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雪だるまの単冠式を見せつけられる元悪役令嬢

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 やがて出来上がった雪だるまはジョアン様の背丈に並ぶほどの大きさとなった。私が独力で作り上げた作品はせいぜい私の頭一つ分ほど小さいので、歴然とした差がある。しかも当てつけのように並べられたからその差が際立っている。

「王には冠を被せないとなあ。雪を固めるてかたどるか?」
「小枝を編み込んで月桂冠に見立てたらどうですか?」
「それはいいが編み込めるだけ柔らかく細い枝なんてあるのか?」
「ならこんな感じに組み立てて……どうですか?」

 私は倒木から枝を何本か折って上手く組み立てて即席の王冠を作り上げた。背伸びしながらジョアン様が王と見立てた大雪だるまに被せる。我ながら上手くいったと喜んでいたら、ジョアン様も見様見真似で冠を作り上げた。私の作品より立派だ。

「では王太子より王妃となる者にバケツより相応しい冠を授けようぞ」

 ジョアン様は私の雪だるまからバケツを脱がせ、彼の作品である冠を丁寧に被せた。それはさながら戴冠式のようにも見えてしまう。
 茫然と眺めるしかなかった私をいつの間にかジョアン様は優しい目で見つめていた。

「……いけません、ジョアン様」
「何がだ?」
「貴方様には相応しい婚約者がいらっしゃいます。レオノール様を蔑ろにして私を重宝してしまえばあらぬ誤解を招きます」
「誤解したいならさせておけばいい。レオノールには俺なんかよりまともな伴侶が見つかるだろうさ」

 ……何故、どうして、よりよってこの私なんだ!
 イサベルだからか!? 魅了の邪視を持っているからか!?

 ジョアン様を誘惑したイサベルが憎くてたまらなかったのに、いざイサベルになったら彼女と同じ真似をしてしまっているではないか! 私が、婚約者たるレオノールからジョアン様を奪い、禁断の恋路へ向けて歩ませている……!

 駄目だ。このままではいけない。
 いくら暮らしが楽になるからと厚意に甘えてはいけなかった。

 私は、決してジョアン様の傍にいるべきではなかった――。

「用事を思い出したのでこれで失礼します」
「待てカレン。話は終わってないぞ」
「離して……!」

 もうかつての思い人の顔すらまともに見られなくなった私は踵を返してこの場を後にしようとするが、寸前に腕を掴まれてしまった。思わず振りほどこうとしてもジョアン様の力は強くてびくともしなかった。

 途端、堪えていた色々な思いが爆発してしまった。

「どうしてこうもわたしに構うのよ! おかしいでしょう、王太子ともあろう方がこんな小娘の心を弄ぶなんて……!」
「何もおかしくない。言っただろう、俺は俺の好きなように動く、とな」
「じゃあもっと自分自身を弁えてよ! これ以上、わたしやレオノールを苦しめないで……!」

 泣き叫ぶ私はとてもみっともなかった。けれどせずにはいられない。正論を並べて罵っても効かないのならこうして思いのたけをぶつけるしかないのだから。

 彼は黙って私の感情を受け止め、私が発言を止めて息を荒げたところで流れ落ちる涙を拭った。

「こうやって貴重な時間をカレンと過ごすことには意味がある」
「だから、どうして……!」
「確かなことは俺にも分からん。だがな、初めてカレンと出会った時に運命的なものを感じたんだ。それがカレンが危惧する魅了の邪視による影響かは知らんが、ソレをきっかけにお前が気になりだしたのは事実だ」
「だったら、やっぱりわたしはジョアン様から離れた方が……」
「そしてカレンと過ごすうちに一つ確信したことがある。それが今カレンとの逢瀬を重ねている理由だ」
「確信、ですか……?」

 何が何だか分からない。一体私の何かが彼を突き動かすのだろうか?
 
「とにかく、カレンはこのまま普段通りに過ごしてればいい。レオノールがどう考えていようがイサベルがどう振る舞おうが、カレンはカレンのままでいてくれ。いいな?」
「無理、です。だってわたしはわたしでいるだけで胸が張り裂けそうで……!」
「そこも状況が落ち着いたら話し合……ああもう、いいから俺に黙って従え!」
「……っ」

 その命令は無理に私に言うことを聞かせるためではなく、自分を信じろと訴えかけているようだった。表情の眼差しもまるで私のことばかり考えているかのように真剣で、私の心はまた簡単に揺り動かされてしまった。

 もう一度だけ、もう一度だけならジョアン様を信じてもいいかもしれない。
 愚かにも私はそう思い始めていたのだった。

「は、い……」

 だから、了承の返事は決して絶望からとか追い詰められたからではなく、彼を受け入れてしまったせいだ。
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