納得がいったアーデルハイドは低く呻り声をあげた。もし攻略対象者ごとに相応の障害が用意されているとしたら、魔王と魔女以外にも悪役令嬢が登場するかもしれない。見当も付かないのは入学初日には姿を見せず、後に出番となるからか。
「二章があるなら三章以降もあるかと先ほど皆々様のお顔を拝見させていただきましたが、残念ながら驚きを露わにさせていたのはヒロインさんと貴女様だけでしたよ」
「だからと予言の書を手にした者が余とそなただけと断じるのは早計だな。巧妙に自分を隠しておる者もおるかもしれぬ」
「その点は同意いたしますが、まあ捨て置いて問題ないでしょう。わたくしが関わる話に記されない程度の存在なんでしょうし」
「むう、それもそうだが……余は同じ悪役令嬢として親しくしたいと思っておるのだがなぁ」
そんなの知らない、とばかりにため息を漏らしたジークリットにアーデルハイドは軽く衝撃を受ける。そんな感情を表に出すアーデルハイドを面白く感じたのか、ジークリットはくすくすと笑い声を挙げた。アーデルハイドは「笑うでないっ」と言いつつ頬を膨らませる。
「ともあれ、ヒロインさんに好き勝手させないという点においてはわたくし達は同志となりますね」
「うむ。ヒロインめが何者を望むのか知らぬが、あ奴の好きにはさせておけぬ」
「今代の魔王がどのような者なのか少し興味がありましたが、愛嬌のある方でようございました。お陰様でこのように気さくにお話しできますし」
「それは余の台詞でもあるぞ。陰謀を巡らせる胡散臭い輩とも警戒していたからな」
「まあ心外な! わたくしほど誠実な淑女はいないと言うのに」
「ええい、どの口が言うか!」
アーデルハイドはジークリットに手を差し伸べた。ジークリットは傷一つ無い白く繊細な彼女の手をまじまじと見つめ、首を傾げる。アーデルハイドが段々と不機嫌そうに顔をしかめ始めてようやく彼女の意図を察し、軽く噴き出した。
「ああ、握手ですか。成程、役柄や立場は抜きにしてわたくし共には上下関係は無し、と言った所ですね」
「うむ。勿論意見の食い違いもあろうが、目指す先は同じ方向だ。であれば肩を並べて歩んでも良いだろう。どうだ?」
「……ようございます。魔王との一蓮托生が一度ぐらいあっても悪くはありませんね」
「うむ! 余もまだ若輩者だ。古の魔女の知恵、期待しておるぞ」
魔王と魔女、両者は朗らかに笑みをこぼしてから固く握手を交わした。
共に予言を覆し己が幸せを掴む為に。
■■■
「アンネローゼよ、すまぬな。少々話が長引いてしまって……」
「アンネローゼなら先に帰らせたぜ。ここにいるのは俺だけだ」
ジークリットと別れたアーデルハイドは教室に戻ったが、中にいたのは思わぬ人物のみだった。先程まで賑やかにしていた子息が令嬢達の姿は無く、ただ彼一人が教壇に寄りかかって腕を組んでいた。正面を見据えていた彼はアーデルハイドの来訪を受けて顔を彼女へと向ける。
「皇太子殿下……」
己の婚約者、皇太子ルードヴィヒが。
鍛えあがられた身体は引き締まっており肩幅も広い。背丈もアーデルハイドの頭二つほどは高い。顔立ちはその場にいるだけでも絵になる程に端正。言葉づかいこそやや乱暴なものの、その物腰は落ち着き払っている。何より、彼は貧乏男爵娘でしかないヒロインを気にかける程紳士的だ。
そんな非の打ちどころもない男性を前にして、アーデルハイドは顔をしかめた。その反応にルードヴィヒは気分を損ねたのか一瞬だけやや憮然とした。すぐさま不機嫌さを振り払うと彼は教壇から離れるとゆっくりとアーデルハイドへと歩み寄っていく。
「なあアデル。見舞いに行けなかったのは本当にすまねえって思う。それに手紙に返事も書けなかった俺を嫌うのも無理はねえ」
「分かっているのでしたら今更わたしに何のご用でしょう? これまで散々苦しむわたしの方を見向きもしなかったのですから、これからもそうしては?」
「今からでも挽回は出来ないのか? 俺達は婚約関係を結んでいるだろう。役目を淡々とこなすだけよりお互いに打ち解けた方がさ」
「その役目すら果たせないと見込んだからわたしをこれまで見捨てていたのではないんですか?」
アーデルハイドの口からこぼれるのはこれまでの不満だった。いかに公爵令嬢であり婚約者に向けてだろうと皇太子への不敬には違いない。後々に自分の首を絞めると分かっていても、病床で溜め溜めこんだ感情は止められなかった。
ルードヴィヒが歩み寄る度にアーデルハイドは自然と後ろに下がる。それでも互いの距離は近づく一方で、終いにはアーデルハイドの背中が廊下の壁にぶつかってしまった。横に逃げようとして退路方向にルードヴィヒの腕が伸びた。壁に手を突く大きな音がアーデルハイドの耳を劈いた。
「別にわたしに執着しなくてもいいんです。殿下が望むなら――」
「ルードヴィヒ。俺を名前で呼んでくれ」
「……。ルードヴィヒ様が――」
「敬称も要らねえ。呼び捨てろ」
「注文が多いですよ。そうするだけの事を貴方様はしてくれたんです? 貴族令嬢がどなたでも貴方様の伴侶になりたいと思っているとは限りませんよ」
「じゃあどうしたら埋め合わせ出来るんだ? 頼む、教えてくれ」
ルードヴィヒがアーデルハイドを見下ろす顔が僅かに近づく。その眼差しはアーデルハイドに何かしら懇願するように揺れていて、その面持ちもどこか苦しそうだった。ここまで異性が近寄ってきた経験が無かったアーデルハイドの鼓動は自然と高鳴った。
ただ、おかしい、とアーデルハイドは困惑していた。
予言の書ではここまでアーデルハイドの気を惹こうとはしてこなかった。貴族社会の常識を唱えたアンネローゼを退けられたから。半年の間にヒロインへの真実の愛に目覚めたから。様々な理由があるが、姿を見せたアーデルハイドに対する態度は他の貴族令嬢へとそん色なかった。
なのにたった半年だけ早めに現れただけでどうしてこうも変わっているのか。理解が及ばないアーデルハイドの心理を余所にルードヴィヒはなおも自分を見上げる彼女へと身を寄せていく。もはや二人の間に距離はほとんどなく、後少しで互いが触れてしまう程に密接していた。
「強引ですね。ちょっとわたしがそっぽ向いたのがそんなに気に入りませんか?」
「ああ気に入らねえ。アデルは俺だけ見つめてりゃあいい」
「何ですかその独占欲は……!?」
アーデルハイドは皇太子に一体何が起こっているのか更に混乱する。その間にも視線だけ見上げていた彼女の顎に手を持って行き、引き上げて正面から自分の方を見据えさせた。もはやアーデルハイドには予言の書と全然違うと考える余裕すら無かった。
「惚れ直した」
「は?」
「だから、今朝の一件で惚れ直した」
一体何を言っているんだ、この男は?
アーデルハイドの気を置き去りにしたままルードヴィヒは続ける。
「あんなにも堂々として自分に自信を持っててさ、皇太子って立場の俺にだって一切怖気づかなかっただろ? 強いんだなって」
「なんて勝手な――!」
文句を言おうとして突然アーデルハイドの身体が宙に浮いた。ルードヴィヒが脚と腰に手を回して自分を抱き上げたと気付いた時には彼女の身体は彼の腕の中に収まっていた。言葉も発せないほど頭の中がぐちゃぐちゃとなったアーデルハイドにルードヴィヒが笑いかける。
「でもこんなに儚い。羽根みたいに軽い身体でさ。矛盾してるよな」
「な、何をして……!」
「もうアデルを置き去りにはしねえ。全部抱え込ませてくれ」
「あまりに急過ぎませんか!?」
アーデルハイドの批難を余所にルードヴィヒが歩み出す。まだかろうじて日常生活を送れる程度にしか体力が回復していないか弱き令嬢には屈強な殿方の腕から逃れる術もなく、抱きかかえられたままで学園を後にした。
「おや、わたくし独自の秘儀をご存じとは。アーデルハイドさんも中々に博識ですねえ」
生命の魂は世界で循環する輪廻転生という考えがある。死の後に生前の罪はそれ相応の罰と共に浄められ、新たなる器に宿されていくというもの。終末論を根底とする神聖帝国国教の教えとは相いれないが、一部の者達や魔の者には信じられている。
本来新たなる生命として誕生した際は前世の記憶も罪も全て浄化されている。故に前世と今世はあくまで全く別の存在と解釈されるのだが、一部例外がある。それが前世の記憶と経験をほんのわずかでも引き継ぐ現象。そうなった者を魔王達は転生者と呼んでいる。
転生の法とはそんな引き継ぎを意図的に起こす魔法。神の教えに背くとの理由で神聖帝国を始めとする人類諸国では悉く禁術とされている。魔王もそんな技法があるとまでは耳にしたが、実例を目の当たりにしたのは初めてだった。
「とすればそなたは本来、前回までを思い出すのはもっと後だったわけだな?」
「ええ、ご推察の通りです。本来わたくしの出番は貴女様と同じく半年ほど後になるのですが、ふとしたきっかけで予定より早く記憶が蘇ってしまった次第です」
「きっかけ?」
「アーデルハイドさんの言葉をお借りするなら、予言の書を読んでしまったせいですかねえ」
やはりか、とアーデルハイドは頷いた。本来の運命の流れを大きく変えるとしたら先を知る他無いのだから。ただ魔王が手にしたものとは内容が異なるようなので、アーデルハイドは率直にその疑問をジークリットにぶつけてみた。
「それはわたくしの書物の背表紙に記されていた題目、第二章とやらと関係があるかと」
「……言われてみれば余の書物には第一章と記されておったな。他の恋愛小説のように複数の展開があるというわけか」
納得がいったアーデルハイドは低く呻り声をあげた。もし攻略対象者ごとに相応の障害が用意されているとしたら、魔王と魔女以外にも悪役令嬢が登場するかもしれない。見当も付かないのは入学初日には姿を見せず、後に出番となるからか。
「二章があるなら三章以降もあるかと先ほど皆々様のお顔を拝見させていただきましたが、残念ながら驚きを露わにさせていたのはヒロインさんと貴女様だけでしたよ」
「だからと予言の書を手にした者が余とそなただけと断じるのは早計だな。巧妙に自分を隠しておる者もおるかもしれぬ」
「その点は同意いたしますが、まあ捨て置いて問題ないでしょう。わたくしが関わる話に記されない程度の存在なんでしょうし」
「むう、それもそうだが……余は同じ悪役令嬢として親しくしたいと思っておるのだがなぁ」
そんなの知らない、とばかりにため息を漏らしたジークリットにアーデルハイドは軽く衝撃を受ける。そんな感情を表に出すアーデルハイドを面白く感じたのか、ジークリットはくすくすと笑い声を挙げた。アーデルハイドは「笑うでないっ」と言いつつ頬を膨らませる。
「ともあれ、ヒロインさんに好き勝手させないという点においてはわたくし達は同志となりますね」
「うむ。ヒロインめが何者を望むのか知らぬが、あ奴の好きにはさせておけぬ」
「今代の魔王がどのような者なのか少し興味がありましたが、愛嬌のある方でようございました。お陰様でこのように気さくにお話しできますし」
「それは余の台詞でもあるぞ。陰謀を巡らせる胡散臭い輩とも警戒していたからな」
「まあ心外な! わたくしほど誠実な淑女はいないと言うのに」
「ええい、どの口が言うか!」
アーデルハイドはジークリットに手を差し伸べた。ジークリットは傷一つ無い白く繊細な彼女の手をまじまじと見つめ、首を傾げる。アーデルハイドが段々と不機嫌そうに顔をしかめ始めてようやく彼女の意図を察し、軽く噴き出した。
「ああ、握手ですか。成程、役柄や立場は抜きにしてわたくし共には上下関係は無し、と言った所ですね」
「うむ。勿論意見の食い違いもあろうが、目指す先は同じ方向だ。であれば肩を並べて歩んでも良いだろう。どうだ?」
「……ようございます。魔王との一蓮托生が一度ぐらいあっても悪くはありませんね」
「うむ! 余もまだ若輩者だ。古の魔女の知恵、期待しておるぞ」
魔王と魔女、両者は朗らかに笑みをこぼしてから固く握手を交わした。
共に予言を覆し己が幸せを掴む為に。
■■■
「アンネローゼよ、すまぬな。少々話が長引いてしまって……」
「アンネローゼなら先に帰らせたぜ。ここにいるのは俺だけだ」
ジークリットと別れたアーデルハイドは教室に戻ったが、中にいたのは思わぬ人物のみだった。先程まで賑やかにしていた子息が令嬢達の姿は無く、ただ彼一人が教壇に寄りかかって腕を組んでいた。正面を見据えていた彼はアーデルハイドの来訪を受けて顔を彼女へと向ける。
「皇太子殿下……」
己の婚約者、皇太子ルードヴィヒが。
鍛えあがられた身体は引き締まっており肩幅も広い。背丈もアーデルハイドの頭二つほどは高い。顔立ちはその場にいるだけでも絵になる程に端正。言葉づかいこそやや乱暴なものの、その物腰は落ち着き払っている。何より、彼は貧乏男爵娘でしかないヒロインを気にかける程紳士的だ。
そんな非の打ちどころもない男性を前にして、アーデルハイドは顔をしかめた。その反応にルードヴィヒは気分を損ねたのか一瞬だけやや憮然とした。すぐさま不機嫌さを振り払うと彼は教壇から離れるとゆっくりとアーデルハイドへと歩み寄っていく。
「なあアデル。見舞いに行けなかったのは本当にすまねえって思う。それに手紙に返事も書けなかった俺を嫌うのも無理はねえ」
「分かっているのでしたら今更わたしに何のご用でしょう? これまで散々苦しむわたしの方を見向きもしなかったのですから、これからもそうしては?」
「今からでも挽回は出来ないのか? 俺達は婚約関係を結んでいるだろう。役目を淡々とこなすだけよりお互いに打ち解けた方がさ」
「その役目すら果たせないと見込んだからわたしをこれまで見捨てていたのではないんですか?」
アーデルハイドの口からこぼれるのはこれまでの不満だった。いかに公爵令嬢であり婚約者に向けてだろうと皇太子への不敬には違いない。後々に自分の首を絞めると分かっていても、病床で溜め溜めこんだ感情は止められなかった。
ルードヴィヒが歩み寄る度にアーデルハイドは自然と後ろに下がる。それでも互いの距離は近づく一方で、終いにはアーデルハイドの背中が廊下の壁にぶつかってしまった。横に逃げようとして退路方向にルードヴィヒの腕が伸びた。壁に手を突く大きな音がアーデルハイドの耳を劈いた。
「別にわたしに執着しなくてもいいんです。殿下が望むなら――」
「ルードヴィヒ。俺を名前で呼んでくれ」
「……。ルードヴィヒ様が――」
「敬称も要らねえ。呼び捨てろ」
「注文が多いですよ。そうするだけの事を貴方様はしてくれたんです? 貴族令嬢がどなたでも貴方様の伴侶になりたいと思っているとは限りませんよ」
「じゃあどうしたら埋め合わせ出来るんだ? 頼む、教えてくれ」
ルードヴィヒがアーデルハイドを見下ろす顔が僅かに近づく。その眼差しはアーデルハイドに何かしら懇願するように揺れていて、その面持ちもどこか苦しそうだった。ここまで異性が近寄ってきた経験が無かったアーデルハイドの鼓動は自然と高鳴った。
ただ、おかしい、とアーデルハイドは困惑していた。
予言の書ではここまでアーデルハイドの気を惹こうとはしてこなかった。貴族社会の常識を唱えたアンネローゼを退けられたから。半年の間にヒロインへの真実の愛に目覚めたから。様々な理由があるが、姿を見せたアーデルハイドに対する態度は他の貴族令嬢へとそん色なかった。
なのにたった半年だけ早めに現れただけでどうしてこうも変わっているのか。理解が及ばないアーデルハイドの心理を余所にルードヴィヒはなおも自分を見上げる彼女へと身を寄せていく。もはや二人の間に距離はほとんどなく、後少しで互いが触れてしまう程に密接していた。
「強引ですね。ちょっとわたしがそっぽ向いたのがそんなに気に入りませんか?」
「ああ気に入らねえ。アデルは俺だけ見つめてりゃあいい」
「何ですかその独占欲は……!?」
アーデルハイドは皇太子に一体何が起こっているのか更に混乱する。その間にも視線だけ見上げていた彼女の顎に手を持って行き、引き上げて正面から自分の方を見据えさせた。もはやアーデルハイドには予言の書と全然違うと考える余裕すら無かった。
「惚れ直した」
「は?」
「だから、今朝の一件で惚れ直した」
一体何を言っているんだ、この男は?
アーデルハイドの気を置き去りにしたままルードヴィヒは続ける。
「あんなにも堂々として自分に自信を持っててさ、皇太子って立場の俺にだって一切怖気づかなかっただろ? 強いんだなって」
「なんて勝手な――!」
文句を言おうとして突然アーデルハイドの身体が宙に浮いた。ルードヴィヒが脚と腰に手を回して自分を抱き上げたと気付いた時には彼女の身体は彼の腕の中に収まっていた。言葉も発せないほど頭の中がぐちゃぐちゃとなったアーデルハイドにルードヴィヒが笑いかける。
「でもこんなに儚い。羽根みたいに軽い身体でさ。矛盾してるよな」
「な、何をして……!」
「もうアデルを置き去りにはしねえ。全部抱え込ませてくれ」
「あまりに急過ぎませんか!?」
アーデルハイドの批難を余所にルードヴィヒが歩み出す。まだかろうじて日常生活を送れる程度にしか体力が回復していないか弱き令嬢には屈強な殿方の腕から逃れる術もなく、抱きかかえられたままで学園を後にした。
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