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第3-2章 私は事後処理に追われました

断罪の正妃は天闘の寵姫を断罪しました

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「貴女が正妃? そちらの王様はお転婆娘が好みなのね」
『そなたが女教皇だと? 他の聖女共はよほどのボンクラなのだな』
「それで、教国には何の用? 団体さんを引き連れて観光にいらっしゃったのかしら?」
『偽りの教えをもとに築き上げた都市に用など無いわ。だが安心せい。ここには侵略する価値も無いからな』
「天闘の寵姫を返してほしいみたいなことを聞いたけれど、用件はそれ?」
『うむ。マジーダは妾が管理するハレムの一員。捕虜にしているのは分かっておる』

 それからの会話は互いに母国語に切り替えましたが、私を始めとする通訳を通さずに成立していました。つまり、共に相手の言葉を理解しつつも自分の言語で応対しているわけですか。……意地っ張りですね。

「彼女のせいで我々は聖地を失ったし、多くの尊い命を失ったのよ。まさかタダで引き渡せと仰るつもりなの?」
『聖地はもともとそなた等が奪ったものを返してもらったまでだ。犠牲はお互い様であろう。無論、対価は払う。沖合に停泊させた船に乗せた人間の捕虜と交換でどうだ?』
「……そちらは一般庶民か一般兵士、こちらは寵姫。割に合わないのだけれど」
『当然寵姫に見合う頭数は揃えてきたつもりだ。まあ、断るのであればこちらで処理するまでだが』
「……。分かったわ。手続きしてくるからちょっと待っていなさい」
『さすがアウローラだ。話が早くて助かる』

 交渉は肩透かしなぐらいあっけなく成立しました。二人は立ったまま書面にそれぞれの条件を書き記し、下側に自分の名と冠名を記します。互いが信じる神の名のもとに誓われ、決して上辺だけの取り決めではないのだと内外に示しました。

 手旗信号で沖合の船に合図が送られたのは一旦アウローラが去ってからすぐでした。聖国側の軍艦と睨み合っていた船が動き出し、やがて港に着岸します。

 船が岸壁に固定され、聖国で捕まっていた人達が下船した頃、海に飲まれて溺れかけていたところを救出した獣人兵士の捕虜が引き連れられてきました。彼らはラーニヤの指示による誘導で船に乗り込んでいきます。多くの者が偉大なる神へ感謝を捧げていました。

 そして、最後にマジーダが補導されてきました。枷を外された彼女は……どういうわけかヌールルフダーの姿を確認した途端に恐怖に支配されたようです。歯を鳴らし、体や脚を震わせ、一歩もその場から動かなくなりました。

『マジーダ姫。はよう来い。いつまで妾を待たせるつもりだ?』
『も、申し訳ございません……』

 その怯えようからはあれだけ乱暴だったかつての在り様は見る影もありません。やっとの思いでヌールルフダーの傍までやって来たマジーダは、彼女の前に跪きました。マジーダを見下ろすヌールルフダーは笑みこそ浮かべていますが目が全く笑っていません。

『そなた、ラーニヤ姫の反対を押し切って逃亡する人間共を追撃したそうだな。そなたの判断に違いないか?』
『仰る通りでございます……』
『妾は捨て置けと申したのだが王たる陛下がそなたの帰りをお望みでな。陛下の寛大なお心に感謝することだな』
『陛下のお手を煩わせたこと、心よりお詫び申し上げます……』
『だが、妾は独断専行し方々に迷惑をかけたそなたを許さぬ。よってそなた達寵姫を取り仕切る者として罰を与える。覚悟は良いか?』
『……!?』

 罰、と言葉を発してヌールルフダーはマジーダへと手をかざしました。マジーダは今にも泣きだしそうな有様でヌールルフダーへと垂れていた顔をあげます。

『陛下、どうかお慈悲を……!』
『言い訳は地獄の悪魔にでもするがよい』

 次の瞬間でした。マジーダの身体が自然に燃え始めたのです。それも自然発火程度ではなく火柱が立つほどの業火です。始めの方こそマジーダは悲鳴をあげましたが、すぐに声が出なくなります。炎の中でもがき苦しむ様も短いうちに収まりました。

 ヌールルフダーが手を下げた直後、火柱は嘘のように消えました。しかし周囲の温度やもはや炭のように黒い塊と化したマジーダの焼死体が決して夢ではなかったことを物語っています。

 周囲の者は言葉も出ませんでした。アウローラやエレオノーラも今の顛末が信じられないとばかりに目を見開いています。ラーニヤともう一人の寵姫は辛そうな表情をしていました。当の処刑を行ったヌールルフダーだけが無表情のままです。

 これがヌールルフダーの奇蹟、断罪……!
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