上 下
39 / 70

雪だるまを作る元悪役令嬢

しおりを挟む
 雪だるまを作ろう。
 私は唐突にそう思い至った。

 あまりに雪が積もるものだから屋外のクラブ活動は休止になっている。頻繁には雪が降らないために雪を滑るような山間部の競技を主体とする会もない。よって放課後の広場は誰もおらず寂しい限りだった。

 私は雪を少しずつ転がし始めた。初めは簡単に大きくなっていった雪玉も段々と重くなり始め、押しても明後日の方向へと転がってしまう。蛇のように曲がりくねりながらもなんとかそれなりの大きさになって一旦休憩、汗をぬぐう。

 どれもこれも今朝レオノールに話した自分の想いのせいだ。
 どうしようもないこの感情を雪だるま製作にぶつけているのだ。
 日常化していない作業に専念すれば気がまぎれると思って。

 胴体側が出来たので今度は頭部側を作るべく再び雪玉を転がし始めた。こちらは胴体よりもやや小さく留める。頭でっかちになってしまってはたまらないから。そしていよいよ頭部を胴体の上に乗せて……。

「お、重……!」

 乗せられなかった。久しぶりに作ったものだから加減が出来ずに大きくなりすぎたからだ。

(そう言えば子供の頃は近所の友達と一緒に協力して作ったんだったわね)

 当然子供の頃というのはイサベルとして過ごした幼少期を指す。レオノールだった頃は雪が降ってもその風情を楽しんだだけで雪遊びに興じるなんて許されなかったし、そうしたいとも思わなかったから。

「ぐ、こ、のぉ……!」
「ほう、何をやっているんだと見ていたが、面白そうだな」

 歯を食いしばって何とか抱え込もうと四苦八苦していたら突然軽くなった。なんといつの間にか向かい側にジョアン様がいるではないか。彼は私が驚く暇も無いまま雪で作られた頭部を胴体部の上に乗せる。

「で、これは一体何だ?」
「雪だるまです。知りませんか?」
「成程。これがそうか。幼少の頃読んでもらった絵本でしか見たことなかったな」
「これは二段積みですけど脚部を追加した三段積みする国もあるそうですよ」

 まあ、これは先生の受け売りだけれど。
 とは言え雪玉を二つ乗せて完成ではない。転がされた雪玉は雪のみならず下に埋もれていた土や砂利なども混ざっていてとても汚らしいのだ。これに新雪を塗り固めて白く綺麗に舗装する作業がある。

 私は感心しながら雪だるまを眺めるジョアン様を余所に作業に取り掛かった。まず綺麗な球体になるよう出張りをそぎ落とし、それから新雪をまびしていった。満足したところで石を埋め込み木の枝を指し、最後にバケツと手袋を被せて完成だ。

「どうですか? なかなかの出来栄えでしょう」
「おー。凄いな」

 ジョアン様は素直に関心の声をあげた。私は喜びより誇らしさを感じる。

「で、どうしてこれを作る気になったんだ?」
「作りたくなったから作ったんです。コレを作ったから何なんだと問われたら意味なんて無いと答えるしかありません」
「庶民の遊びだからか。それを学園の敷地内で作るとはな」
「使用人寮の周りで作るわけにもいきませんし、学園内ならこうして隅で作れば邪魔になりませんからね」

 所詮は自己満足だ。私は欲求を満たせたので雪だるまに装備させたバケツと手袋を回収……しようとして伸ばした手を何故かジョアン様に掴まれた。何するんだと非難の目を向けたのだが、彼は雪だるまに視線を向けたままだった。

「もっと大きく作れなかったのか?」
「……無理ですよ。さっきも見ましたよね? 筋力が足りませんから」
「なら二人がかりなら問題無いな。やるぞ」
「はい?」

 ジョアン様は掴んだ私の手を引っ張って早速雪玉を転がし始めた。初めは一人でやっていたものを途中から私も加勢した。一生懸命に作業するジョアン様は歯を見せながら笑っていた。楽しい、のだろうか?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42,672pt お気に入り:2,935

わたしはただの道具だったということですね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:11,063pt お気に入り:4,136

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:2,980

二度と会えないと思っていた、不思議な初恋の人と再会しました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:288

完璧王子と記憶喪失の伯爵令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,293pt お気に入り:33

処理中です...