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第3-1章 私は聖地より脱出しました

聖域の聖女は聖地に帰還しました

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「申し上げますリッカドンナ様! アウローラ様方が戻られました!」
「本当!?」

 聖地に居を構えた市民の避難がほぼ終わりに差し掛かり、次は市街地を囲うよう配備されていた聖国軍と遠征軍の撤退準備に追われていた頃でした。その報告は久しぶりの吉報であり、それを聞いたその場に居た者は誰もが喜びの声をあげました。

 戦争が始まる前に私達が奉仕活動をしていた遠征軍の駐屯地に向かうと、大勢の兵士達が疲れ果てた様子で休憩していました。そんな中、リッカドンナの姿を捉えたアウローラが一生懸命駆け寄ってきて、彼女を抱き締めました。

「リッカドンナちゃん! 無事だったのね! もう心配で心配で……!」
「あ、アウローラ様苦しいです少し離れてください……!」

 ぎゅうっと擬音を付けたくなるぐらい強く抱き締められたリッカドンナの顔はアウローラの胸にうずめられてしまいます。わりとアウローラの胸が豊満だったためかリッカドンナは解放された後大きく息を吸ったり吐いたりしました。

「申し訳ありません。聖地守護の任務を果たせずに……」
「仕方がないわ。それだけ彼らが本気だったってこと。わたしが留まっていても時間の問題だったでしょうね」
「……多くの人を死なせました」
「リッカドンナちゃんは頑張ったわ。神様だって許してくれるわよ」

 こうしてみると本当に母娘のようですね。先ほどまでは私達の先頭に立って立派な姿を見せてくれたリッカドンナも、自分の弱さをさらけ出せる相手がいるのは救いなのかもしれません。

 ようやく満足してアウローラはリッカドンナから離れ、リッカドンナはみっともない真似をしたと謝罪。親しい絆を見せてくれた二人は聖女の顔に戻っていました。なごんでいた双方に付き従っていた神官や騎士達も顔を引き締めます。

「聖地が攻められてるって報告を聞いて強行軍で戻って来たから、ここにいる兵士さん達は戦力として数えられないわ」
「もう一度聖域の奇蹟を発動出来ないんですか?」
「広範囲に聖域をかけようとするには相応の儀礼が必要なの。夜通しで準備すればやれなくはないけれど、きっとすぐ壊されちゃうわよ」
「……やっぱり、ここは明け渡さなきゃ駄目なんですね」
「ええ。リッカドンナちゃんの決断にこっちも従うわ」

 ふと窺うと先ほどまで疲労困憊な様子で座り込んでいた兵士は駐屯地の撤収作業に入っていました。おそらく一睡もせずに戻ってきてくれたでしょうに、本当にお疲れ様です。安息の奇蹟を施したいのは山々ですが、彼らにはまだ張り切ってもらわねば。

「事情はさっき聞いたわ。女性や子供を優先させて逃がすのよね」
「はい。男性には総出で戦ってもらって港のある沿岸地区を維持してもらおうかと思います。何とか踏みとどまれたら次の便で脱出出来ますから」

 あ、ちなみにこの解決策は私が提案しました。一回で半分ほど詰められるのなら、一旦女子供を遠東島国に降ろした後、空になった船には聖国に戻ってもらい、今度は乗せきれなかった男性を避難させるんです。

 ……なお、あくまで聖国市民のみを勘定すれば、の話です。聖国を守るために派遣された遠征軍は頭数に入っていません。彼らが脱出するには三往復目が必要となります。どんなに急いでも十日前後はかかるでしょう。

「聖地を明け渡して許してもらえないかしら?」
「あたし達を根絶やしにしようとする過激な奴もいますから、難しいかと」
「でも逃げるなら追わないって考えてる人達もいるんでしょう? 必死に抵抗したら考えを改めてもらえるかしら……?」
「相手がどう転ぶかまではあたしには……」

 聖国軍は城壁内側から徐々に撤退を開始しました。完了すると次に城壁を守っていた部隊が港のある西側へと退却を進めます。最後に遠征軍がしんがりの形で寂しくなった聖地の市街地を突き抜けていきます。

 アウローラは彼らを守るべき最後尾で同行しました。リッカドンナや私達はそんな彼女を守るべく固まりました。どうせラーニヤの遠見の奇蹟で私達の動向は把握されているんです。分散するよりは追手に対処しやすいでしょうから。
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