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第3-1章 私は聖地より脱出しました
私達は寵姫達と戦い始めました
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「つ、強い……!」
獣人の身体能力は人よりはるかに勝っている、と知識では頭にありましたが、実際に目の当たりにすると戦慄せざるを得ません。いくら鎧に身を包み盾をかざして剣を構えようと、大型肉食獣の前にはなす術が無いのだと思い知らされてしまいます。
「一対一ではとても敵わないわ! 取り囲みなさい!」
兵士達の間に恐怖が蔓延る前にリッカドンナが檄を飛ばします。未だに二人の寵姫に続く敵の姿は肉眼で捉えられないので孤立したまま。いかに強かろうと数の暴力でねじ伏せるつもりなのでしょう。
しかし獣人達の俊敏さに兵士達は全く反応出来ず、包囲しようと試みても隙間をすり抜けられてしまうのです。人型なので基本的には二足歩行ですが、時には四本足で大地を蹴って後ろに回り込んだりもしてきました。
「蛮族共が、なめるな!」
聖女を守っていた私より二回り以上も背が高く巨人を思わせる巨漢の騎士が鉄の塊同然の斧を振り下ろします。他の兵士を攻撃していたマジーダの体勢では回避行動は取れません。確実に両断出来た、と周りの誰もが確信したでしょう。
ところが、私……いえ、私達は目の前の光景が信じられませんでした。
『はっ、貧弱貧弱ぅ!』
マジーダは両の拳を突き合わせて斧を挟み、その勢いを殺し切ったのです。
巨漢の兵士がいくら力を籠めようとびくともせず、逆にマジーダがそのまま腕をひねると騎士の手から斧が奪われてしまいました。マジーダは奪い取った斧を乱雑に放り捨てます。その斧が地面に落ちて轟音を立てるより前に、マジーダは獲物に襲い掛かりました。
『しゃあああっ!』
それは正しく咆哮でした。体重差をもろともせず巨漢の騎士に体当たりすると勢いそのままに押し倒します。鎧兜で覆われており地面との激突や寵姫の突撃で怪我は負っていないようでしたが、その衝撃までは殺されきれません。
そんな無防備となった巨漢の騎士の喉元に、マジーダは牙を突き立てました。そして一気に喉の肉を食い千切ります。かつてわたしがテレビのドキュメンタリー番組で目にした獰猛な肉食獣が獲物を仕留めるそのままの様子が目の前で行われたのです。
『それ以上はさせない』
「……っ! チェーザレ、援護を!」
無論、二人の寵姫達の蹂躙をただ茫然と眺めていたわけではありません。いかに私が授かった奇蹟が戦闘に適さなくてもやれることはあります。
私が動いたのはマジーダが何名かをその爪の餌食にしてからでした。全速力で今正に命の炎が燃え尽きようとしている兵士へと駆け付け、手早く回復の奇蹟を施します。死なない程度で打ち切ったので即座の復帰はかないませんがね。
何名かの命を繋ぎ止めたところでラーニヤに気付かれてしまい、飛び掛かってきました。私の意を酌んで傍から離れなかったチェーザレは呼びかける前にラーニヤに立ち塞がり、交戦を開始します。
『……っ!?』
「おおおっ!」
正直、チェーザレには時間稼ぎさえ務めてもらえば十分だと考えていました。本職の兵士や歴戦の騎士すらもろともしない獣人を相手に、例え私が活性の奇蹟を施して援護しても、太刀打ち出来るとは思えなかったからです。
ところが、意外にもチェーザレは盾と剣を駆使してラーニヤと戦えていました。大の大人を吹っ飛ばす程の蹴りは正面から受け止めずに盾で受け流し、大振りの脚に剣で少しずつ切り傷を残す立ち回りをしていました。
チェーザレの剣技は初学年ながらも学院内でかなりのものとなっているとは聞いていましたし、たまに練習風景を見学しましたけれど、ここまで強くなっていたとは。守られる私に不安を感じさせないという強い気迫も見て取れます。
……そうですか。私、今チェーザレに守られているんですね。
獣人の身体能力は人よりはるかに勝っている、と知識では頭にありましたが、実際に目の当たりにすると戦慄せざるを得ません。いくら鎧に身を包み盾をかざして剣を構えようと、大型肉食獣の前にはなす術が無いのだと思い知らされてしまいます。
「一対一ではとても敵わないわ! 取り囲みなさい!」
兵士達の間に恐怖が蔓延る前にリッカドンナが檄を飛ばします。未だに二人の寵姫に続く敵の姿は肉眼で捉えられないので孤立したまま。いかに強かろうと数の暴力でねじ伏せるつもりなのでしょう。
しかし獣人達の俊敏さに兵士達は全く反応出来ず、包囲しようと試みても隙間をすり抜けられてしまうのです。人型なので基本的には二足歩行ですが、時には四本足で大地を蹴って後ろに回り込んだりもしてきました。
「蛮族共が、なめるな!」
聖女を守っていた私より二回り以上も背が高く巨人を思わせる巨漢の騎士が鉄の塊同然の斧を振り下ろします。他の兵士を攻撃していたマジーダの体勢では回避行動は取れません。確実に両断出来た、と周りの誰もが確信したでしょう。
ところが、私……いえ、私達は目の前の光景が信じられませんでした。
『はっ、貧弱貧弱ぅ!』
マジーダは両の拳を突き合わせて斧を挟み、その勢いを殺し切ったのです。
巨漢の兵士がいくら力を籠めようとびくともせず、逆にマジーダがそのまま腕をひねると騎士の手から斧が奪われてしまいました。マジーダは奪い取った斧を乱雑に放り捨てます。その斧が地面に落ちて轟音を立てるより前に、マジーダは獲物に襲い掛かりました。
『しゃあああっ!』
それは正しく咆哮でした。体重差をもろともせず巨漢の騎士に体当たりすると勢いそのままに押し倒します。鎧兜で覆われており地面との激突や寵姫の突撃で怪我は負っていないようでしたが、その衝撃までは殺されきれません。
そんな無防備となった巨漢の騎士の喉元に、マジーダは牙を突き立てました。そして一気に喉の肉を食い千切ります。かつてわたしがテレビのドキュメンタリー番組で目にした獰猛な肉食獣が獲物を仕留めるそのままの様子が目の前で行われたのです。
『それ以上はさせない』
「……っ! チェーザレ、援護を!」
無論、二人の寵姫達の蹂躙をただ茫然と眺めていたわけではありません。いかに私が授かった奇蹟が戦闘に適さなくてもやれることはあります。
私が動いたのはマジーダが何名かをその爪の餌食にしてからでした。全速力で今正に命の炎が燃え尽きようとしている兵士へと駆け付け、手早く回復の奇蹟を施します。死なない程度で打ち切ったので即座の復帰はかないませんがね。
何名かの命を繋ぎ止めたところでラーニヤに気付かれてしまい、飛び掛かってきました。私の意を酌んで傍から離れなかったチェーザレは呼びかける前にラーニヤに立ち塞がり、交戦を開始します。
『……っ!?』
「おおおっ!」
正直、チェーザレには時間稼ぎさえ務めてもらえば十分だと考えていました。本職の兵士や歴戦の騎士すらもろともしない獣人を相手に、例え私が活性の奇蹟を施して援護しても、太刀打ち出来るとは思えなかったからです。
ところが、意外にもチェーザレは盾と剣を駆使してラーニヤと戦えていました。大の大人を吹っ飛ばす程の蹴りは正面から受け止めずに盾で受け流し、大振りの脚に剣で少しずつ切り傷を残す立ち回りをしていました。
チェーザレの剣技は初学年ながらも学院内でかなりのものとなっているとは聞いていましたし、たまに練習風景を見学しましたけれど、ここまで強くなっていたとは。守られる私に不安を感じさせないという強い気迫も見て取れます。
……そうですか。私、今チェーザレに守られているんですね。
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