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第3-1章 私は聖地より脱出しました

私達は一旦寵姫達を退けました

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 自分の膝元から胸辺りまでの長さがある巨大な盾を構えた騎士達が隙間から矛を向けて立ちはだかりますが、それを見越したように彼女は大地を蹴って宙を舞いました。

 放物線の先は騎士達やチェーザレを超えて私やリッカドンナの位置まで到達しています。このままその爪を振るって私達を引き裂けば任務完了、と言った辺りでしょう。これまでのやりとりで私達に戦闘能力が無いと判断したのでしょうが……。

「飛びましたね?」
『ッ!?』

 その瞬間を待っていましたよ。

 私は厚手の祭服に隠していた武器を取り出して迫りくる彼女へと向けました。既に弦は引き切っていますから後は発射するだけ。既に攻撃態勢に入っていたマジーダは思わぬ展開に一瞬驚きを露わにしました。

 私は隠し持っていたクロスボウの引き金を引きました。
 マジーダは咄嗟に顔と喉元を覆い隠すように腕を前に出しました。
 矢は私が狙った額に刺さらずに毛で覆われた太い腕に突き刺さりました。

 マジーダは私達のすぐ脇を通過して地面に着地します。私はもはや役目を終えたクロスボウを捨ててマジーダから距離を離しました。向こう側のリッカドンナはロザリアが手を引っ張って退避させているようです。

『小賢しい真似をっ!』
「生き残る知恵と仰ってくださいませ!」

 護身術程度が戦場で通じるわけが無く、剣も振るえない弓も引けない体たらくでは自分の身を守るにはスリングショットやクロスボウ等の武器に頼らざるを得ません。物騒なと言うなかれ、戦闘用の奇蹟が無い以上戦場では工夫が必要だったのですよ。

 そして、マジーダは再び聖女を守護する騎士達と戦い始めたのですが、先ほどと異なり一方的な展開にはなりません。俊敏な彼女の動きにも反応して盾で受け止めたり体当たりで間合いを詰め、終いには攻勢に打って出たのです。

「さっき騎士を手あたり次第触ってたのは活性の奇蹟を施したからか?」
「ご明察。寵姫達が言い争っている間にやらせていただきました」

 種明かしをするなら私が一時的に補助しているのです。それにしてもさすがは聖女を守る任務に就いているだけあって強いですね。マジーダは何とか致命傷を負わないように攻撃をかわしつつ反撃をするのが精一杯のようです。

 天闘の寵姫を足止めしている間に残った兵士達がラーニヤへと立ち向かいます。彼女の方は戦闘訓練を受けているとはいえ一騎当千に至る奇蹟持ちではないので、獣人特有の動きに惑わされなければ対処のしようがあります。

『マジーダ姫!』
『……っ! ああ分かってるさラーニヤ姫!』

 最初に大きく飛び退いたのはマジーダでした。彼女はリッカドンナや私と一定の距離を保ちつつぐるっと回ってラーニヤと合流します。兵士達も退避行動を取った黒猫を追撃しようとはせず、三度相対する状況へと戻りました。

 仕切り直しか、と思いきや、マジーダが私を指差しました。

『おいお前、名前を聞こうじゃないか』
「はい? 私の?」

 戦場で名乗り合う程夢想家ではありませんし名乗るほどの者でもありません。むしろ名が知れ渡ってしまえば泥沼に足を踏み入れるに等しく、愚行と言えましょう。とは申せ、これ以上天闘の奇蹟を持つ彼女を挑発したくはありませんから……。

「ただのキアラです。あいにく聖女でも何でもありません」
『聖女キアラか。忘れないよ』
「いやだから私は――」

 抗議しようとしましたがその時には既に二人は踵を返して逃走していきました。向こうから「追え」だの「逃がすな」だの勇ましい命令が聞こえますが、騒々しさから察するに一蹴されているようです。

 二人の寵姫を退けて安堵した一同は張り詰めた空気を解きました。力なくその場に座る者、安堵の吐息を漏らす者、中には私が応急処置した兵士に駆け寄る者もいました。騎士や女官達は真っ先にリッカドンナの無事を確認する辺りさすがです。

「……っ」
「お疲れ様。だけど無茶しすぎだ」

 緊張が解けて力が緩んだ私の身体はその場に崩れ落ち……る前にチェーザレに支えられました。
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