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第3-1章 私は聖地より脱出しました

私は慈愛の大聖女について思い返しました

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 今日も早めに奉仕を終えて撤収することとなり、リッカドンナはアレッシアと共に彼女が所属する修道院へと向かいました。私はリッカドンナが解散していいと言われたのでお言葉に甘えて王宮へと戻ります。

 正直、聖女が奉仕活動中に切り上げて充分な食事、休憩、睡眠を取れるなんて夢にも思いませんでした。一刻も早くより多くの人を救うべく不眠不休が当たり前だと考えていたので。きっと時と場合にもよるでしょうが、今のやり方は賢いと思います。

「どうしたんだよキアラ。アイツに何か思うところがあったのか?」

 帰る途中、やはり私の異変に気付いていたようで、チェーザレが心配そうに声をかけてくれました。リッカドンナ達一行は途中で降りたため、幌馬車の中は私達二人だけです。不安を見抜いて一人で抱えさせまいとする気持ち、私にはとてもありがたいです。

「慈愛の大聖女、って聞いたことありますか?」
「知らない奴なんていないだろ。歴史書にも書かれてるし、逸話は物語にもなってるな」
「アレッシアの奇蹟はどうも彼女を彷彿とさせるのです」

 慈愛の大聖女アンナ。

 絶望と混沌が世界を支配していた時代が去り、安寧と平穏を取り戻した世の中において人々の尊敬と希望を一身に集めた聖女。その奇蹟である慈愛は人々から怒りや憎しみから解放し、いかなる争いをも収めた、と記録されています。

 彼女の功績は忘れられぬように今の時代でも語り継がれています。そして聖女が目指すべき尊き者として大聖女と呼ばれるようになりました。歴史上それ程までに名が知れ渡っている聖女は指を折る程度でしょう。

「ちょっと待ってくれ。それじゃあ何だ、キアラはアレッシアが大聖女の生まれ変わりとでも言いたいのか?」
「そこまでは言いません。ただ同じ奇蹟が後の世で授けられたとしても不思議ではないと思っています」

 そして、大聖女の偉業としてもう一つとして三名の魔女の断罪があげられます。

 大まかな事実は以前セラフィナと一緒に見た劇の通りです。ただし魔女へと堕ちた動機については未だに明かされていません。劇や教会の公式記録は当然、歴史書や伝記ですら憶測が並べられているだけなのです。

 その多くは語るに値しませんが、一つ興味深い推察がありました。苦しみと悲しみから救う奇蹟として竜退、脱出、復活は必要とされたが、平和が戻った世界は慈愛を必要とした。魔女となった、されたのは時代の流れだ、と。

 冗談じゃないとの個人的な感情は置いておき、確かに魔竜を殴り倒したり脅威から逃げ伸びる奇蹟は平穏な毎日を送るには不要な代物とも納得できます。舞台上から蹴落とされたのは理不尽ですが退場は致し方なかったのかもしれません。

「……じゃあ、アイツはキアラの敵なのか?」
「いえ、アンナ当人はとても良い子でしたよ。……表向きは」
「表向きは、って……何されたんだよ?」
「別にアンナから迫害された覚えはありませんから安心してください」

 アンナを始めとして後進の聖女や候補者達は私達三人をとても慕っていました。私達も彼女達が立派な聖女となるよう可愛がったものです。特に世界は愛に溢れていると語っていたアンナは私達から見ても太陽のようにとても温かく輝いていました。

 ただ、アンナはあまりに純粋過ぎました。
 愛だけでは人は満たされないとは分かっていませんでした。
 愛を信じれば人は必ず救われると信じて疑っていなかったのです。
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