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第3-1章 私は聖地より脱出しました
私達は熱く口づけを交わしました
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「リッカドンナ様は何か妙案がありますか?」
「港の方向はまだアイツらに攻められてないから、まずは市街地の人達を避難させないと。それが終わったら私達は聖地を放棄して港に撤退する。獣人達もさすがに放棄した聖地に目もくれずに私達を追う真似はしないでしょうね」
「敵軍の全てがそう動くとは限りません。別動隊を追撃戦に向かわせる可能性があります」
「じゃあキアラには何かいい案があるわけ? 敵軍の侵攻を抑え込む起死回生の一手がさ」
リッカドンナは私と会話する間も矢継ぎ早に配下の者に指示を送ります。聖女の命令を受けた伝令が散らばり、彼女の方針を聞いた城壁を守る兵士達の多くが聖女がまだ希望を捨てていないと意気込みを新たにしました。
「……ありますが、成功しない可能性の方が大きいかと」
「あるの!?」
リッカドンナは顔を輝かせて私を食い入るように見つめてきましたが、浮かない私に色々と察したようです。私の両腕を掴んだ手をすぐに放しました。
「要するにこちらの防御を容易く突破する寵姫達を足止めすればいいんですよね? でしたら昨日と同じく彼女達を釣る餌を用意すればよろしいかと」
「聖女に目もくれずに戦局を優勢にするだけに専念されちゃったらどうしようもないわ」
「では、彼女達が出向かなければ負けてしまうような状況を作ってしまえばよろしいかと」
「そんな都合の良い手段があれば苦労は――」
とまで言ってようやくリッカドンナも私の意図が分かったようです。始めは憤りを露わにしましたがすぐさま引っ込め、次には思いつめた表情をさせて深く考え込み、最後は悔しそうに深刻な顔つきになりました。
「……そうするしかないわね。後が怖いけれど」
「とにかく今を生き延びることだけを考えませよう。次の悩みは次考えればいいです」
「それで次のあたしは今のあたしを恨むのよね。どうしてその時考えなかったのよ、ってね」
「私だって頻繁にありますよ」
提案した私から伝えようかと意思表示をしましたがリッカドンナが聖女として命じると言ってきかなかったので譲ることにしました。ようやく先が見えてきた私達は互いに顔を見合わせ、力強く頷き合いました。
「神も言ってくれるでしょう。ここで死ぬ定めではない、ってね」
「ええ、必ずや聖都に帰りましょう」
リッカドンナと別れた私を待っていたのはチェーザレでした。私を案じてくれた彼は危なかったとか無事で良かった等と言ってくれました。まだ危機は去っていませんがとりあえず彼のもとまで戻ってこれたのは僥倖と言えましょう。
「それで、キアラにお願いされたご褒美なんだけれど……」
「ああ、ソレですか。考えてくれましたか?」
「こんな短時間じゃあ何も用意出来なかった」
「別に物品を要求しているんじゃありません」
実家はそれなりに裕福ですから欲しいものは大抵揃えられました。なので友人から贈り物が届けられた場合、物自体より相手が何をどう考えてその品を選んでくれたかの過程、即ち相手の心を有難くいただくことにしているのです。
ですから私のために悩んでくれたのならそれで満足してもいいのですよ。
「別に今でなくても聖都に戻ってからでも――」
「キ……キアラが喜んでくれるかは分からないんだけれど、いいか?」
「? 。別に構いませんが……ひゃぁっ!?」
言葉は途中で途切れて悲鳴が出てしまいました。何しろ突然チェーザレに抱きしめられたのですから。
「心配した。キアラが無事で良かった」
「ちょっとチェーザレ! み、皆が見ていますから……!」
「俺は俺の全部をキアラに捧げたい。それじゃあ駄目か?」
「ぜ、全部を……」
恥ずかしくはありませんでした。だって胸が高鳴ってチェーザレの温かさと体の大きさを感じるのが精一杯でしたから。耳元で囁かれる声は私の脳を溶かしてしまいそうなぐらい甘くて響きます。まさに魔性の魅力でした。
腕を離したチェーザレと私は互いの息がかかるぐらいの距離で見つめ合いました。もう私の瞳には彼しか映りません。心臓がうるさいぐらいに鼓動して、顔も体も熱くなるのを自覚しました。興奮、そう……私は彼に心を乱されています。
「ご褒美としては多すぎます。お返しが必要ですね」
「お返し?」
「王子様、私なんか如何でしょうか?」
「キアラ……」
こうなったらもう必然でしょう。
私とチェーザレは熱く口づけを交わしたのでした。
永遠にこの時間が続けばいいのに、と思ったのはこれが初めてです。
「港の方向はまだアイツらに攻められてないから、まずは市街地の人達を避難させないと。それが終わったら私達は聖地を放棄して港に撤退する。獣人達もさすがに放棄した聖地に目もくれずに私達を追う真似はしないでしょうね」
「敵軍の全てがそう動くとは限りません。別動隊を追撃戦に向かわせる可能性があります」
「じゃあキアラには何かいい案があるわけ? 敵軍の侵攻を抑え込む起死回生の一手がさ」
リッカドンナは私と会話する間も矢継ぎ早に配下の者に指示を送ります。聖女の命令を受けた伝令が散らばり、彼女の方針を聞いた城壁を守る兵士達の多くが聖女がまだ希望を捨てていないと意気込みを新たにしました。
「……ありますが、成功しない可能性の方が大きいかと」
「あるの!?」
リッカドンナは顔を輝かせて私を食い入るように見つめてきましたが、浮かない私に色々と察したようです。私の両腕を掴んだ手をすぐに放しました。
「要するにこちらの防御を容易く突破する寵姫達を足止めすればいいんですよね? でしたら昨日と同じく彼女達を釣る餌を用意すればよろしいかと」
「聖女に目もくれずに戦局を優勢にするだけに専念されちゃったらどうしようもないわ」
「では、彼女達が出向かなければ負けてしまうような状況を作ってしまえばよろしいかと」
「そんな都合の良い手段があれば苦労は――」
とまで言ってようやくリッカドンナも私の意図が分かったようです。始めは憤りを露わにしましたがすぐさま引っ込め、次には思いつめた表情をさせて深く考え込み、最後は悔しそうに深刻な顔つきになりました。
「……そうするしかないわね。後が怖いけれど」
「とにかく今を生き延びることだけを考えませよう。次の悩みは次考えればいいです」
「それで次のあたしは今のあたしを恨むのよね。どうしてその時考えなかったのよ、ってね」
「私だって頻繁にありますよ」
提案した私から伝えようかと意思表示をしましたがリッカドンナが聖女として命じると言ってきかなかったので譲ることにしました。ようやく先が見えてきた私達は互いに顔を見合わせ、力強く頷き合いました。
「神も言ってくれるでしょう。ここで死ぬ定めではない、ってね」
「ええ、必ずや聖都に帰りましょう」
リッカドンナと別れた私を待っていたのはチェーザレでした。私を案じてくれた彼は危なかったとか無事で良かった等と言ってくれました。まだ危機は去っていませんがとりあえず彼のもとまで戻ってこれたのは僥倖と言えましょう。
「それで、キアラにお願いされたご褒美なんだけれど……」
「ああ、ソレですか。考えてくれましたか?」
「こんな短時間じゃあ何も用意出来なかった」
「別に物品を要求しているんじゃありません」
実家はそれなりに裕福ですから欲しいものは大抵揃えられました。なので友人から贈り物が届けられた場合、物自体より相手が何をどう考えてその品を選んでくれたかの過程、即ち相手の心を有難くいただくことにしているのです。
ですから私のために悩んでくれたのならそれで満足してもいいのですよ。
「別に今でなくても聖都に戻ってからでも――」
「キ……キアラが喜んでくれるかは分からないんだけれど、いいか?」
「? 。別に構いませんが……ひゃぁっ!?」
言葉は途中で途切れて悲鳴が出てしまいました。何しろ突然チェーザレに抱きしめられたのですから。
「心配した。キアラが無事で良かった」
「ちょっとチェーザレ! み、皆が見ていますから……!」
「俺は俺の全部をキアラに捧げたい。それじゃあ駄目か?」
「ぜ、全部を……」
恥ずかしくはありませんでした。だって胸が高鳴ってチェーザレの温かさと体の大きさを感じるのが精一杯でしたから。耳元で囁かれる声は私の脳を溶かしてしまいそうなぐらい甘くて響きます。まさに魔性の魅力でした。
腕を離したチェーザレと私は互いの息がかかるぐらいの距離で見つめ合いました。もう私の瞳には彼しか映りません。心臓がうるさいぐらいに鼓動して、顔も体も熱くなるのを自覚しました。興奮、そう……私は彼に心を乱されています。
「ご褒美としては多すぎます。お返しが必要ですね」
「お返し?」
「王子様、私なんか如何でしょうか?」
「キアラ……」
こうなったらもう必然でしょう。
私とチェーザレは熱く口づけを交わしたのでした。
永遠にこの時間が続けばいいのに、と思ったのはこれが初めてです。
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