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母から真相を聞く元悪役令嬢
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「わたしは昔、男爵様の家で働いていたの。旦那様と奥方様の仲はそれなりに良かったのだけれど、旦那様は身体が弱かった奥方様では満足出来なかったみたい。しょっちゅう他の女性に手を出していたわ」
「……もしかして、使用人だったお母さんもその一人だったの?」
「雇われの身だったわたしは旦那様から迫られても断れなかったの。嫌だったけれどお金のためなら我慢するしかなかった」
貴族が使用人や平民を欲望のはけ口にする例は枚挙にいとまがない。彼らは貴族に与えられた特権だと悪びれる様子もないのだ。レオノールだってイサベル等を下賤な存在だと蔑んでいたから、私に怒る資格は無いのだが。
「そんな過ちを重ねて罰が当たったのね。私はイサベルとカレンを身ごもってしまった」
「でもわたし達、生まれた時からずっとここに住んでるよ」
「奥方様の怒りを買ってしまい、解雇されてしまったの。カレン達が男爵家とは無関係だって念書も書かされたわ」
お母さんは被害者だったのに悪者に仕立てられたそうだ。次の職場に持ち込む紹介状も持たされなかったんだとか。せめてもの温情だと手切れ金を渡されたおかげで今の住居に定住出来ているらしい。
身勝手で酷いとは思ったが、追放されただけまだマシだろう。中には誇り高き貴族の血を受け継いだ者が平民として過ごすのを嫌い、赤子が生まれる前におろさせる者もいると聞く。中には口封じで命を落とした者も……。追放で済んだのは不幸中の幸いか。
「じゃあどうして今になってカレン……じゃなかった、イサベルだけ迎えに来たの?」
「それがね、奥方様はとうとうお子さんに恵まれなかったそうなの。だからやむなく旦那様の不義の子を迎え入れることにしたらしくて……」
「イサベルだけ? わたしは行かなくてよかったの? お母さんは?」
「旦那様は自分の血を引く子を一人だけを望まれていたようだったから……」
まあ今ぐらいまで育っていたら一人だけ引き取っても流行り病にかからない限り命を落とす度合いは低いだろう。私達二人とも迎え入れて政略結婚の駒にしてもよさそうだが、一人だけに再教育を施す方がやりやすいとでも判断したのだろうか?
そもそも男爵は私達が女、それも双子の姉妹だったとつい最近まで知らなかったらしい。どうせお母さんや生まれてくる赤子のことなんて必要になるまで頭の中から消え去っていたのだろう。自分勝手で実に貴族らしい。
「もしかして、イサベルはわたしの身代わりになったんじゃあ……?」
「……。ううん。成り上がれる絶好の機会だって思ったみたい。だから自分のせいでイサベルが出て行ったって思わないで」
「そうなんだ……。でもイサベルは要領がいいからきっと上手くやれるよ」
心配したのは本当だ。もしカレンが貴族になりたくなかったのに私のことを思って名乗り出たなら私が代わるべきだろう。私にはレオノールとしての知識と経験があるから充分やっていけるから。
「カレンは貴族になりたかった?」
「ううん、全然。むしろ行かなくて済んでイサベルにありがとうって言いたいぐらい」
だからってあの世界に戻りたいとはもう思わない。公爵令嬢レオノールだったからあれほど謳歌出来たにすぎず、男爵令嬢イサベルでは大胆に踏み越えない限り肩身が狭い思いをし続けるのが目に見えている。
カレンがそこまで大胆に決断したこと自体はそこまで驚くべきことじゃない。上流階級との繋がりが得られる職種を選んでいた辺り、結構前から機会が巡るのを待っていたのかもしれない。もしくは、自分がつかみ取るきっかけを探していたとか。
「子はいつかは親元を巣立つものだけれど……こんなに早いとは思わなかったわ」
お母さんは窓から外を眺める。悲しみと寂しさのあまりに涙が頬を伝った。
「イサベルはもう戻ってこれないの?」
「……ええ。貴族の娘になったらただの一般庶民じゃあおいそれと近寄れないもの」
お母さんが指し示したのは机の上に置かれた書面だった。今後カレンに関わることを禁ずる旨の誓約書のようだ。貧民が傍にいるだけでカレンの価値が落ちる、とでも思っているのだろう。良くある話だ。
「でもわたしはずっとお母さんの傍にいるから」
「そう言わないの。素敵な旦那様が見つかったらカレンだって家を離れなきゃ駄目よ」
この日、私は男爵令嬢となるのをまぬがれ、代わりにカレンが男爵令嬢となった。
そして……この時を境に私はイサベルでなくなった。
カレンがイサベルに成り代わったから。
「……もしかして、使用人だったお母さんもその一人だったの?」
「雇われの身だったわたしは旦那様から迫られても断れなかったの。嫌だったけれどお金のためなら我慢するしかなかった」
貴族が使用人や平民を欲望のはけ口にする例は枚挙にいとまがない。彼らは貴族に与えられた特権だと悪びれる様子もないのだ。レオノールだってイサベル等を下賤な存在だと蔑んでいたから、私に怒る資格は無いのだが。
「そんな過ちを重ねて罰が当たったのね。私はイサベルとカレンを身ごもってしまった」
「でもわたし達、生まれた時からずっとここに住んでるよ」
「奥方様の怒りを買ってしまい、解雇されてしまったの。カレン達が男爵家とは無関係だって念書も書かされたわ」
お母さんは被害者だったのに悪者に仕立てられたそうだ。次の職場に持ち込む紹介状も持たされなかったんだとか。せめてもの温情だと手切れ金を渡されたおかげで今の住居に定住出来ているらしい。
身勝手で酷いとは思ったが、追放されただけまだマシだろう。中には誇り高き貴族の血を受け継いだ者が平民として過ごすのを嫌い、赤子が生まれる前におろさせる者もいると聞く。中には口封じで命を落とした者も……。追放で済んだのは不幸中の幸いか。
「じゃあどうして今になってカレン……じゃなかった、イサベルだけ迎えに来たの?」
「それがね、奥方様はとうとうお子さんに恵まれなかったそうなの。だからやむなく旦那様の不義の子を迎え入れることにしたらしくて……」
「イサベルだけ? わたしは行かなくてよかったの? お母さんは?」
「旦那様は自分の血を引く子を一人だけを望まれていたようだったから……」
まあ今ぐらいまで育っていたら一人だけ引き取っても流行り病にかからない限り命を落とす度合いは低いだろう。私達二人とも迎え入れて政略結婚の駒にしてもよさそうだが、一人だけに再教育を施す方がやりやすいとでも判断したのだろうか?
そもそも男爵は私達が女、それも双子の姉妹だったとつい最近まで知らなかったらしい。どうせお母さんや生まれてくる赤子のことなんて必要になるまで頭の中から消え去っていたのだろう。自分勝手で実に貴族らしい。
「もしかして、イサベルはわたしの身代わりになったんじゃあ……?」
「……。ううん。成り上がれる絶好の機会だって思ったみたい。だから自分のせいでイサベルが出て行ったって思わないで」
「そうなんだ……。でもイサベルは要領がいいからきっと上手くやれるよ」
心配したのは本当だ。もしカレンが貴族になりたくなかったのに私のことを思って名乗り出たなら私が代わるべきだろう。私にはレオノールとしての知識と経験があるから充分やっていけるから。
「カレンは貴族になりたかった?」
「ううん、全然。むしろ行かなくて済んでイサベルにありがとうって言いたいぐらい」
だからってあの世界に戻りたいとはもう思わない。公爵令嬢レオノールだったからあれほど謳歌出来たにすぎず、男爵令嬢イサベルでは大胆に踏み越えない限り肩身が狭い思いをし続けるのが目に見えている。
カレンがそこまで大胆に決断したこと自体はそこまで驚くべきことじゃない。上流階級との繋がりが得られる職種を選んでいた辺り、結構前から機会が巡るのを待っていたのかもしれない。もしくは、自分がつかみ取るきっかけを探していたとか。
「子はいつかは親元を巣立つものだけれど……こんなに早いとは思わなかったわ」
お母さんは窓から外を眺める。悲しみと寂しさのあまりに涙が頬を伝った。
「イサベルはもう戻ってこれないの?」
「……ええ。貴族の娘になったらただの一般庶民じゃあおいそれと近寄れないもの」
お母さんが指し示したのは机の上に置かれた書面だった。今後カレンに関わることを禁ずる旨の誓約書のようだ。貧民が傍にいるだけでカレンの価値が落ちる、とでも思っているのだろう。良くある話だ。
「でもわたしはずっとお母さんの傍にいるから」
「そう言わないの。素敵な旦那様が見つかったらカレンだって家を離れなきゃ駄目よ」
この日、私は男爵令嬢となるのをまぬがれ、代わりにカレンが男爵令嬢となった。
そして……この時を境に私はイサベルでなくなった。
カレンがイサベルに成り代わったから。
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